83話
【――あ、あなたたち、何者なの?】
「ん?」
その声にドゥエスは振り向いた。
ドゥエスの背後の建物の陰から覗いているのは、薄緑色の髪を伸ばした優しそうな女性だ。
すこし後ろの景色が透けている。
水の精霊より小柄だろうか、耳や露出している肩の部分には鳥の羽毛のような部分が見えている。白を基調としたロングスカートから先に延びるはずの足は、薄いというかまるで幽霊のように『視えない』。
視えないのにその上は少し浮いている。
夜道に出会ったら悲鳴あげて幽霊だと言われそうだ。
「あ、風の精霊さん!お久しぶりです、レニアです」
レニアが旧知の友人を見つけた時のような明るいテンションで近づいていく。
風の精霊と呼ばれたその女性は、レニアが近づくと、警戒を一瞬解いたようだ。
【……あら、その声にそのカッコ、レニアさん?】
「覚えててくれたんですね!嬉しい!」
【私も、また会えてうれしいわ……その……ところで、そっちは何者です?この辺りには金目のものなんてないわよ?】
その視線は、ドゥエスと俺に向かってだろうか。
いかにも警戒している態度を崩さずに云う。
「なにもそこまで警戒しなくてもいいじゃないか」
こちらも文句ひとつ言ってやる。
【……だって、いまどき『精霊召喚の儀式』?そんなローカルネタ使って喚ばれたのなんて久しぶりで、遠目にみてみたら、若い集団が変な動きしているんだもの。……半歩譲っても怪しいから眷属に様子見してもらおうと近づけたら、今度は攻撃してくるし。これはどう考えても精霊ハンターか変人じゃない】
引き気味に文句言われてしまった。
ごもっともかもしれないが、勘違い甚だしいな。
俺はただドゥエスに言われるがまま、『儀式』を手伝い、『邪魔者を排除』しただけだ。
……
…………ちょっと語弊があるかもしれない。
「ひと違いだろう。俺たちは精霊ハンターでも変人でもない、だた、アンタに用があった旅人だ。」
きっとだれか違う人と勘違いしているのだろう。
「そうそう★オレ達は、風の精霊ちゃんに会いたくて、求愛ダンスしてたんだよ。変人でも精霊ハンターでもないよ~♪」
【それ以上近づかないで】
投げキッスしながら言い寄ろうとするドゥエスを、青ざめた顔で拒否し、見えない壁のようなものでガードする風の精霊。
風でできた壁だろうか?空間が歪んでいるようにも見えない。
「求愛ダンス……」
精霊を召喚する儀式が求愛ダンスという名の筋トレとは、聞いてねえぞ。
「あれは精霊への求愛ダンス……だったんだ……」
カーヤは納得しているようだ。
【カーヤ君、こいつのことは信じちゃだめよ。100パー嘘っぱちなんだから】
すかさず訂正する水の精霊。
「え、嘘っぱちだったんですか?!」
レニアは意外だったと言わんばかりに驚いている。
信じていたのか?
「嘘だとは思ったが、それで失敗したらドゥエスをぶん殴ってやろうかと思ってた……杞憂に終わったようだな」
ポツリといった独り言はドゥエスの耳には入らなかったらしい。
【――で、そっちの紅毛の……『紅拳の魔術師』さんだっけ?】
「ぐぅ!その名前……なんで知ってんのさ!?」
慌てて風の精霊の言葉を遮るようにドゥエスが口をはさんだ。
「『紅拳』?どっかで聞いたような気が……?」
「火の拳ならファイアパンチとかいうんだと思うが、大方髪の色……だろうか」
「なんでも、魔術協会に登録された当時の二つ名……みたいですよ。むかし兄さんが言ってました。本人の見た目と得意武器とか特徴的なものだそうで。」
魔法使いで拳……
この世界の魔法使いは物理特化型なのか?
筋トレしていたり、水の魔法を弾いたりしていたし……
【この子は噂話が大好きだから……】
ぽつりとつぶやく水の精霊。
こちらはどうやら、地の精霊の時ほど再会を喜んでいるようには見えない。
「そんなの、昔のことだから!忘れてー!」
ドゥエスはめずらしく焦っている。
「安心しろドゥエス。俺は、お前が昔、何をやらかしたのか知らない。『きっと昔やらかしてたんだな~』ってしか思ってないから、大丈夫だぞ」
ポンと背中を叩きながら、励ましの言葉をかけてやる。
カーヤもレニアも頷いている。
「うぅ……エリー(仮)ちゃん、励ましつつもその笑顔がつめたぁい……」
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