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精霊通信録  作者: 襾犲 邑
また来たドゥエスのターン
92/108

91話




ミシミシ……


古代種の大樹にできたウロの中、ひと一倍マナが濃く立ち込める『ゆりかご』の中から、周りの幹を無理やりこじ開けながら、這いつくばるようにして出て来たのは、十代前半ぐらいの少年のような顔立ちをした怪物だ。




「どう、して……外に…?」




再びここに来るとは思ってなかった。

人が立ち入らない場所とはいえ、瘴気に近いほどのマナに満ちている。

『あの時』から、魔力耐性がついた今のオレの肉体でも、長居はしない方が良さそうだ。


精霊王クレイブ――


こちらに気づいたのか、少年はそっと顔を上げる。

アッシュブロンドの髪をした少年は両足がなかった。

――いや、なかったはずだ。


伝説によると、人間であった時に人々の手によって奪われたってことだ。

でも今は不釣り合いな肌の色をした足が片方にだけついている。



もう片方は、ちぎれたままの断片が物語っていた。

「……それは、アクセサリーのつもりか?」


誰かさんの足でも付けてやろうって?

善意かどうかは分からないが、お優しい人間もいたもんだ。



本来なら放射状に長く広がる繊維状の羽根も、冒険者や盗賊にもがれたのだろう、根元の骨組みだけが露出していて、ほぼ無いようなものだった。


目は見えていないらしく、こちらには顔を向けるだけだ。

眼球があった所には黒い眼窩がふたつ、ぽっかりと空いている。


数年前にオレが奪ったものだ。

簡単に人手に戻らないよう、話の分かる知人に預けてある……はず。

奪ったのはずっと前のはずなのに、暗い眼窩からは、未だに赤黒い液体がごぼごぼと零れている。


精霊王の力をもってしても、治すことは出来なかったらしい。


死ねず痛みを永劫に味わう不死身の肉体ってのも、難儀なもんだな。

そのくせ人間に近い色の体液を流す。

気色悪いったらありゃしない。


別にコイツ自体に恨みはねぇし、再び会うなんてつもりもなかった。

でも、関わっちまった以上、ケジメは付けないとならないのかもな。




***



――こないで!!



喉からじゃない所から聞こえたその『声』は、拒否のこえ。

いや、オレも来たくて来たんじゃねぇ!!


文句の一つでも言ってやろうと一歩前に踏み出した時だ、



ブワッ!



そいつは残っている腕を使って、放射状に衝撃波を繰り出してきた。

マナの衝撃波か!


「―っ!」

思わず身構えて、カーヤの前を塞ぐように立つ。

突然の光が辺りを照らし出す。

うっわ、前が見えねぇ!



闇幕壁(リ・カーテン)!】

エリー (仮)ちゃんは、オレにはよくわからない魔法を唱えていた。


バシュッ――ジュッ


何かが爆ぜる音と続けて、湿った音が聞こえたが、光が眩しくて何が起きたのか見えずにいて。

しばらくして目が慣れるとあたりの景色が見えてきた。



後ろをチラと見るとカーヤは無事のようだ。

流石というか、水の精霊がガッチリ保護膜張ってるし。

いや、その力をオレにも張ってくれよ。

お陰で服の裾が少しほつれたじゃねぇか。



レニアちゃんはというと、直線状にいた風の精霊が防いでくれたようだ。

【大丈夫?あなたは手助けしてくれたから、少しぐらいなら護れるわ】


「あ、ありがとう……ちょっと、体のあちこちが痛いけど、だ、だいじょうぶ」


気分屋で有名な風の精霊が、他人を護るだなんてめったにあることじゃないんだけどな……

何者なんだ、レニアちゃんは。



なにか防御の魔法を唱えていたエリー(仮)ちゃんのいた方を見ると、衝撃を受けたのか、少し離れた場所に倒れていた。


「お、おい、無事か?エリー(仮)ちゃん?」


身体のどこかを掠めたのか、点々とした血が飛び散っている……

こりゃあ……


「…………」


一瞬だけ目を開けたみたいだけど、気を失ったみたいだった。


「ちょっ!エリー(仮)ちゃん!ちょっと!!」


急いで近づいて、思っていた以上に華奢な身体を抱えあげると、肩から脇腹にかけて、何か小さな飛礫を受けたのか、裂傷が出来ていた。


傷口の周りに、黒く、瘴気に似たマナを帯びている。

「エエエ、エリー(仮)さんっ!?」


うしろから駆け寄ってきたカーヤの声は震えているようだった。







閲覧ありがとうございます。

次の投稿は 5/14 の予定です。

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