⑪晴れの日
「誰だお前ら。」
――冗談だろ。
「いいや、本当にゴメン。うぅ、頭痛い…、気持ち悪い…。ってか何だこれ、何処だここ。」
床には埃一つない。割れた瓶やガラスの破片も、はみ出した布団の綿も境目の消えた敷地の柵も、ズレた家具も、転がったゴミも、教会内部地下二階から地上三階までの全てが昨日とは違う。何故なら、ここは俺たちのホームだから。
「記憶が無いなら教えてあげるのが冒険者のたしなみ。ようこそ{ユーヴサテラ}へ。」
俺たちはニコやかにソフィアに笑いかけ手を伸ばす。
「おい。」
ソフィアは溜息を吐いて胸ポケットから煙草を取り出した。
「おい。」
俺は煙草を手に持ったソフィアに釘を刺す。しかし存外「分かってる」と言ったような雰囲気で彼女は手に持った一箱を潰した。シーカーは基本、煙草を吸わない。
「引退してるはずだったんだ。昨日の昼から酒飲んで、余った金と姉さんのスネかじって、まぁ金無くなったら中層潜って…。何でこうなった。」
「49層に行くんだろ?」
ソフィアは訝しげに顔を上げる。
「誰から聞いた。」
ソフィアは俺たちを舐めるようにグルリと見渡す。俺たちは対抗する様に一斉にソフィアへ指をさした。
「マジか...。何やってんだ私。」
「それが支援の条件だった。だから俺たちは受諾した。」
ソフィアは一層深いため息を吐いた。時間は昼の11時である。ダンジョンは24時間開いているが、受付が本格的に働き始めるのは9時からで、俺たちはもう既に、完全に、完璧に装備を整えていた。ソフィアはそんな俺たちの装備を見て、静かに息を吸い天を仰いだ。
「まぁ…、思った以上に気分は良い。姉から一報が来た時、骨の無いやつだったら直ぐに追い返してやろうと思っていたが、話を聞けば、まさかサテラの弟子だとは思わなんだ。」
「サテラを知ってるのか。」
「あぁ、世話になった。とにかく、はぁ…、良い天気だな。今日は、」
斜塔は外の日光を反射させ、街全体に行き渡るように作られていた。この教会はその光を的確に取り入れて、教会内部のあらゆるところに描かれた壁画を綺麗に照らす様な計算がなされている。匠の技巧だ。
「しばらく潜ってないだとか、引きこもってるだとか言われてたが、ウソだったんだな。」
「なんだ、地下も見たのかよ。あーあ、こりゃあ生きて返せないぞ。」
「やってみろよ。」
俺は笑って挑発する。毛頭彼女にもそんな気は無いのだろうが、まさかダンジョンに通ずる穴を自前しているとは思わなかった。
「ここから下に行けるなんてな。」
「普通は無理さ、たまたま穴が開いてただけだ。」
ソフィアは水道を捻り酒瓶に注いでラッパ飲みした。
「4層までだ、案内くらいはしてやる。ただし、見込み無しと判断すれば契約は取り消す。無論その間手助けもしない。いいな?」
ソフィアは前髪をたくし上げ俺を見下ろす様に見つめる。身長は同じくらいか、しかし近くで見ると威圧感が有る。あと酒臭い。俺は彼女を見て静かに頷いた。
「よし、実力を見せてもらおう。」
地味に支援の為の条件が増えている。アルクが交渉をすればこの点を突くのだろうが、元より啖呵を切っている身としては、新しく増えた条件にもなんら問題は無い。ただ俺たちは深くまで進めばいい。
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