⑱転機
「スキップスキップ、ドロ4~♪」
「えぇ~。今の無しー。ねぇー。」
「―甘えるな!俺はお前のお母さんでは無い!―勝たなきゃ誰かの養分…」
「ねぇ~え~!」
バタンッ、という音と共にソフィアが姿を見せる。
「悪い。帰る!」
『―えぇえええええ!?』
キャラバンのドアを開けて早々、ソフィアの唐突な一言に俺たちは一同総ツッコミを決めた。
「どういうことだよ!!」
俺の質問にソフィアは答える。
「いや、今しがたアルデンハイドが大遠征隊の申請を降ろした。夕方以降、レベル3以下の冒険者は地下に降りることが出来ない。言わば、ある種の非常事態だ。」
「アルデンハイドの、大遠征隊…!?」
「あぁ、恐らく奴らはこの遠征で36層を目指す。いつまでもフェノンズだけがレベル6のままでいられちゃ、ホームとしての面子が立たないからだろう。」
「だからって俺たちの予定を崩すことは無いだろソフィア。もう俺たちはダンジョンにいる。ギルドはそんなやつらを見つけ出してまで追い出すことはしないだろ?」
俺はソフィアに詰め寄る。
「その通りだ。何を勘違いしてるんだお前は?」
「―は?」
「いつだってシーカーは利己的だ。私は私の為に、36層を目指すアルデンハイドを尾行し、私もレベル6を目指す。お前らも来たきゃ勝手についてこいって話だ。滅茶苦茶に危険な、レベル5の領域にな。」
「な…、なんて奴…。」
事態が急転した。心臓の鼓動が跳ね上がる。49層がああだこうだ言っていたが、現実に触れればこの様だ。生温い汗が出てくる。身体は少し震えている。
「でも、どうやって準備を?今日戻れば地下にはもう...」
「私の家から物資を運ぶ。」
「そうか…‼」
状況は単純明快、まだ見ぬ世界の深淵へ、名立たる猛者たちの後を付け、トッププロが跋扈し、簡単に命を落とし行く領域の中へ、昨日の今日で足を踏み入れる。準備はラインズ家のゴンドラを使い上から下へ、キャラバンは本邸へ停め、機を見計らい二層へ潜る。無論、意識はしていた。覚悟も有った。けれどいきなりレベル5、この現実味は余りに重い。富士登山のつもりが翌日にはエヴェレストだ。また少し息が荒れ始める。鼓動はずっと高鳴っている。再三思い返す。覚悟はしていた、と。
「どうする?」
俺は立ち上がり、最後のカードを伏せてキャラバンの中にいる仲間と目を合わせた。プーカだけが、未だ手札のドロー4を見つめていた。お前のデッキはずっと、フロントガラスの反射で見えていた…。
「来るか?」
全員が各々コクリと頷き、真っ直ぐにソフィアを見つめて俺は言う。
「もちろんだソフィア。ユーヴサテラはクランラインズに同行し、36層を目指す。その覚悟は、もう出来ている。」
ソフィアはくくっと笑い。野心的な眼差しで俺に言った。
「よく言った。だが、君らが死んでも私は知らない。」