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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第20譚{斜塔のダンジョン}
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⑪『到着、第七層。~The Seventh Layer~』


「もうすぐ六層を抜けれそうだ。テツの狙撃が有れば、案外キャラバンでも行けるもんだな。……しっかし、音がすっげぇ。」


 ソフィアは両耳を塞ぎながら、助手席にもたれかかってそう言った。リザはすかさず自慢するように天井を指さして答える。


「当ったり前よ。今使ってるのは、テツが持ってる武器の中でも最大火力の代物、九七式大気砲クナタ。あれは本来生き物にぶつけるように出来てない。」


 性格が有うのか、二人は割と意気投合している様子。俺はハーピーのマーヤにおにぎりを食べさせながら二人の会話を盗み聞く。しかし、こっちはこっちで凄い歯だなぁ…、ハーピー。サメみたいに鋭いぞ。


「おいおい、女の子の口をそう覗くもんじゃないぞ。ナナシ。」


 俺はハッとしてマーヤから少し距離を取り、メセナを見た。


「違ぇよ、アレだよ、情報収集だよ。甘いなメセナ。口に仕込みナイフだとかさ…、ほら、歯で縄を切る盗賊とかいたんだよ、多分、かつて。」


 俺は完璧な弁解をしてマーヤの口に米を突っ込んだ。


「く…苦しいです。」


 咀嚼が間に合わず、無理に米を飲み込んだマーヤを見てメセナは感心したような顔をしていった。


「はっは、君はハーピーというより天使だなぁ。…ふへっ、可愛いなぁ。良いナァ。なぁ!?…ユーヴサテラ?ねぇ、聞いてる?」


―性癖が歪んでやがる。


「な…そんな細い眼をしないでくれよユーヴサテラ。私だって悩んでいるんだ。なんつって。…それより、何か思い出したかいマーヤ。」


 メセナがそう言うのと同時に、窓の外から煌々とした光がキャラバンに射し込んだ。


「この大樹に見覚えは無いのかい?」


 それは、上層に登る誰もが必ず目にする、印象的で感動的な自然の神秘であった。



{第七層・大樹の額「ポポリスの小川付近」}


「地下なのに明るい。ナナ~、なんで~?」


「さぁ。不思議だな~。」


 煌めく陽光は七層の天井や上部の壁から漏れ出るように広がっている。


「原理は未だ解明されていないさ。しかし一説によると斜塔の壁内で地上の陽光が蓄積、増幅されているらしい。そしてその増幅の過程で地上とのタイムラグが起きる。すなわち、今は昼過ぎだが、射し込んでいる光は朝日を溜め込み増幅させたもの。だから、これからここはもっと明るくなるはずだよ。」


 メセナは椅子にもたれ掛かり、悠々と話す。


「まぁこういう所は生活リズムを崩すから、ギルドはキャンプ地を作ろうとしない。私的には避難所のようなものがもう少し増えると便利だと感じるんだがね。それに、景色も凄くいいし。別荘でも建てたいくらいだ。」


 7層の大樹は9層の肥沃な土壌から生え伸びている御神木だ。10層は、その大樹の巨大な根が張り巡らされた地下空間であり、安全地帯を作り易く、ギルドからしても開拓しやすいと言われている。


「驚くべきところは、この大樹の根っこが斜塔の壁内をも穿ってしまっているところだよ。アルデンハイドのクランはそれ気付き、地道に大樹の根っこを削り取って、五層のC2から十層のC3にかけての革命的なゴンドラを建設してしまった。」


 メセナは話す。7層から9層にかけての魅力や、留意すべき危険地帯についての知識を共有するために。


「しかし、層間を突き破ってしまったこの樹のお陰で、君らみたいな翼を持つ生き物はたいそう移動がしやすいはずだ。なんせ飛べば良いだけなんだから。」


 その言葉にマーヤは俯いて話す。


「ほぉふぇんふぁふぁい。わふぁひ、おふぉえふぇふぁ…」


「やっぱ流石に可哀想だから、取ってあげようよユーヴサテラ。」


 俺はマーヤに付けたヨダレまみれの猿ぐつわを見る。


「確かに...」


 牙が鋭いからうんたらかんたらで取り付けたが。尋問が出来ないのも問題が有る。俺は後頭部辺りで結ばれた布を解き、マーヤのヨダレを拭いてやった。


「あ、ありがとうございます...。あの、それで、私…、覚えていないんです。ただ、真っ暗な道を昇ってきた記憶しか無くて、それが何処だか...」


「ふーん。」


 メセナが間抜けな声を出しながら顎に手を当てる。


「或いは夜だったか…。しかし夜は夜で、ううむ。彼女がレイヤーボス級であることを考慮してもねぇ…。うにゃうにゃ。」


 メセナが一人でに考えている間に運転席のソフィアは爆笑しながら「それでいこう!」と手を打った。俺はその光景を見てマーヤを縛っている縄を掴み、空いた右手でキャラバンの吊革に摑まった。


「みんなー。捕まってろよぉ!」


 リザは適当に声を掛けアンカーガンを大樹に目掛けて撃ち込んだ。


「ダメだ。ちょっち弱いなぁ。―テツ!クナタのD.Dでどうよ!」


 97式大気砲のDD番。弾丸の要らない大気砲にねじ込んだそれは、ストッピング系で貫通力を抑えた大気砲専用の特殊弾(リザ作)。もうやりたいことは分かった。同じくそれを悟ったアルクは後方扉の施錠をくどい程に確認し、床に大の字で寝そべった。


「何してんの、アルク君?」


「僕は長年このキャラバンにいて、この態勢がこの場合の最善だと気付きました。みすぼらしくてもいいのです。そこに安全があるならば…。」


 床で止まった声が漏れるように聞こえてくる。ボソボソと。疲れたかのように。


「えぇ…、どうしちゃったの..?」


 メセナが聞いた瞬間テツのいる部屋からキャラバンの前方目掛けての射撃音が鳴り響く。―ダァン!!といった強烈な響きも、六層で腐るほど聞いたメセナにとって、彼を驚かす程のものでもなかった。しかし、キャラバンの正面で行われた光景を見たメセナは「あぁーっ!」と声を上げた。


「ダメじゃん!!ソフィア!!―何してんの、教えてあげなきゃ!!」


 キャラバン前方。テツが狙った対象物は七層の大樹。御神木。その風穴目掛けて、リザは再度アンカーガンを打ち込んだ。


「大丈夫だって。アルデンハイドの根っこ事件だってグレーゾーンだろ。それに、ほら。…面白いし。」


「ダメだよぉ!!大切な樹なんだから!」


「なぁにをいまさら、どーせアルデンハイドだって、大遠征にかこつけて違法行為のオンパレードだっての。」


「―まあ、それもそうだけどさぁ!」


―そうなのか。


「私たちだけでも崇高なシーカーだって自覚を…」


 俺はマスターシーカーの会話の傍らで、運転席のリザが手を振っているのが見えた。無言の合図だ。掴まれっていう。


「メ…メセナ。」


 俺は説明を省いてメセナに手を差しだす。


「え?…うん。」


 反射的に掴んだメセナの手をギュッと強く握り返し、俺は軽く床に膝を着いた。







Tips

特定危険指定階層主ビヨンド・レイヤーボス

『斜塔街に存在する指定階層主レイヤーボスは、どれも人命を風に当たる灰のように散らす果てしない脅威を孕む怪物らであるが、その中でも特定危険ビヨンドと名の付く指定階層主においては、いわゆる”初見殺し”的性質を持っているとされている。またその性質においては往々にして対処の難しいランダム性を有するとされている。

 ハーピーを例にとれば、一匹にでも見つかれば即座に軍隊規模の群れを呼ばれることや、冒険者らの見出した安全経路が翌日にはバレて警戒域に変るような高い知能などが、ビヨンドを冠する主要因となっている。逃げられず避けられない。攻略の糸口が微塵も見えず、手に負えない圧倒的な怪物を前にした警告の中にある、ギルドの一種の諦め的フレーバーこそが、怪物たちをビヨンドたらしめているのだ。』

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