⑦冒険者達の言い伝え
「...支援して下さい。」
「いや、ダメに決まってんじゃん!!良く来れたねお前ら!!」
正に爆笑といった様子で腹を抱えている宿所の小さなフロントマンが、俺たちを案内した個室のソファーで転げまわっている。」
「いやー、幹部だよアレ、一応幹部!君たちの腕っぷしの強さは分かったけどさ、うちの幹部と天秤にかけたらそりゃ無理だよね!!」
{フリーダム連盟管理統括補佐・トマス=ダリアス}彼女らが殴ったのは、もっと言えばユーヴサテラが殴ったのは、フリーダム連盟を支えるNo3の、その右腕だった。
「しかし!しかしながら!先制攻撃とは言え、そこの小さな女の子があのトマスを壁まで吹っ飛ばしたなんて、信じられないというか現場を見てない者からしたら笑いの的でしかないというかなんというかそれはとても今となっては清々しいよねぇ!?まぁとにかくうちは残念ながら無理だから他を当たってバイバイグッバイ、ぶれすでまたねー!!」
彼は扉をバタンと閉め、交渉決裂の意図を示した。
――――――
{トライデント斜塔、地上街大門横荷車置き場・キャラバン内}
俺たちはエンブレムに×の付いたランキング表を上から順々に眺めている。灯鉱石二つ、蝋燭一本で照らす薄暗い車内で、明日の訪問先を決めるため地図とクラン一覧表を見比べながら線を引いていく。
「ごめん。」
へこたれるプーカに対してリザがそっと背中を摩った。現段階で既に上位9つのクランが受け入れを却下した。暴力沙汰が記憶に新しいらしい。
「いいや、かっこよかったぜ、気にすんなよ。」
――その通りだ、気にしてる暇は無い。
「そうだな。プーカもそう思う。」
――こいつ。
「まぁミヤさんの話によればフリーダム連盟は、元より無名冒険者なら魔法を使えることが前提条件だったらしい。つくづくアンチ無魔な奴らだ、どうせ肩身が狭い。」
ただ俺たちは全員が無魔ではない。アルクは基礎的なものなら使えるし、プーカとリザには潜在性がある。テツも恐らく不可能ではない。ただ一貫して彼女はあまり必要としていない。
「アルクだけで交渉に行けば或いは…?」
魔法が使えないものはダンジョンに向いていないということ。これは確かに大前提として周知の事実ではあるが、しかし例え有利不利を乗り越えた優秀な無魔の冒険者が支援を求めに行こうとノーを突き付けるクランは一定数いるのだろう。理由は一つ、連携が図りにくいから。とかくこれは慣れてなければの話で、しかしパトロン関係を結んだ冒険者が死ねば責任問題としてギルドからクランへ、ペナルティが課せられるのである。これはクランにとっては大きなリスクとなる。特に低層域、リスクヘッジが容易いとされる領域では、尚更。
「どうせ門番いるワケじゃ無しに、無視して進みゃ~よくないんで?」
プーカの甘い言葉に一瞬心が揺らぐ。
「まぁ人気の無い田舎のダンジョンなら有りなんだけどな。」
「え~、そんなことが出来るのかよ?」
ダンジョンの管理に疎いリザが驚いた様子で笑った。
「あぁ、無制限腕章っていう青がかった白い腕章が有ってな、手作りするんだ。他冒険者からは遠目だったり、深層まで走って行けば分かる奴はいない。分かってても止めるような奴がいなかったりも。」
「僕は人のを借りてたよ。ダンジョンでは沢山落ちてるからね。」
「無論それは死体のだったりする。それを着けると呪いも憑いたり。」
「夢の中で着けてた方の腕が食べられるんだ。それで起きたら本当に腕が食べられてたりとか。」
「腐ってもげ落ちたり。血豆が沢山出来たり。」
「返せ返せ~って、死者が腕を引っ掻いてね…」
俺とテツの言葉に、リザが「やめろよ...」とたじろいだ。これを聞くとダンジョンで初めて野宿するようなキッズは眠れなくなるらしい。
「まぁ、どれもこれも安全上必要な、かつ倫理的に大事な配慮だ。子供向けだけど。」
俺は横目でチラッとプーカを見てみる。しかし彼女は鼻をほじりながらほくそ笑んでいた。
「へぇ~。へっへっへ、ふぁわあ。眠っ。」
下品な子だ。品の無さには定評がある。
「一応受け入れは×らしいけど、明日はフェノンズを当たってみないか?ほら私たちさ、ミックには貸しが有るだろ?」
突拍子の無いリザの提案、しかしながら。
「確かに。仮にもミックは№2だ、救った恩はデカい、はず…」
フェノンシーカー隊は無論、階層制限を持たない。加えてエリートばかりで土地勘に優れた最高峰のクラン。ここに支援されれば最高のスタートを果たせる。