⑨To the Re:Birth
「ノアズ・アーク。」
キャラバンが姿を変える。より小さく、より流線型のフォルムに組み替えられる。そのキャラバンの名はノアズ・アーク。朝日で陰る入り口が、朝露に湿った草原の空気と豊かな土の匂いを吸い込むように、ゆっくりと彼らを招き入れた。
「狭すぎ。」
「文句垂れるな客のクセして。」
「客は神様だろ?」」
「神様なら勝手に救われてくれ。」
ミック・ラインズは申し訳なさそうにハハハと笑った。
さて、本題だ。俺たちがバースへ向かう道中のシュミレーション中に、高確率で、もとい100%死亡していた人物がいた。
1・最初期の作戦では囮として見事に機能し、血祭りにあげられ死亡。
2・セントヴァン城下街籠城戦では、遂に内通者を炙り出したものの、裏切られ続け死亡。
3・初めから潜伏させた時には、即位置がバレて死亡。何度繰り返そうが何度試そうと、どういう作戦を立てようが、どういう因果か知らないが、ミック・ラインズは死に続けた。
「敵の規模も凄まじいものだよ。腐ってもあのセントヴァンが陥落した未来も見えたんだろ?」
しかし、城もセカイも城下街の市民も、全員が無事だった未来だってラプラスの予測では存在した。俺は巾着袋に包まれた聖剣(皇女の短剣)の破片を握りしめ、99回の未来旅行を振り返る。というか、手に戻ってきてから、まだ一回も使ってないなコレ。
「――そうだな。それに、顔の見えないスパイを時系列的に炙り出し、それでもアンタが生き残る未来は見えなかったんだから、これはつまり呪われてるとしか言いようが無い。」
狭苦しいキャラバンには、ユーブサテラ5人のクランメンバーと、猫、アラタ、ニーナマ、ミックで計8人と一匹が乗っていた。幸いなことに体格は平均的に小さめ。子供2人と6人で、満員電車よりはマシな気分で乗ることができた。
「はは…まるでダンジョンにいるみたいだよ。それもEL級の超高難易度ダンジョン。これで生き残れたら、私は私のことをアポストルに認定するよ。間違いない。」
俯きながらぶつぶつと呟くように喋るミックを前に、俺は少々気が重くなる。ハッキリ言って温度差があるのだ。
「なぁミック。置いてきたアンタの仲間は知らないが、俺はこの戦いに敗ける気がしない。」
グラッとキャラバンが揺れ、ゆっくりと動き出す。俺たちは各々掴まりながら身体を支えたり座り込んだりしてバランスを取っている。
「なんせ正面切って戦えば一度も敗けなかったんだ。」
「それは、長引いた末に、決着を見れなかっただけだろう...」
「それも事実ではあるが、大したことじゃない。」
「そうかい...」
前進するキャラバンの上部。いわゆる"おでこ"辺りに空いた穴から、テツがスナイパーライフルを突き出して固定砲台を作る。ノアズ・アーク{フォーム・ラピド}ラプラスの悪魔が介入できない秘匿の魔法で成される領域。すなわちココからは、ほぼ行き当たりばったり。一発勝負の本番である。
「敵の配置、襲撃時刻、襲撃方法は大方把握できてる。逆に言えば、必ず襲われる運命の渦中に今から突っ込む。全員、一応気を締めていこう。」
「……いや、一応で良いのかい。」
護衛対象変更。フェノンシーカー部隊副船長ミック・ラインズ。襲撃者、カルト教団{キリエ}の参謀は、ミックらを満身創痍にまで追い込んだ正真正銘の実力者である。その人相は100回目の予測時に唯一、過去を計算したことでアテが付いた。
参謀の名はオッドアイズ・クーベルタン。クーベルタン男爵が持つ、顔がソックリな双子の弟であった。
セントヴァン城下街。通称勇者の街にはセカイと残存フェノンズシーカー隊を含めた50人以上の兵力が残った。それでも裂かれる敵兵力はトントンと言ったところであろう。連中の主目的は、ミック・ラインズだ。
「本当に大丈夫なのかい……。100%生存できなかった私が、一発本番で生き残れるとは到底思えない。なぁリーダー、今からでも遅く無いんだ。無理だったら私を……」
「大丈夫だミック。今回のクエストは報酬が良いらしい。ウチ(ユーヴサテラ)は全員やる気だ。」
金が絡むとなれば目つきは変わる。底辺クランの底力を侮ってはいけない。