90話
うーん……正直、カーヤの前で『あのお茶目な名前の魔法』を唱えたくないんだけどなぁ。
こころなしか希望に満ちた眼差しをそっと逸らしながら、
「カーヤ、これは広範囲の魔術だから……」
言いごもるオレをみて何かを察したのか、水の精霊は
【わかったわ。カーヤ君、あなたは耳と目を塞いでいた方がいいわ。塞いであげるけど】
お、水の精霊ちゃんってば、気が利くじゃん。
「え、目も?」
【コイツの魔法なんて耳に入れたら腐るし、目は灼けちゃうわよ】
いや、さすがに目は眩しくて灼けちゃうかもだけど、さすがに腐ったりなんてしないって。
文句言おうともしたけど、
耳にいれたら危ないのに違いはないけどね。主にオレの精神衛生が。
向かってくる黒い毛むくじゃらのに向かって、呪文を唱える。
――爆ぜて舞い狂え、【とびだせ火球くん】!
手のひらに作った火球ほ敵の集団の真ん中らへんに優しく投げてやると、
ゆっくり降下していく。
やがて、地面に落ちる直前に光が爆ぜた。
ドン!!
強い閃光と爆発が周囲を吹き飛ばす。
熱波がオレたちの周りに襲い掛かるが、オレには通じないし、カーヤの方は水の精霊が結界を作って守護している。
しばらく砂ぼこりで前が見えなくなった。
*
「さてと……、オレたちもエリー(仮)ちゃんたちのこと追いかけようか。」
「う、うん。でもどこに向かったか、兄さんにはわかるの?」
精霊王の正確な場所を知っているはずの風の精霊は、とっとと姿を消してどっかに行っちまったみたいだし。
「なんとなく、だけどな!」
ついてこいと言い、イェカルダの外、森に向かうことにした。
「うっわ、ナニコレ!?」
森に入ると、異常なほどに元気な植物にちょっぴりびっくりした。
あれえ、精霊王の森ってこんなにオレの身長ぐらいもある鬱蒼とした雑草に覆われてたっけ?
たしか、昔来たときはこのへん一帯を、炎の魔法で焼き払ったと思ったんだけどな。
それが数年しか経ってないのに……栄養満点の土壌だったのか?
それとも精霊王の影響なのか……?
ガサガサ……
それにしても
ガサガサガサガサ!!
「ぷっはぁ!前が見にくい!」
すこし広い空間に出れた。
見覚えのある樹の前に見覚えのある二人組が立っていた。
「な、なんだ……ドゥエスか」
金髪と茶髪の小柄な二人組、追いかけていたエリー(仮)ちゃんとレニアちゃんだ。。
「あ!エリー(仮)ちゃん!ここにいた!!」
オレは思わず、エリー(仮)ちゃんに掴みかかった。
「ち、ちょっと!」
勢いよく掴みかかったせいで、エリー(仮)ちゃんは引いてるみたいだ。
「ちょっと待ってーにいさーん」
後ろの方からガサガサ草をかき分けながら、近づいてきているカーヤの声が聞こえる。
【安心してあっちにいるわ】
水の精霊がここまでの方向を教えてくれてるみたいだ。
「まだ精霊王に会ってないよね!!?」
精霊王に会っていてただで済むとは思えないんだけど。
「会ったぞ。」
「え、中に入っちゃった?!えッ?」
「その樹のウロの中にいた者だろう?」
背後の大樹を指さしながら、エリー(仮)ちゃんはあっさりと言ってのけた。
え、中に入って何もなかってってこと?そんなばかな。
「ウロ……ああ、『ゆりかご』のことね……中に入って、二人とも何ともなかったの?」
「何ともって、なんとなく不愉快な空気だったぞ。」
そりゃ精霊王の気と瘴気が濃縮されてる場所だからね。
「気持ち悪い感じがしました。」
「……あー……その程度、だったんだ……?昔、うっかり迷い込んだ探検家は五分と持たずにミイラになったんだけど……、案外、頑丈なのねふたりとも……」
なに、ふたりとも精霊王の力には耐性でもあったの?
なにがあったのかもうちょっと詳しく知りたかったけど、ふたりともよくわかってないようだ。
【ホントに何ともなかったの?】
とキョトン顔の水の精霊。
「何かないとマズかったのか?」
【いえ……ね、風の精霊があんたたちを精霊王の生贄にしようとしてたようなこと言ってたから、コイツが慌ててランニングしたのよ】
「あ、慌ててねぇし!」
【ハイハイ】
【生贄だなんて、聞き捨てならないものだわ。私はただ……あの方に……精霊王に幸せになってもらいたいだけなのに】
風の精霊の声は二人の背後から聞こえてきた。
【そこのお二人はあの方の『新しい友達』にはなれなさそうだったけれど、仕方ないわね】
……ミシ…!
何かが来る…ゆりかごの中から、こじ開けて出てこようとしていた。
ミヂミジヂ……!
「どう、して……外に…?」
動けないように封印してやったのに……
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