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③リカーゲ・モルティウ@三人目


『炎魔術・大炎斬だいえんざん


「はっ、えっ……?」


――どこの世界にでもいるものだ。生き方を極めたような奴が。


 入学してクラス分け、そして恒例の自己紹介が始まった時に気付いた。俺が生まれた場所は、バースと呼ばれる大きな村の隣町であった。そして自信満々に笑うこいつらはバース出身。


 新学期早々に行われた模擬戦で飛んできた、1級魔法の数々を忘れない。大人でも繰り出すことの難しい技が、当たり前のように刃を向ける。同期では自分にしか出来なかった優越の数々が、当たり前から普通へ、普通からやがて劣等へと繰り下げられていく。


 そう、あの村。バースは類まれなる傑物を大量に排出した村であり、別名{転生の村}と呼ばれていた。元来あの村では早期の魔法教育が盛んだったこともある。彼らは十中八九転生者なのではないだろうか。そんな疑問を払拭するように、同級生らは自分が転生者であることを否定する。あの村では転生者は英雄なのである。謙遜がそうさせるのか、転生者の多くが自分のルーツを忘れているからか、あるいは名乗らないことで、神童のままでいたいのかも知れない。とかく俺はこの学院では凡人以下だった。周りが転生者ならば、自分は特別ではない。スタートラインが同じならば、結局自分はこの人生でも凡人以下。


 こと無くして退学。


 俺は実家の飯屋を継いで、観光地であるこの村を美食で支えることにした。名物は長ネギと豚肉をふんだんに使用したラーメンである。前世に食べた飯のことはよく覚えていた。視覚や触覚と同じくらい、味覚の情報は蓄えやすいのかもしれない。細かいことは良く分からないが、俺は料理が得意だった。


「親父、ラーメン七丁。餃子70個。」


「ふぅハハハ、盛況盛況。お前のおかげだ、ナガト。」


「……」


 本当の両親と呼べるのかは分からない。彼らの宿した子供の魂が俺で良かったのかと時々悩む。醜悪な自我が、いつかはバレてしまうのではないかと恐れている。それでも今は、彼らの為に生きていたい。

「はいお待ち、メヅタツそばと7丁と、黒餃子70個。」


「どうも~」


 よく食べるお客の顔が好きだ。何だかんだ、魔法が得意な奴は戦争や魔物との戦いで命を落としてしまう。セントヴァン魔術学院にいた人間だって、例外ではない。だからこの平和な毎日は、幸せと呼ぶに相応しいものなんだと思う。


「うまい。」


 背中を丸めた若い客が、感嘆するかのように呟く。こういう一瞬が自分の存在意義を肯定する。


「勘定!……ッ、ちっ、……足りねぇ。おいツケといてくれ。……あぁ?…………俺は転生者だぞッ!!」


 怒号が店内に響く。バイトの子が揉めている。こういう一瞬が肉体と精神を追い詰めるのだ。辟易とするような時間。緊張の糸がピンと張る。


「えーヤダー。この店員顔怖ーい。」


 背丈タッパは有るが細身の男。付き添いには微妙な顔の女。


「どうした。」


「あの、お客様が……。」


「――うん。下がってて。」


「なんだよてめぇ、お兄ちゃん。」


 口調の悪い客である。ガンを飛ばし、眉間は眉がくっついてしまいそうなほどに寄せている。


「ご迷惑をお掛けしました。会計別でしたら1200イェルになります。」


「ツケとけって言ってんだよ!!」


「無理です。」


 俺は語気を強める。しかしそれを見た客は嘲笑うかのように口角を上げ、何も無い空中を指でなぞった。


「ステータス。」


 瞬間、男の前にはディスプレイに表示されたような平面の四角が現れ、中にはグラフや文字列等が記されていた。


【リカーゲ・モルティウ】

レベル:908

職業:大賢者・大勇者

属性:自然魔法系『空』『炎』・原始魔法系『闇』『虚』

魔法:①ゼロブレード、②ヌルファイア、③イミテーション、④ゴッドウィング

特技:戦士の舞い・大咆哮・ぶん殴り

呪い:ハーキウの怠惰


「おら、ここ見えっか。俺のレベルは908。職業は大賢者と大勇者。今はこのハーキウの怠惰っていう呪いによって力を制限されているが、昔はここらのダンジョンで魔物を狩りつくしてた。分かる?英雄なの。」


――ステータス……?


 魔術学院に通い魔法教書を読み漁った俺でさえ知らない、新しい概念。


「この世界ではレベルが低い奴が高い奴に融通を効かせる数功序列が当たり前。で、お前のレベルいくつなわけ?何か凄い事したわけ?ヌクヌクと飯屋営んでいけんのも、平和に暮らせんのも、誰のお陰なワケ?」


「レベルですか……?」


「……やだっ、この人バカなんじゃない?」


「おいヨーコ、聞こえてんぜ?ってか、なんだよ。マジでそんなことも知らねぇの?」


 呆れた様に男は俺の肩をガシリと握り、俺の目の前にあるくうを指でなぞった。


【ナガト・ラティウ】

レベル:207

職業:飯屋・宿屋

属性:自然魔法系『氷』

魔法:①パゴス、②―――――、③―――――、④――――――

特技:湯切り・魔物調理


「へぇナガトってんだ。結構やるじゃん。その氷魔法でカキ氷でも売り出せばちょっとはマシな店構え出来るかもなッ!?」


 男はそのまま脇に連れた微妙な女と踵を返した。一方俺は、立ち尽くすしか無かった。一体何年間のうのうと生きていたんだろう。レベルってなんだ、このストックみたいな欄は何だ。俺はもっと魔法が扱える。ならば、表示されていない魔法はどういうった扱いになるのだろうか。特技の追加条件とは何なのだろうか。ステータスは一体どうやって出せばいいのだろう。どうやって、しまえばいいのだろう。俺とは一体、何なのだろう……。


 呆然と、言葉を失っていた。


 そんな俺のステータス画面を覗く男が一人。団体客の冒険者の、舌の肥えてる、味に理解のある奴。


「へっ、しょーもな。」


 その男は、鼻から空気を漏らして笑いながらそう言った。








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