96話
唐突なレニアサイドです。
いつもよりちょびっと長いです。
ところ変わって、カーヤとレニアは精霊王が飛び去った方向へ向かっていた。
疲労感はすこし取れたものの、不慣れな鬱蒼と茂る森のなかを、カーヤに併せているので、ゆっくり歩いているようなものだ。
「ごめんレニアさん。僕のことはいいから、先に行って」
「そうしたいのはやまやまだけれど、こんなマナ溜りにひとり置いていくほうが危険でしょう?私のほうもできないし。」
「マナ溜り?」
「精霊の力に満ちているホットな場所というか、言葉通り、普通の場所よりマナがたくさん集まっている場所っていうか」
「マナがたくさん……なんだかすごい魔法も使えそうな場所に聞こえるんだけど、使わない理由があるんだよね?どうして」
「魔法が暴走しやすくなりますわ」
「暴走……それは危険だね」
「そう。この森も古代都市も、精霊王クレイブがその昔に暴走した時の余波が今も残っていて、マナがたまっている場所になっているのよ。そんなところで飛行の魔法を使ったりしたら……それに、さっき風の精霊さんが引き連れてきていた『番人みたいな方々』も出てくるわ。カーヤさんには彼らを倒せる?」
「僕に彼らを対峙するのは難しいよ。……いや、ムリ」
【そのときは私がカーヤ君を護るから気にしなくていいわ】
胸を張る水の精霊を頼もしそうに見つめているカーヤになんとなく不安を感じるのは気のせいだろうか。
【ふたりとも、ちょっと止まって】
水の精霊は何かに気付いたようで、二人をとめる。
「え」
「あ、あれ?戻ってない?」
目の前には精霊王がいた『ゆりかご』があった大樹。
どうやら戻ってきてしまったようだ。
*
「そんな……」
「……やっぱり、空から行くしかないのかな……カーヤさんは飛行の魔法は覚えている?」
問われたカーヤはキョトンとした顔で首を横に振っている。
「飛ぶ魔法だって?覚えるも何も、そんな便利そうな魔法は普通の村人には使えないでしょ」
「え……、あなたは魔法を学んだことないの?それで上級精霊と契約しているとか、なんのチートかしら」
「チート?なにそれ。僕、アシャト村から出たことなんてなかったし、魔法ならドゥエス兄さんがいるから……教えて貰ったのはすこしだけだけど。飛んだことはなかったかなあ」
「……そうだったのね、ごめんなさい……」
【あたしがいるのよ、あのエリー(仮)ってやつの歪んだ魔術ほど近道ができるわけじゃないけど、向かった方向はわかるわ。あんたはやることがあるんでしょ?先に行きなさい】
水の精霊はレニアに補足する。
「さすが水の精霊さんですわね。早く行って精霊王を護らないとなのに、やる前から私が怯えていたら何も出来ないわね!」
ペチンと自分の頬を叩き、喝を入れるレニア。
「護る?レニアさんはドゥエス兄さんと一緒に精霊王を倒すために来たんじゃないの?それなのに、あの強い精霊王を『護る』っていうの」
「わたしの目的は精霊王との対峙でも復活でもないわ。あるひとの依頼で、精霊王の封印を解いて……って、そのあとは……」
【あのときの約束を覚えてくれていたのね、ありがとうレニアちゃん】
気配を消して近づいていた風の精霊は素直にお礼をいいながら、レニアに囁いた。
「か、風の精霊さん、いつから聞いていたの?!」
【風はどこにでもあるもの。でもあの魔術師の様子じゃ……もう、精霊王クレイブは、暴走しているわ。なんだかそれってすごくかわいそう。そこでお願いがあるのだけれど、あなたたちの力で止めてくれない?】
レニアは、思わず進んでいた足を止め、風の精霊に向きなおる。
「ど、どうして……?あなたは精霊王を復活させたかったんでしょう?そうして『倒す』だなんていうの?」
【わたしはね、あの方を――クレイブを解放してあげたいの。終わらない地獄から】
死の恐怖から隔離された『永遠』という特典を与えられた最強の存在なのに?
【あの方はね、永遠に孤独なの。今も―、昔も―】
「孤独?精霊である貴女たちが一緒にいるじゃない……?」
ゆっくりと首を横に振る風の精霊。
【私たちではあの方の孤独を癒すことは出来ないわ。私たち精霊はあくまで『かりそめの存在』でしかないから】
「かりそめ……」
ポツリとつぶやいたカーヤの声は誰にも届いていないようだった。
「でも、そんなこと言われても……」
【そこで提案なんだけど、レニアちゃん、私と契約しない?】
「風の精霊さんと契約……?でも今は私、契約するための精霊石を持ち合わせていないわ。契約の儀式なんてしている場合じゃないんじゃ……」
【それなら私のもっているもので大丈夫。そんな形式の契約なんて必要ないわ、私が教えてあげられる方法を試してみて】
いって風の精霊は足元に落ちていた何の変哲もない石を手にすると、レニアに手渡した。
手渡された石はぼんやりと発光しているようにも見える。
「綺麗な石だね、これがどうかしたの?」
手の中の石ころをまじまじと見ているレニアとそれを覗き込むカーヤをみて、満足げに鼻を鳴らす風の精霊
「あ、え!?……これ、ひょっとして、精霊石?」
【ええ、このあたりの石は精霊王のマナに充てられて、精霊石の役目を果たす石がたくさん拾えるのよ。その様子じゃあ、知らなかったみたいね】
「知らなかったわ。ギルドにも本にもなかったし」
【それなら、この方法も知られていないのかしら?レニアちゃん、この石を――呑んで】
風の精霊は自らのマナを込めて淡く輝く精霊石をレニアに渡した。
「は」
「え、飲む、の?」
【そう。なるべく丸くて小さめのものを選んだのだけど……】
それにしても握りこぶし大とは、少々大きくはないだろうか?とレニアが突っ込みをするより先に、風の精霊は語る。
【そうすれば、貴女の飛行魔術にブーストがかけられるから、高速で移動できるわ】
「高速で――なにそれすごい!」
さすがのレニアも戸惑っていたが、やがて決心したのか、
「なんだか心配だけど……ちょっと待ってて」
言うとカーヤに背を向けて、口に石を持っていく。
「いやいくらなんでも、そんなのは危険じゃ……」
止めようとするカーヤも声も虚しく――
―う…
んぐっ――
――っ
っはー…っはー……
ごくりと喉を鳴らして『ソレ』を呑み込むと、息を整えた。
【ありがとう、よろしくね、“ニンゲン”のレニアさん】
「うん、よろしくね」
そうして、レニアは風の精霊と契約した。
風のを纏いクレイブ達を追うための浮遊魔法を使う。
「【風纏い】」
本来はゆっくり宙を移動できる魔法だが――
――す、すごい!風の動きが分かるわ!
――いつもの浮遊魔法と違って、手に取るように分かるわ!
【わたしも何だか新鮮だわ】
その者は、誰も見ていないのを確認すると、薄ら笑みを浮かべていた。
「だ、だいじょうぶなのかな……レニアさん」
【魔術師なら精霊石の効果はしっているはずよ。その用途も、べつに普通の事よ。それより、わたしたちも行きましょうか。あなたも止めたいんでしょ?あの紅の男を――】
「―――うん、そうだね」
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