98話
【風迅】
「って、私なにして―ーよ、避けてください!」
人ほどの大きさもある『かまいたち』が俺たちに向かってきた。
「おっと!」
素早くレニアとの距離をとったお陰か、飛んでくる風の刃は速いが、避けられない程ではないようだ。
ドゥエスも難なく距離をとっている。
【避けないでよ!】
レニアの身体から聞こえてくるその声は、大人びた女性の柔らかい声音。風の精霊のものだ。
【風迅舞】
第二のかまいたちは小さく、それでいて刃の数が左右から飛び来るものになった。
「おう、さすが風の精霊だけあるな。でも、さっきレニアちゃんにひっぱたかれた時のほうが素早かったし痛かったぜ!」
ドゥエスはヘラヘラとしてなぜか煽っている
その間に、投げナイフを投擲しても、その身に届く前に風圧にかき消されて下に落ちてしまう。
すこし性能は落ちるが、これでやってみるか
【表層返し】
【風獏】
落ちたナイフの先に繋げた捕縛の術を展開したが、風の精霊も同じタイミングで術を使ったらしい。
「うわっ!」
今度は風と共に砂煙が向かってきた。
向こうの砂煙の視界不良で先が見えない。
【くっ!】
「きゃっ!」
精霊王の時のように、その肉体をひっくり返すことはしなかったものの、なんとか、動きは止められたようだ。
「よくやった!エリー(仮)ちゃん!」
*
「気に食わないな」
レニアのことを、俺の肉体の持ち主『貴幸』の妹だからと、特別な感情を持っているつもりはないが、なんだか気に食わない。
慎重に縄の代わりになる方法を考えていたが、そこまで抵抗するつもりはないようだ。
「ドゥエス、あの魔法ってレニアに使えるか?」
「えええ、エリー(仮)ちゃん?あの魔法って【精霊戮炎】のこと?、オレのあの魔法知ってるでしょ?!いくらエリー(仮)ちゃんの頼みでもできるわけないでしょ!冷静になってよ!」
ドゥエスは俺に突っ込みをしてきた。
冷静になっていなかったのは俺の方か。
「エリー(仮)ちゃんの妹、なんでしょ?それなのにキズものにして良いわけ?」
「ぐぬぅ……それじゃあ、どうしたら……!」
呑み込んだという石を抜き出せば良いんだろうが、どう対処しようかと考えていたら、レニアが俯いていたことにしばらく気付いていなかったようだ。
「――やってください、ドゥエスさん。」
かすれたレニアの声が聞こえた。
「レニア、自我が……」
「……わたくしの、せいで……お兄様を、傷つけたくはないです」
「へあ?!何云ってんのさレニアちゃん……」
―ゥくえんぶ―
静かに上体を起き上がらせた精霊王は何かを呟いた。
「え、二人とも?!オレに頼られても……!?
そもそも、女の子に手を出せるわけないじゃん!!精霊王は黙ってろって!なにが『新しい精霊が増える』だよふっざけんなこの脳内お花畑!」
ドゥエスは文句を言いつつ、しっかりと精霊王の翻訳もしてくれたようだ。
精霊王はそんなこと言っていたのか。
だからと言って、このままあの風の精霊の言いなりになんてなってやりたくないし。
【いいかげん私の邪魔しないでよ!【悪手の弓風よ、貫け】!】
「なっ!しま……」
寒気を感じるようなドス黒い風が圧縮されたかと思うと、槍か弓のような速さでドゥエスに向かっていった。
――じぅえぅえい―!
「兄さん!危ない―!!」
ドッ!!
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