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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第19譚{斜塔ダンジョンの街 上層}
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⑮始まりの地上街


「地下一層から地上に上がる層間は落差が果てしなく、先人たちはここの移動に頭を抱えていたらしい。そこで斜塔街のギルドと大手のクランは協力し、巨大なC1(キャンプ1)を設置したのがここの始まり。そのキャンプ地から魔物を駆除し続け、事業規模を拡大し、やがて村となり街となった。トライデント斜塔街が時折"地上街"と言われる所以がここだ。言うなればトライデント斜塔街・地下街1層。この街も地上に負けず劣らず、偉大な発展をしている。」


 ソフィアが前方から左手に広がる絶景を見ながら話しをする。しかしよく見てみれば、少年少女すらこの街中を歩いているではないか。


子供ガキがいる。」


 俺は呟く。


「あぁ、冒険者のレベル1は第一層到達レベルと言われているが、この街から第二層に行くなんて造作も無い。つまりこの街はここから先、二層以降のダンジョンで通用するかを計る人工的な訓練所が沢山有るんだ。そこをクリアすればレベル1認定。晴れてレベル0脱却となる。彼らは謂わばシーカー卵、留学生さ。それも飛び切り将来を期待されている。」


――なるほど、優等生ってワケだ。


「英才教育だなぁ。」


「全くだ。彼らの中にはシーカーを諦めるものもいるだろうが、例えどんな道に進もうと、ここでの体験は貴重な成果になる。」


 ソフィアは曇りの無い目で遠くの子供たちを見ながら言った。


「へぇ。ちなみに理由は?」


 納得のいくものだったらレポートにして送ってやってもいい。あの先生はこの手の話が好きなはずだ。


「理由?人が死ぬからさ。」


――なるほど、却下。


「不謹慎な前提だなー。」


 俺は目を細くする。


「それでも事実さ。ここの奴らは搬送される重傷者を横目に、子供たちにこうやって高説垂れるのさ、"真面目にやらなきゃああなるぞ"ってな。」


「はいはい。んで効果は?」


「私と姉みたいな奴が生まれる。」


「特別変異だろお前らは...」


「かもな。」


 ソフィアは少々笑い、地下一層の地図を広げた。


「ここらのマッピングは流石に正確だ。地形も安定的で変動が少ない。ほら、あそこに丘が見えるだろう。あれが今日の宿泊地だ。」


 ソフィアが指さす先は一階層の端っこ。見晴らしのいい丘の上に建つ豪華な洋館であった。


「なんだアレ…。というか、今日は一層止まりかよ。」


 俺が愚痴る。


「へぇ~、つまんね。」


 プーカが続く。


「まぁ、急くな急くな。お前らにゃ予習が必要だ。ここのダンジョンはお前らの想定よりはるかにドでかい。事前知識がものを言うが重要機密はクラン単位で守られてる。レベル0も不名誉なことだろうし、今夜はあそこで座学と実力を見る。」


「結構です。宿泊料が勿体ない。」


 アルクもそれに続くが、ソフィアの放った言葉に一同は少し黙り込んだ。


「いらねぇよ、私の実家だ。」


――ラインズ家、恐るべし。



――――――



{地下街一層・大丘、東の洋館}


 基礎訓練を一通り見て回った俺たちは、すっかり暗くなった頃合いに洋館へ戻った。暖炉はパチパチと音を鳴らし、隙間風はガラス戸を震わせる。絨毯は多分高いやつだろう。骨董品の類も割ったら夜逃げの準備をしなければならないほどに、高貴で高価な異彩を放っていた。アルクに値段を聞いてはみるが、敢えてアイツは何も言わなかった。大浴場は露天式であった。星空を拝むことは出来なかったが、魔物除けの為、煌々と照らされた地下街の夜景は何とも美しく、人々の活気が分かるほど鮮明だった。使用人は一人だけ。普段は4人体制で洋館を手入れし、ミックたちのお世話をしているそうだが、ソフィアの突然の帰来が故に今夜は一人、されど、25メートルもの長机の上に豪勢な夕飯をこれでもかと振舞ってくれた。


「{ユーヴサテラ}トライデントクラス・レベル1。ギリギリ昇級おめでとう。」


 ソフィアの号令に俺たちはグラスを高々と上げ、乾杯をする。


「能ある鷹は爪を隠すんだ。"一人を除いて"優秀なパーティーだろ?―ソフィア。」


 グラスに入った得体の知れない炭酸飲料を一気に胃の奥まで流し込んで、俺はそう言う。


「誰のことだよ!ナナシ。」


 アルクは吠える。


「あぁ。だが、アルクにとって無茶かどうかっていう指標は、隊にとって便利な安全装置セーフガードになる。いいんじゃないの、一人くらい。」


 レベル1の試練は有料アスレチックのように、はたまたアトラクションを回る遊園地の様に、施設や地帯をグルグルと股にかけて試練を受け、スコアを算出し、決定、点数化するものだった。言い訳では無いが、俺たちは試練を受けるにあたり全員がオーパーツや魔装の類を装備しないことを条件に課していた。これは魔法が使えない冒険者にとって大きなアドバンテージとなるが、俺たちはそれらをクリアした。つまり、通常装備で挑めばもう少しアベレージに近い、或いは超えるような優秀な結果が出ただろう。俺はそんな少々もどかしい思いを、最高の夕飯と共に飲み込んだ。二日続けてなんて豪華な晩飯だ。くそう、ラインズ家め。ありがとうございます。


「…さて、明日も早い。ただ、実家にある本はこのダンジョン関連の面白いものが沢山あるんだ。せいぜい夜更かししない程度に"熟読"してくれたまえユーヴサテラ。それじゃあ、…あとの細かいことは頼んだぞリリー。私は寝る。」


「――かしこまりました。」


 つまり、座学を受けろと。彼女は強要していた。


「ふッ、私も寝る。」


「こちらです。」


 ソフィアの声色を真似したプーカを気にも留めず。使用人メイドのリリーは洋館の図書室に俺たちを案内した。図書室はその扉の大きさとはマッチしない広さで、やけにこじんまりとしていた。


「ユーヴサテラ。今宵の特別なお客様。」


 リリーはそう言ってスカートを回し靡かせながら、俺たちの方へ180度振り返り、机の上に燭台を置いて携帯用の短い杖を取り出した。


「皆様、お付きになりましたね。では、大扉をお閉め下さい…。」








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