②トライデント斜塔街
「地上七階層は人が住んでる。」
キャラバンの上から迫りゆく斜塔を指さして、穏やかな風を浴びながら説明する。
「でけぇ~」
プーカは首を倒しながら感心して、朝飯の肉まんを口に放り込んだ。
「あちっ。」
「ちなみに名産は野菜だ。」
「えぇ~肉は?」
「肉は良く売れるって聞いた。逆を言えばあんまし獲れないのかもしれない。魔物が多い地域だとよく聞く話だ。せっかく育てた家畜も魔物に食われる可能性があるとか…。」
「野菜だけじゃ飽きちゃうよ。」
「魚肉なら豊富らしい。ダンジョンからマグロみたいな魚が獲れるんだって。」
「まぐろ!?」
「大昔は、海の真ん中にあの塔が有ったんだって。海底に突き刺さった果てしない長さの建造物。現代の技術ですら同じものは建てれない。」
「――だから、トライデント?」
テツが屋上へ顔を覗かせる。情報は価値で探求心は素質である。俺は振り向きながらテツにも答える。
「そう。地上七階層は氷山の一角で、難易度が変化する大型のダンジョンが無限に下へと続いている街。」
「へぇ~、何か楽しみだね。」
「いやあ。本当にそうなんだよね。ダンジョンの難易度と経路が確定されてるから俺たちにとって良い力試しになる。」
「本領発揮だねぇ。」
「あぁ、最高到達層はフェノンシーカー隊の打ち立てた36層目。ここに近づけば近づくほど一流を証明できる。ダンジョンとしての質も申し分ないから稼ぎも良い。ただし、」
「ただし~?」
「シーラじゃない。つまるところシーカーとしての実力テストにはならない。逆を言えば魔物も魔法を使える分俺達にはディスアドバンテージだ。」
他の部隊との差を考えればそうなる。ミックの分隊に会ってから魔法の優位性を確認した今、少々心持ちは弱気になってしまう。
「関係ないよ。僕らには。」
テツが顔を覗かせた。
「僕らはシーカーだから優秀なんじゃない。」
昔からよく彼女が言っている言葉だ。
「優秀だからシーカーなんだ。」
シーカーは誰でも冒険者になれるが、冒険者は必ずしもシーカーに成り得ない。シーカーとして産まれた彼女にとっては、もといシーカーとして歩んでいる俺たちにとっては、ある種このダンジョンは成果を出すべきもので、そして威信を賭けた、定期試験と言えた。
「そうだな。俺も報告できる内容が欲しいし、一つここは{ユーブサテラ}本気の総力戦としゃれこもうぜ。」
相変わらず金は無い。しかし準備はこの上ない。自分たちを見直す意味でも、ここは都合のいいダンジョンだ。
まぁ、シーカーはお前だけなんだけど。
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ナナシ ...探索士試験不合格 問題行動により不合格
プーカ ...探索士試験未受験 身元情報不明の為不可
リザ ...探索士試験未受験 身元情報秘匿の為不可
アルク ...探索士試験不合格 一応受けたが普通に不合格
エルノア...黒猫