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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第19譚{斜塔ダンジョンの街 上層}
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⑰それでも僕は、ウノってない


「今日の一位はぁ~、クランネビュラ!!―最深到達層は20層、戦利品は締め200万イェル相当!!オッズは1.4だぁ~!!」


「――はぁ…、不謹慎極まりない。まだ続いてたのか…」


 ソフィアは溜息を吐きながら頭を抱えて俯いた。地下街の酒場には地上階のギルド本部と同じような木製の大きなランキング表が設置されており、おおよその戦利品の量や、潜った階層の深さに応じて賭け事がされていた。それも割と盛大に。およそ黙認なのだろうが、酒場の一隅は冒険者ギャンブラーたちによって占領されていた。


「おぉ、ソフィア!久方ぶりじゃねぇか!!」


 とあるベテランがソフィアの影に気付き、波及するように声が上がっていく。


「――ソフィアだ!!」


「よぉソフィア!!ダークホースの登場だァ!!」


「ソフィアだ…。マスターシーカーの…。いやクラン位は大して…」


「ソフィア、今日はお前に賭けるぜ!!てめぇなら最適だ!!」


 ギャンブラーたちは知る人ぞ知るソフィア・ラインズの登場に熱狂する。


「――私もだァ!!!」


「――プーカも乗ったァ!!」


 呼応するようにリザとプーカが腕を捲り、札束をぶん投げた。


「単勝フリーダムに2万イェル!!」


「やめとけ。」


――しかも他クランかい。


 俺はリザの後頭部をはたき、制止する。


「おっと、いらねぇなら貰っちまうぜぇ姉ちゃん。こういうのは大事にもっと...」


 リザの落とした札束を酔っぱらいのおっさんが拾うが、刹那にアルクはおっさんの頬に杖を当て、凄い剣幕と低い声で「離せ」と呟いた。


「え…。」


「離せ。」


「…すみません。」


――守銭奴というより、鬼だ。


 それからアルクは金貨の入った袋を拾い上げ、リザに投げ渡し呟く。


「賭けるな。」


「…はいぃ!」


 リザは俯き、震えた小声を出しながら、外で構えたキャラバンの方へ歩いて行った。


「おい…怖ぇよ、誰だよアレ…」


 クランの中では長い付き合いの俺だから知っている。


「まぁまぁ…、アルクは賭け事が嫌いなんだ。『積み上げた利益を散財させるような行為には絶望を覚える。反吐が出る。くたばれ。』って、言ってた気がする。」


 そして、魔法学校外のイベントでギャンブルに負けた俺を見て、アルクは体調を崩した。


「怖ぇよ...」


「怖かったな…」


 俺はリザの背中を軽く叩き、ランキングボードを一瞥した。


{一位ネビュラ。二位フリーダム。三位パルダイヤ。四位フェノン・シーカー部隊。五位カノープス。}


 ランキングは10位まで、賭けの対象は深さ、利益、戦利品の最高レアリティや希少性。賭けの種類は日ごとに変わり今日は各クランの到達層予想。情報の秘匿性や各クランのコンディション、ダンジョンの気まぐれを上手に利用したギャンブラ。しかし、大規模遠征の時は...?賭けの対象が変わる…?分からないことだらけでは有るが、一つだけ確かなことが有るとすれば、ここのギャンブラーたちには各クランの探索傾向という貴重な情報が共有されているだろう。そしてそれがオッズを変動させる。俺はふと、酒場に設置された大きなランキング表を見る。今日の4位はフェノンシーカー隊。実力からすればトップレベルの集団、階層は13層止まりであるが戦利品は180万相当と予測されていた。つまりこのダンジョンには、コスパの良い進み方が開拓されているかもしれない。


「どうした、ナナシ。何を見てる?」


「ランキング表だ。ダンジョンの規模感が大きいとクラン間の競争もおよそ激しいからな。」


「はぁ。」


「つまり俺達には禁書庫で見た探索の為の情報以外に、他クランによる弊害を防ぐための生きた情報も必要になってくる。」


「なる、、ほど。」


「リザ、俺は今まで漠然と考えてきたが、ここは地方の緩いダンジョンとは大きく違う。特に浅層だ。狙えそうな食料は既に収穫されているとみて、例え今、俺たちが49層を目指したとして物資は本当に足りるだろうか…。資産はどれだけ必要だろうか…。安全な見返りはどれだけ持ち帰れるだろうか…。情報も資源も熱量も、辿り着く前に力尽きやしないだろうか…。」


―熟考。熟考につく熟考を重ね未来を予測する。冒険とはギャンブルに近いが、あのミック=ラインズがラプラスの悪魔を使役したように、未来の不明瞭さや不確定さは粗を削っていけば、その博打も博打で無くなる。だから俺は熟考する...。


「まぁ、何とかなるだろ。」


「それもそっか。」


――そして俺は考えることを止めた。


「おい、ナナシ、ソフィアおせぇな…。」


「あぁ、ウノして待つか…。」


「…二人じゃ無理だろ…。」


「……プーカも呼ぶか…。」

 

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