92話
何らかのバリアを張っていたはずのエリー(仮)ちゃんは、予想以上に酷い有様なのか、ぐったりしている。
精霊王の衝撃波のようなもの?は防ぎきれてなかったみたい。
【傷癒風】!
「お兄さま……!?ど、どうしよう……こんなはずじゃ」
泣きそうな声でレニアちゃんは簡易な回復魔法を唱えた。
うんうん、さすが冒険者の場数を踏んでるだけあって、レニアちゃんの手際はいい。
けど、その魔法では傷口を塞ぐのが精いっぱいじゃないかなあ。
瘴気が広がるのを防いではいるようだけど、思ったよりも回復していないみたい。
なんだこれ?
瘴気のせいなのかな。
「エリー(仮)ちゃん……」
「待ってて、いま回復魔法使うね。――万物の癒しの御手よ――【癒球】」
そこに少し離れていて水の精霊に護られていたカーヤは、詠唱を簡略化したであろう中級回復魔法を唱えた。
手を前に突き出した状態で、カーヤの手からエリー(仮)ちゃんの患部にかけて、淡い光が包み込んだ。
「カーヤ……、いつのまにそんな魔法覚えていたんだ」
「兄さんが出かけている間にちょっとずつ……ね」
集中しているカーヤの後ろから、水の精霊がマナの底上げをしているのか、マナの供給流が見えた。
【こっちはカーヤ君とアタシに任せなさい!手違いがあるかもだけど……】
悪びれる気も無く言ってのける水の精霊。
いや、手違いってなんだよ。
あっちゃ困るんだよ。
でもいまそこまで追求してる暇ないし……
「カーヤ、ここは頼む」
「兄さん……?何をするつもりか分からないけど、任せて!」
一瞬嬉しそうな声に聞こえたのは気のせいだよね。
*
カーヤに背を向けてオレは精霊王に向き直ろうと立った時だった。
「っこの――よくも!!」
舌打ちをしつつ、精霊王に向かって飛び出していったのは、レニアちゃん。
「え――レ、レニアちゃん!?何を」
いつの間にか手にナイフを構えていた。
「よくも!よくもよくも!!」
普段は何考えてんのか分からない穏やかな彼女が、武器を振り回しながら精霊王にナイフを突きつけているその行為にちょっぴりびっくりしたけど、
ツタが邪魔をしているのか、かすってもいないけど、
【破風滅】!
ザザザ!
剃刀みたいな小さな刃を風に乗せて対象に放つ魔法だ。
少しくらいならちょっと痛いぐらいだけど、全部当たったらさすがに痛いと思う。
人に向けて放っちゃダメなやつだよ。
――痛い!――
案の定、避ける気配もなかったクレイブにそのまま向かっていったので、そのうちの何発かが素直に当たったらしく、高温の耳鳴りにも似た『悲鳴』がクレイブから聞こえてきた。
「おめーの声も耳にいてぇわ!」
―ィイィイイイイ!
さすがにつんざく声がうるさくて耳を塞いだ。
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