表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第20譚{斜塔のダンジョン}
146/307

④じゃあどうする。

「でっけぇ~。」


「バカ、大きい声出すな…!」


 俺はプーカの頭を軽く叩いて人差し指を口元で立てた。キャラバンはフォーム・シーカー、速度を落とせば極めて高い静音性を発揮する。


「アレが、オメガトロール…。」


 身長は優に5メートルを超えようか、天井一杯まで高さを持ったそいつは土を喰らいながら座っていた。


「違うよ。あれは普通のトロール。」


 テツが補足した瞬間、全長10メートルほどの老いたトロールが、座っていたトロールを大きな棍棒で殴り殺した。悲痛で低い叫び声と、比較的高い咆哮が交り、殺されたトロールを殺したトロールが千切って食べる。


「なんだ、ありゃ…。」


 トロールの共食いを始めて見た。あの巨体を維持する為の栄養源は仲間か。若いトロールは土を食べて凌ぎ、実力を付けてから共食いを始める。しかし、


「なんで分かった。テツ。」


 オメガトロールの見極め方など俺は知らない。


「実家の近くによく居たよ。」


「なるほど、(なるほど?)ご近所さんってワケか。」


 全然納得いかないがテツは元来ダンジョン育ち。有り得ない話でもないという恐ろしい事実。しかし状況はいたって悪くない。むしろ良い。


「どうする、ナナシ?」


 俺はメセナを一瞥しリザに小声で指示を出す。


「低速でバレずに進もう。バレたら止まる。キャラバンは密閉して匂いは出すな、だるまさんが転んだを繰り返す。」


「了解。」


 リザが頷き、メセナは「へぇー」と声を漏らす。


「悪いか?」


 俺は問う。


「いや、良い。分かってるよ君。本来は登竜門だとか新米殺しだとか言われてたら、倒して一人前とか思うのが凡庸な冒険者の考えなんだけど。そうだ、そうさ。そうなんだ。バレないのが一番賢い。」


「え、あぁ、どうも。」


 マスターシーカーに褒められた余韻に浸っていると、あろうことかこの密室空間でプーカが放屁した。


「あ、ゴメス。」


「え、あッ、くっさ。バカお前、開けろ窓、喚起しろ窓。」


 俺はいつも通り窓を開け、キャラバンの中に空気を取り入れる。


「というかお前、スカそうとしたろ。それは漢のすることじゃないぞプーカ。」


「ナナッ?プーカは男だった...?」


 俺はプーカを仰いで空気を送り、キャラバンを喚起する。外ではヴォオオオとトロールが叫んでいた。


「チッ、うっせぇな。うっせぇし、くせぇし、ダンジョンて最悪だな。もう帰ろうかな。」


 俺がそう呟いた瞬間、キャラバンは持ち上がり、弾けるように跳ね、壁へと激突した。衝撃は右から左へ左から壁へ、俺たちは叩きつけられるように身体を打った。


「だぁ、いってぇ…。―おい、バカども!!」


 リザが叫ぶ。


「ててて、やべっ...、まぁ、えっと。あぁ...エルノア、キャラバンに傷は...?」


 言うが早いか、唱えるが早いか、エルノアは扉魔法ゲートで俺を外へ放り投げた。


「散れッ。トロールやろう。」


 一瞬だけ外を覗いたエルノアが、鬼の眼光で吐き捨てるように俺に言った。対して眼前のオメガトロールは飛び出した俺とキャラバンとを凝視しゆっくりと俺の方へ近付いてくる。それを見るやキャラバンは全速力で走り出し。屋上からはテツが叫んだ。


「五層で待ってるよ~!!」


―待ってるよじゃねぇよ。


 結局実力を見るだとか言っておいて、魔法も使えない冒険者一人を囮にした非道な作戦。


「おいおい、最悪なクランだなユーヴサテラ...。」


 俺は呟くと後ろから一人、ちょんちょんと服を引っ張る者がいた。


「へへ、最悪だなぁ、ユーヴサテラ。」


 プーカが俺の言い方を真似する。エルノアのやつ、ご主人様を置いて先に行きやがった。


「けッ、一緒に止めるか、あのクラン。」


「ぷっ、そうだな。」


 俺とプーカは溜息一つと唾を吐き捨て、オメガトロールと目を合わせた。


「てかアイツ、キモくね」


「キモいな。」


「なんかオナラ如きで?ガチギレ?え、キモくね?」


「キモいな。」


 俺たちは構える。純粋な腕力勝負では分が悪いと知っていたから、魔法も使えない俺たちは後方へ逃げる。逃がすまいとトロールは岩を削りぶん投げた。岩は弾けながら石礫となり俺とプーカに迫りくる。


「賢いじゃねぇか!!」


 俺とプーカはぎりぎりで石つぶてを避けながら、向かっていた逃げみちをチラリと見る。塞がれていた。全然イメージと違う、バカみたいにパワーだけで戦うような戦闘狂と思っていたが、ここに来て新事実、このトロール、賢い。


「おい、頭良くてパワーあるってアイツ室伏みてぇだな。」


「ムロフシ?なんそれ。」


 プーカはキョトンとした顔で俺を見てくる。


「後で教える。」


 俺は投げられた石つぶての一つをオメガトロールの眼に向けて投げる。対してオメガトロールはそれを嫌そうに弾いた。


「へぇ、目は嫌らしい。」


 情報を取っていく。当たり前の情報でも一つずつ掴んでいく、


「目は弱点だ。肌は汚れの割に裂傷が少ない。堅いだろうな。」


「うんだうんだ。」


 プーカは真面目な表情で適当な返事をする。


「うん、じゃあどする?」


 プーカは一先ずの作戦を俺に聞いた。


「逃げる。」


 俺は一言そう答えた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ