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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第21譚{斜塔のダンジョン 上層}
162/307

⑯モグラの宿で腹ごしらえ。


「ボポリコ魚のムニエル定食、山菜とクニシャラのバターソテー。ジュース付き。」


 俺はおぼんに乗った香り高い料理のセットをキャラバンのダイニングテーブルに乗せた。


「どうも~。」


「で、こっちがモグラ宿の日替わり定食と、名物モグラ丼の(上)に、コーヒーと週替わりデザートのセット。それと、採れたて根菜のきんぴら炒め。」


「はい、どうも。」


 ソフィアの飯は4人分位に感じるボリューム感だ。冒険者の為の飯だと書いてあったが、中々にコスパの良さを感じる。良心的じゃないか、モグラの宿。食べログが有ったら学生が歓喜するレビューになりそう。


「じゃあ俺たちはレストランで食ってくる。」


「は~い。」


 既にメセナは白米をかきこみ、頬張った口で返事をする。


「来るか?」


 そのまま視線は運転席へ、置物のように佇んでいるエルノアと目を合わせ、俺はローブを羽織った。エルノアはうんともすんとも言わないが、素直に近付いて来てはいつもの調子で俺の腕から肩に飛び乗り、フードの中に潜って丸まった。


「器用な子だな~。」


 メセナはスプーンを咥えながら言った。


「この位は余裕だろ。冒険者なんだし。」


 俺は何気なく放った言葉が、少し墓穴を掘っていたような気がして、一瞬だけメセナの瞳を覗き込んだ。案の定メセナは目を細めて「ふーん」と声を漏らす。


「い、いやほら、うちの仲間はみんな優秀だからさ、アベレージが高いってわけよ。今ならマスターシーカー2人も仲間になってアベレージステータス爆上がりみたいなね。感じで。ほら、俺たち仲間だろ?」


 何とか話題を逸らす試み。


「それを言う奴は大抵浅い関係性なんだよ。まぁ、仲間であるかと問われれば、勿論私たちは仲間で有るわけなんだけれど。仲間に隠し事するような奴がいたら、この先思いやられるなぁなんて思ったりもしちゃったりするんだけれど。」


 メセナは呆れたような顔で言った。


「そうだな。」


 ソフィアは何故か神妙な面持ちでそう続ける。悲しそうな、後ろめたさがあるような面持ち。そう、それは仲間を裏切るタイプの奴がする顔。


「また焼き魚か…。」


 思い違いだったらしい。


「そうだマーヤ。魚は好きかい?」


 縛られたままのマーヤは、ソフィアの問いかけに対し満面の笑みで「はい!」と答えた。なるほど初めから外れを引いたら、そうするつもりだったな?



――――――――


{第10層・モグラの宿『大客席』}


「プーカ、10層パフェ!!!」


「ダメだ生クリーム系は、腹を下す可能性があるやつ全却下。もっと栄養がある奴を頼みなさい。」


「えぇ~。」


 厨房には沢山のコックいたが、それぞれ調理する料理の専門性によって独自の厨房を持っていた。メニューにはそれぞれ番号が振られており、大客席、すなわち我々一般客が頼む場合は、注文した料理が完成し次第、番号が呼ばれる仕組みである。錦糸町のフードコートと一緒だ。いや、うどんは別か。


「へい、兄ちゃん。それはちげぇよ。」


 俺とプーカがメニューを仰ぎ見ていると、近くの席に座っていた酒飲みが声を掛けてきた。木製の樽ジョッキ。出た、また殴られる。


「ここの10層パフェは『しょっパフェ』って奴だ。今のえぇ……最先端を行くメニューで、別にデザートってわけじゃねぇよ。」


 おっさんの口からしょっパフェとかいう呪文が飛び出てきたことに、俺は身構えてしまった。


「なぁに、構えてんだお前。そんな怖がらず食ってみぃよ、最初は兄ちゃんらみてぇな若え層を狙ったメニューなんだ。口に合うはずだぜ。」


「――最初は?」


 言葉のほつれを見逃さない。それがシーカーの情報収集能力。例え、食レポだとしても。


「あぁ、初めは若者向けのボリューミーでキャッチーなメニューだった。ここのコックたちも若者が好きそうなの詰め込んでやったって息巻いていたんだ。それこそ革命だとか言ってな。しかしこのメニューが世に出るや早々に、モグラの宿には激震が走ったんでぇい。――あれ、十層まで来れるような若ぇ層、いなくね?ってな。可哀想になぁ、でも、それはそうだよな。だってそう、早々に若ぇ層は辿りつけそうにねぇから十層なんでぇい。」


――ソウソウうるせぇな。


「そこで哀れに思った俺達ベテランが試食。これが大ウケ。ダンジョンでは往々にして食欲不振に陥るでんなぁ?でもこの十層パフェは十層もの丼が、辛みのある薄味から始まり層を経るにつれコッテリとした丼に変化していくという楽しい丼だったんでぇい。しかも中の丼は日替わりメニューの食材を使っていたりするからこれがもうワクワク止まらんくて、」


「プーカこれにする!!」


 早口のオッサンが喋り終わる前に、目を輝かせたプーカが丼を指差して注文した。


「えぇ、じゃあ俺もこれでいいか…。十層パフェセット二つ。」


 俺は自分の意志を固め、フード中のの哺乳類へ首を傾けた。


「エルノア、どうする?これでいい?」


「はぁ?ふざけるな。なにがしょっパフェだ。丼ぶりじゃないか。ただの丁寧な猫まんまだ。これを作った奴は脳無しだろう。そもそも女子ウケというものを考えていない。ボクはテツと同じメニューにする。テツのもとに連れていけ。」


「じゃあ僕もこれ。」


 斜め後ろから、テツが十層パフェセットを指差していった。


「いいなぁ、私もこれにしておこう。」


 間髪入れず、テツと歩いていたリザも注文する。


「決まりだな。」


 俺は五本の指を立てて十層パフェセットを注文した。


「バカばっかだ。もっと上品なのが良かった…。上品でヘルシーで深い味わい…。」


 エルノアは寂しそうな小声でそう言った。しかし、ユーブサテラが揃って注文する久々の外食だ。こういうレストランは費用の問題であまり来ない。やはり自炊に比べたらコスパが良くないという訳だ。だからいっつも×印を出す{ユーブサテラ}の会計帳も、コスパの良いメニューを頼もうと息巻いているのだろう。


「おまたせ。」


 アルクは一人、別の食器に盛られたメニューを机の上に乗せた。


「わぁ、みんな一緒なんだね。美味しそうだね。じゃあ、ナナシからは一口貰うとしよう。その分、僕のイチオシもみんなに分けるからさ!」


 そのメニューはアルクが頼むに似つかわしくない薬膳料理だった。それも恐らく特上。


「珍しいな。」


 俺は上品な器に盛られた数種類のお粥やスープ、山菜で彩られたおかずの数々を見て感心する。なかなか美味しそうなチョイス。俺達とは対照的だが、結構有りだ。


「うん。実はこういうのが好きなんだよね。御飯もいっぱい食べれるんだけどね。まぁ、普段はこういう食材から真っ先に売っちゃうし、みんなの方がよく食べるから控えめなんだ。あんまり身体も動かさないし。でも今日はソフィアたちの奢りだからさ、みんなも遠慮なく頼めるし。」


 アルクはそう言って、用意した小皿をみんなに振り分けた。


――やばい、泣きそうだ。聖人じゃないか。何が十層パフェだ。俺は愚かだった…。


「なぁナナシ。」


 エルノアはそう声を掛けると、机の下に潜って人に変身し、俺の隣に座った。俺はすかさず羽織っていたローブをエルノアにかけ、フードを頭に被せる。


「なんだよ急に。」


「ボクそっちが良い。」


「はぁ?」


 エルノアはアルクの薬膳料理をじっと睨み、そのあと、俺の目を覗き込んで言った。


「あ っ ち が 良 い。」


「アルクに言えよ。」


 アルクは慌てたように答える。


「ぼ、僕はみんなに分けるつもりだよ!」


「嫌だ。これはトレードだ。トレードしろ。ボクのパフェ全部と交換。な?」


――横暴だ。


「え、えぇ……。」


 エルノアはそれから間髪入れず、戸惑うアルクの薬膳料理に用意されたスプーンを掴み舐った。


「はい、ボクの。」


「えぇ!?そ、そんなぁ…」


 これは流石に可哀想。


「何やってんのエルノア。」


「ボクは普段は猫の舌でご飯を食べている。だから味覚がうんたらかんたら」


 いつもの文句だ。…だから可哀想なボクは優遇されるべき時に優遇されるべきである。ってやつ。その言い分も往々にして分からなくは無いが、聖人アルクが報われないのは可哀想だ。


「僕は今日、丼って気分じゃなかったのに…」


 その一言に、サバンナのような{ユーブサテラ}の食卓で、もう一匹の獣が牙をチラつかせた。


「じゃあプーカの!!」


 プーカは二杯目へと手を伸ばす。一杯目は、と言えば既に完食済みだった。


「えぇ!!プ、プーカ…。いや良いんだ僕は、みんなが良ければ、みんなが笑顔なら…フフ。」


 完全に壊れた表情で笑うアルクに、天然な、何も考えていないような顔で、テツが鬼のような提案をした。


「頼めば良いじゃん。好きなだけ。」


 そして彼女は我が物顔で、メセナから預かっていた財布を机の上にトンと置いた。




 




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