⑭海鮮チゲ案
「マーヤで思い出したんだけど、思い出してしまったんだけど。第25層のシャングリラには美味しい海産物がうようよいるんだ。うちのクランの幹部にも変わった奴がいて、そいつは25層専門の漁師なんだけど、あそこの甲殻類は最高に香り高くてね。うーむ。チゲと言えば海鮮だろうか、やはり。」
メセナの言葉にマーヤが頷く。
「美味しいですよね!」
ほう、美味しいんですか……。でも。
「そこまで引っ張るのか。」
「別に~。言ってみただけだ。25層は、うん。現実的に考えれば20層辺りがあらゆる限界で……」
その時、メセナの石が震えた。唐突に震えたそれは通信用の鉱石である。一つのとある石を二分割にしたもので、特殊な檻に鉱石を入れ、衝撃を与えて光っている暇に声をかけると、片割れの石に共鳴し声が伝達される。つまりこの場合、何処かに有るメセナの鉱石の片割れが、メセナの鉱石へ音を届けようとしているということになる。
「本部からだ。」
メセナは鉱石の入った小さな檻をカラカラッと振って衝撃を与え、共鳴させる。
「どうした。」
本部という事は言わずもがな、斜塔街一層に置かれたフリーダム連盟の屋敷からだろう。
「メ、メセナさんですか!?――実は、先程25層で魚介を獲っていたヤマウが帰ってきたのですが。」
その声は神妙で、かつ、焦っているようなトーンだった。
「おぉ、噂をすればだ。それで?」
「それが、今年は滅茶苦茶獲れたそうです。ヤマウに言わせれば、セイレーンの量が減って魚介類が肥え、栄養を蓄えた為と。そして真実かどうかは、まだ…分かりませんが……、」
「どうした。」
「その…。」
男の声は苦しそうな声に変わり、呼応するように、メセナのトーンも落ち着いたものなった。
「いえ、言えません……!!」
鼻をすすり上げるような音がした。通話をする男の後ろでは、何やら慌ただしい様子のザワザワとした雑音が幾度となく聞こえてくる。
「構わない。言ってくれ。」
メセナも何かを察したかのように、真剣で、それでも相手を落ち着かせるような優しいトーンになった。
「ぼ...僕は、このフリーダムに入って以来、メセナさんを信頼し、尊敬しました。しかしメセナさんが深層に挑もうとしている今!こんなことを言いたくない!!少しでも貴方の負担を減らしたいのに!!こんな残酷で、裏切りのような事を、僕は!!――言いたくありません!!」
迫真の言葉を受け、メセナは一瞬戸惑い、優しい声で言葉を掛けた。
「――君らの負担は私の負担さ、大丈夫だよ。怒ったりも叫んだりもしない。一緒に考えよう。一緒に笑って、一緒に進んでいくんだ。フリーダムのことなら、幸せも、苦しみも、私は一緒に背負う覚悟だよ。」
しばらくの沈黙の後、男は決心したかのように息を漏らした。
「どうやら……、」
「あぁ。」
メセナは生唾を飲み込み、頷く。
「どうやら……!!――めっちゃ美味いそうです…!!」
?
『クソがァ!!!!!!!』
メセナはめっちゃ叫びながら、机に石を投げつけた。
「すみません…。フ、フリーダム条例第一項。『クランで獲れた一級品の食材はクラン員のそ、総意であれば、これを晩飯に出すこととする。また、付け合わせる売物もその限りでは無い。』に、乗っ取り、許可を……、海鮮バーベキューの許可を願います!!!!」
――第一項がそれかよ。
『ぐんぬぬぬぬ・・・・!!うおおおおおおおお!!!!!』
「め…、盟主‼」
『メイシュノナノモトニィイイ!!――許可します!!』
「あ、ありがとうございます!!」
『うわああああああああああああああああああああ!!!!!!』
かつて無いほど叫んだメセナは、通信石の檻を回し、魔力を遮断したのちに床へ叩きつけた。
『帰りだあ‷あ‷あ‷あ‷あ‷あ‷あ‷あ‷あ‷あ‷!!!!!!』
――うるさっ。この人、ダンジョン向いてないよ。
「ちょ、盟主うるさい、うるさいよ盟主。あの、うるさい。」
『――海鮮鍋にします!!』
します、じゃねぇよ。勝手に決めんな。
「魚介を入れよう、海鮮風チゲにしよう。なぁ、いいだろユーブサテラ。下層にこんだけ食材を運べることはそうそう無いんだ。最高の鍋を作ろう。な!?――蟹を入れよう。私はロブスターを取るから!!」
「俺は不安だよ、盟主。」
「任せろって、鍋奉行は私がやるから!!」