⑩教会でお腹を空かせたシーカー隊。
――49階層…。
「良いよ。」
テツが答える。
「いつかは辿り着く。いつかは届く。その時に貴女が生きてれば、見せてあげる。」
「サテラの垢は、」
――垢じゃねぇ。
「別に良いよ。49階層が有るなら俺たちは必ず見に行く。俺たちに限界は無い。」
「よぉし!」
ちらりと、潤いのある瞳が髪の間から現れる。テンションの上がりきったソフィアは瓶を高く上げてゲラゲラと笑って続けた。確かに端整な顔立ちだ。酒に溺れてなければ、より美人には見えただろう。
「明日、2時、酒場!今日は寝る!!」
けたけたと笑ってソフィアが横になる。
「あッ、ここで寝ていいぞ~、飯もそこだぁ!宴だぁ!!」
――宴か。えっ、いいの?マジで?
「飯あっかなー!」
プーカがカウンターバー裏に設置された冷蔵庫をガバッと開ける。急に和む。拠点も手に入り交渉も滞りない。これで明日「あれ、そんなこと言ったっけ。」となるから酔っ払いは嫌いだ。
「ナナシこのお酒、ヤバいよ。これヤバいよ!」
値打ちを細かく抑えているアルクはずらりと並ぶ高級酒の列に腰を抜かす。
「肉塊だぁ~。」
「すごい…。グリルも有る。」
「おい、三階まで有るぞ。ベッドも浴場も有った、最高だな。」
よくよく考えれば、というかこのまま上手くいけば、この教会が俺たちの拠点になる。喜びと同時に嬉しさと楽しさと、それと掃除欲が湧いてくる。しかし今日はこの記念日をただ祝おう。
「今日はリザが料理当番だっけ?」
「大役だな~」
材料はたんまり有った。使えるだけ使ってやろう。ソフィアの酔いが醒める前に。
「流石に俺も手伝うよ、食材が多い。それにステーキの調理方法っていうのはずばり必勝法が有る。」
「まず、勝ち負けが有ったのか。」
リザが半笑いで俺に問う。
「まぁ焦がしたら負けよ。それから蒸し焼き状に成っても負け、とことん追求すれば、ある意味勝ちは無いかもしれない。まぁ美味ければ全て勝ちだ。」
「お前メチャクチャだぞ。」
「俺も何言ってるか分からない。」
ただ相当なやり手の筈だったソフィア・ラインズが、蓋を開けてみればただの飲んだ暮れで、警戒の為研ぎ澄ましていた神経が反動ですり減っているような気怠さと、拍子抜け度合いに全身の筋肉の力までが抜けてしまったような。なんかもう疲れた。
「それじゃあ私ゃまず、風呂入れてくる~。」
「僕も手伝うよ」
アルクが袖を捲って手を洗う。
「探索してくる。」
「プーカも!!」
「じゃあ一緒にお風呂から冒険しよう。」
テツが風呂嫌いのプーカを誘導する。しかしながら、未開の地というものは何処で有れダンジョンなのかもしれない。いつだって知らない場所は、そこに根付く生活の痕跡だとか、営みの痕跡だとか、文明の痕跡だとかは、廃れて乾いたこの心を昂らせ、潤わせる。
「フルコースを作ろう。」
俺がそう提案する。
「大食いしようぜ。」
リザが鼻を鳴らした。
「スープもデザートも今日は何でも作れるよ。」
「――私のも作れよぉお!!」
ソフィアがソファに埋もれながら叫ぶ。
「よし、主の了承も入ったし。気合入れっか…。」
俺たちは袖を捲り、かけてあったエプロンを着けて大量の食材を前にして、それらを睨めつけ腕を組んだ。
――教会ダンジョン飯。スタートだッ…!!