③トライデント斜塔街での生き方 前編
「もうご覧になられたとは思いますが、このギルド本部は一階層の中心に位置しております。初めて来られた冒険者の方々も同じように驚いた反応をされていますが、天井高は上階に登るにつれ低くなっているため、特別一階層は広く感じられるのだと思います。」
「はは、そうですか…」
塔の中には無数の建物が存在した。陽の光は特殊な鉱石の反射を利用し街全体に降り注ぐよう設計されている。そう、まるで野外にいるような解放感。斜塔の円周も小さい街の城壁といったところで、街の活気も大国の首都クラス。まさにダンジョンが生み出した国が、そこには有った。
「確かに我々ギルドはこの街の法を司り。一定の権力を持って管理してはいますが、ギルドにとって冒険者クランとは無くてはならないものでして、ギルドは王、クランは宰相とよく揶揄をされていますように、所有する土地の広さやクランの強さ自体が、この街では重要視されています。」
「クラン・ギルド共同自治型。」
「その通りです。」
斜塔の"内部"にはかなり驚いたが、街のシステムには心当たりが有った。要はこのダンジョンは潜りやすくて良く儲かるのである。それ故、初級者から超上級者までが混在し、その多くが冒険者でありながらこの街に定住している。それ故に余所者冒険者からはしっかりと金を獲りダンジョンからの戦利品を街の為に管理している。
「典型的な事例としては、一流の鍛冶屋には一流のクランがバックについていて、一級品が良く回ったり。逆に、誰でも利用できるような鍛冶屋にはそれなりの武器しか置いて無かったりします。」
「ヤクザ!」
「むぅー。そういう言い方は良く有りませんよプーカさん。この街に住んでいるクランの方々が悪い人ばかりということでは無いんですから。良い人だっているんですから。」
「――悪い人もいる、って言い方ですね……。」
「いいいや、っそそそのぉ…」
テツがポーカーフェイスのまま核心を突いていく、一方犯人は動揺を隠せずに言葉を噛んでいる。ほんと君はシーカーを止めて探偵でもやればいい。
「と、兎に角。このミヤ・フランデが{ユーブサテラ}の担当ですので、何卒宜しくお願い致します。」
「あ、よろしくお願いします。」
ミヤさんに合わせ、みんなで一礼を返す。この街は良い意味でも悪い意味でも内向的だ。この街に定住しない、かつ冒険者であるという明確さを持つ俺たちにとっては、この街の為の立ち居振る舞いというものがより一層求められている。
「では、まず今日の宿屋をお探し致します。」
「いや、結構です。」
(――出た、銭ゲバ!!)
「銭ゲバ!!」
プーカが声に出し、アルクが睨み、プーカが怯む。危なかった、この声は喉の奥まで出かけていた。もう少しでハモルところだった。
「ダンジョンでの儲けが予想できない以上、宿に泊まることは出来ません。今借りているキャラバンの停車位置に泊まれないようでしたら、街の外に泊まろうと考えています。」
しかし光景は珍しく、アルクのまくし立てにミヤさんは怯まなかった。
「あぁ、失礼。言い方が悪かったですね。そういう冒険者の方も珍しくありませんが、ダンジョンの特性上、短期滞在と言えど後ろ盾が必要になると思いまして、宿屋を見つけるというのはそういった意味合いもあります。」
ミヤさんはそう言って徐に紙を取り出し、台の上に広げて見せた。
「これが冒険者に課せられる入口費用です。ユーブサテラは現在、クランレベル1。これは近隣諸国で扱われているクランTierと呼ばれているグレードからも照らし合わされたものでして、、」
「良く使われてました。」
「そうですか。でユーブサテラさんは新米冒険クランということでTier7に位置していますから、ギルドに対してダンジョン戦利品の6割か、一人3000エルの費用が掛かります。」
「六割…!!」
「3000エル!?」
「で、ですが!もし宿泊された宿屋が後ろ盾となれば、そのパトロンクランが持つレベルが適用され入口費用を減額させます。うちの子に対して高すぎやろ!って感じで。で元来、パトロンの為にある宿屋も存在しますから、私たち案内人は他所から来た冒険者の方に宿屋を教えているのです。無論、パトロン関係は宿泊の有無を問いませんから、街のクランのいずれかと仲良くなれればそれでいいのです。」
「なるほど…。」