①フォーム・シーカー
第20譚{斜塔のダンジョン}
{トライデント第一層・地下街凱旋口周辺」
「大遠征が成功すれば、ここから地上二層までの帰路が凱旋パレードのルートになる。あれらは迎えに来た幹部たちだよ。」
大きなクマを作ったメセナは背中越しから外に指をさし、俺に説明した。キャラバンは地上二層への出入口、本物の冒険が始まる覚悟の通り道{凱旋口}に一時停車し、安寧の空気と別れを告げる。
「メセナ…、さん御武運を」
「レベル1って、無茶ですよ…!」
「誰なんだアイツら。」
「―例の暴行クランだよ...」
「はは、大丈夫だって!―チャチャッと行ってくるよ。」
副盟主、血縁。ライロック=フリーダム。メセナのいとこは理知的な眼鏡と強靭な体躯をしていて、見るからに俺たちの誰よりも強そうである。
「メセナ…。もしものことが有ったら…、俺は...」
「大丈夫だ。私が盟主になった時から遺書があるって言ったろ?見ればいいんだよ。」
―遺書か。メセナでさえ有事を覚悟している。
「なんで、お前らが...。メセナさんたちの足引っ張たら、そん時は地上で殺す…!!」
ソフィアやメセナの元へ一堂に会する幹部たちの中で、俺の元へ颯爽とやってきたトマスがユーヴサテラ全員を睨みつける。しかし、気持ちはよく分かる。人類の宝、マスターシーカーを二人乗せ、あろうことかチームを組むのは、見た目チャランポランな無名冒険者たちなのだから。
「まぁまぁ、図らずして黄金の七人隊だ。何か奇跡が起こるかもよ。」
「ほざけぇ、アルデンハイドは百人で挑んでくる。てめぇらはメセナさんの指示通り着実に尾行してりゃあいいんだ。」
―それもそうだな。
「―はぁあん?」
対抗する様にプーカがトマスを睨みつける。
「ひっ…、いやぁ、まぁ、せいぜい死ぬな。―応援してる。」
脅されて怯んだのか、実は良い奴なのか。幹部にまで登り詰めたのだから、要領の良い何かは有るのだろう…。
「メセナさん。アルデンハイドの部隊は今しがた地上を出ました。」
「あぁ、…もう出発するよ。」
メセナの声で俺たちはキャラバンの方へ踵を返す。朝靄漂う深淵の入口へ、俺たち七人は一蓮托生のキャラバンに乗り込み進み行く。脇道にはちょろちょろと小川が流れ、斜面と階段の合わさった道は徐々に整備が荒くなっていく。自然と人工路の狭間、開拓と未開拓の境界。この先には、圧倒的な未知が俺達を待ち構えている。
「じゃ~ね~!!」
メセナは屋上を開き幹部たちへ手を振る。遠くには、アルデンハイドを待ち望んでいたレベル3以上の冒険者が、俺たちの小さなキャラバンに気付き、眺めている。
「もういいか?」
リザが俺に問う。
「まだだ。」
まだ見られている。二層へ挑む道、一層への光が途絶えるその時まで、徐々に細くなっていく退路を眺めながら。時が満ちる。
「よし。」
「―ターノフ。」
リザが暗号を唱えながらスイッチを操作する。反応してキャラバンを引っ張る四頭が姿を消し、灯石を利用したライトがパッと暗闇を照らす。
「フォーム・シーカー。」
続き、右手にあるシフトレバーを数回倒し、ハンドルを握って、空いた左手では水晶の埋まった台にアンカーガンとハーケンガンを乗せ魔法陣が宙に浮かぶ。それを見たエルノアはロフトの中から阿吽の呼吸で口を開く。
「ノアズ・アーク…!!」
エルノアを中心に煌々と光る魔法陣が投影され、キャラバンはギチギチと悲鳴を上げる。フォーム・シーカー、閉所、難所が多く、極めて難解なルート取りを要求されるダンジョンで有効なキャラバンの形態。音響による敵からの索敵も受け流すような構造を取っているらしい、その見た目は、中身のスペースと共に従来よりも縮小し、台に乗せたアンカーガンとハーケンガンが左右に装備される。
「おい、なんだこれは…!―聞いて無いぞ、ユーヴサテラ!」
「教えてないからな、捕まれメセナ。」
俺は座ったまま柱を掴んで見せる。無論皆は既に衝撃に備えている、やはり情報は大事だ。これが知る者と知らざる者の差。
「ふへッ、楽しくなってきた…。」
同じく知らない筈のソフィアは肝が座っている。まぁ、驚くのは最初の一階までだ。プーカなんて今頃寝床でゴロゴロしてる。ただ何回経ってもオドオドしているアルクのような奴もいる。
「...さぁ、行くぞユーヴ!!」
操作コマンドが増え格段に走行難易度の上がったキャラバンで、リザが一層強くハンドルを握った。