88話
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精霊王のウロの中からは、何の苦もなく出ることが出来たようだ。
樹木の中に入ったとき同様、ひとの背丈もある大きな草が鬱蒼と生い茂る光景が広がっていた。
時間がどのくらい経っていたのか、あたりは薄暗くなっていた。
「それにしても、なんだか……あまり歓迎されてる感じはしませんでしたね」
レニアは軽く息切れしていた。気分が悪いのか胸元を抑えている。
「そうだな……精霊王の片足のぞんざいなツギハギは何だったんだ?」
「去年……でしょうか、風の精霊さんに渡したんです。」
「渡した?ここまで来たのか?」
「いいえ、精霊王のもとへは行けませんでした。たまたま向こうから来てくれましたので、そのまま渡しました。」
なら、あの雑なツギハギは風の精霊のせいだったのか。
「私がやるっていったら、丁重にお断りされました……」
すねたように唇を尖らせつつ、目を背けている。
本物のパーツかも疑わしいって思いながら、自分から精霊王の世話をするとは、ずいぶんと積極的な精霊だな。
水の精霊の地の精霊も精霊王にはあまりいい感情を抱いているようには見えなかったから、それぞれ不干渉でもしているのかと、勝手に思っていた。
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体制を整えて、もう一度ウロの中に入ろうかレニアに振ろうとした時だった。
前方にある草がゆれ、何かが接近しているのがわかった。
ガサガサ……
ガサガサガサガサ!!
「ぷっはぁ!前が見にくい!」
「な、なんだ……ドゥエスか」
等身大もある草の中から、にょっきりと長身紅毛のドゥエスが飛び出してきた。
「あ!エリー(仮)ちゃん!ここにいた!!」
ドゥエスは俺を見つけると、がっしと掴みかかってきた!
「ち、ちょっと!」
あまりの勢いに肩が外れそうだ。
苦情を言ったが聞き入れてくれる気はなさそうな勢いだ。
「ちょっと待ってーにいさーん」
【安心してあっちにいるわ】
少し離れたところから水の精霊にナビして貰っているであろうカーヤの声も聞こえてきた。
「まだ精霊王に会ってないよね!!?」
いつも余裕な態度のくせに何に焦っているんだ?
「会ったぞ。」
「え、中に入っちゃった?!えッ?」
混乱しているのか、
「その樹のウロの中にいた者だろう?」
背後の大樹を指さしながら、ややオーバー気味に説明をしておく。
「ウロ……ああ、『ゆりかご』のことね……中に入って、二人とも何ともなかったの?」
「何ともって、なんとなく不愉快な空気だったぞ。」
「気持ち悪い感じがしました。」
「……あー……その程度、だったんだ……?昔、うっかり迷い込んだ探検家は五分と持たずにミイラになったんだけど……、案外、頑丈なのねふたりとも……」
【ホントに何ともなかったの?】
とキョトン顔の水の精霊。
「何かないとマズかったのか?」
なにが要因化は分からないが、レニアはもとから人間だし、俺は人間の肉体に魔族とオマケがいるぐらいだ。
レニアと共通しているところなんて……『異世界からのきた者』といったところか。
……
なんだその『心配して損した』という表情と『珍獣を見るかのような視線』は……
【いえ……ね、風の精霊があんたたちを精霊王の生贄にしようとしてたようなこと言ってたから、コイツが慌ててランニングしたのよ】
呆れたような声でドゥエスを指刺している。
生贄?
「あ、慌ててねぇし!」
【ハイハイ】
【生贄だなんて、聞き捨てならないものだわ。私はただ……あの方に……精霊王に幸せになってもらいたいだけなのに】
風の精霊の声は俺とレニアの背後から聞こえてきた。
あわてて後ろを振り返ると、樹のウロの前にいつの間にいたのか、やや透け気味のエプロンドレスの女が立っていた。
『立っていた』というのが正しいかは分からないが相変わらず足先が見えない。
【そこのお二人はあの方の『新しい友達』にはなれなさそうだったけれど、仕方ないわね】
言うと樹のウロの中から吹いてくる風が一筋。
……ミシ…!
ウロの中――ドゥエスは『ゆりかご』と言っていたか。その中から、瘴気に似たものが噴き出してきていた。
ミヂミジヂ……!
その樹のウロからは、少年の姿のままの精霊王がツタを絡みつけたまま、空間を裂く行為に近いか、中からこじ開けるように這い出てきた。
「どう、して……外に…?」
ドゥエスの困惑したつぶやきは、俺の耳に聞こえた。
先ほどレニアがつけようとした眼はうまくつかなかったのか、空洞の穴が空いたままだ。
何処を見ているのかよく分からないが、滴る雫は地面に落ちると嫌な臭いがした。
――ィヴェオヴ!!
「―っ!」
少年はまたしても何を言っているのか分からない声でなにか叫ぶと、衝撃破だろうか?
放射状に何かを放った。
【闇幕壁!】
あまり使うことはなかったが、とっさに空間をカーテンのように手前に引き、簡易な壁を作った。瘴気の類なら大抵、障壁で防ぐことができる。
どうやら、これがいけなったらしい。
バシュッ――
鋭利なツタが近距離で爆ぜた
レニアは直線状にいた風の精霊が防いでくれたようだ。
【大丈夫?あなたは手助けしてくれたから、少しぐらいなら護れるわ】
「あ、ありがとう……ちょっと、体のあちこちが痛いけど、だ、だいじょうぶ」
見たところ怪我もあるようには見えなかった。
「お、おい、無事か?エリー(仮)ちゃん?」
ドゥエスはというと、相変わらず魔法の類は効いていないのか、そのままの場所で立っていた。
ちゃんとカーヤの盾になる立ち位置だ。
「…………」
これは……ちょっと、マズイかもしれない……
障壁を破った精霊王のエネルギーは、ひょっとして…神……の………………
遠くなる意識のなか、ちいさなだれかの願いが聞こえた気がする。
―――「終わりたい」……と
閲覧ありがとうございます。
次の投稿は 4/23 の予定です。
次回、ドゥエスのターン…の予定です




