74話
最近あまりパンを食べてないなーって
「今準備してきますね」
相変わらず小さめの家の、こじんまりとしたテーブルに通されると、カーヤは台所に向かった。
【全く、アンタの魔法どうなってんのよ?】
「すごいだろー」
バシャッ!
「うわっ!」
【フン!】
水の精霊に自慢して何もなかったはずの頭上からバシャっと水を被ったドゥエスは、着替えてくると外に出て行った。
「あれ?兄さんは?」
「水に濡れて外に出てったぞ」
「……はぁ……?」
わけがわからないといった顔でいぶかしげにしたが、すぐに手にもったパン入りのカゴを持ってきた。
「ドゥエスさんと兄弟っていいました?」
ドゥエスを真似ているのか、腰くらいまでのさらりとした長い青髪をした青年、カーヤを見て、レニアは手を差し出した。
「はじめまして、冒険屋のレニアです」
「はじめまして、ぼくはカーヤ。アシャト村へようこそ。何もないところでつまらないと思うけど、ゆっくりしていってね」
そう手を差し出して、レニアとカーヤは握手した。
「エリー(仮)さん、おかえりなさい。」
「ああ、ついでだけどな」
にこりと微笑んだ彼の片耳には相変わずドゥエスと同じイヤリングが下がっている。
首からはよく磨かれた銀のロザリオが下げられている。
イヤリングついた大きな石には地の精霊、ロザリオには水の精霊がそれぞれ契約したものだ。
本体が此処にいるわけではないが、それぞれの精霊との対話や精霊の力を使うことができるんだとか。
なんとなく前にカーヤにあった時より、髪がサラサラしているような気がする。
「あ、わかります?水の精霊さんのお陰で、ここ数日、お風呂に入れるようになったんですよ」
薪を集めて火を沸かす分が増えた訳じゃないので、相変わらず水風呂が多いんですけどね。
とつぶやきながら、長い髪をつまむ。
「よければ、皆さんにも非常パンをいくつか持って行ってもらいたいんです」
「非常パン?」
素直に疑問を口に出すレニア。
「実は、井戸の周りを整備するのに、村の人にも水の精霊のこと話したんですけど」
【アタシはカーヤ君だけに使ってもらいたいんだけどねー、そのお人好しなトコロも可愛げあっていいなあって思ったのよ】
水の精霊がぶつくさ言っている声だけが聞こえてきた。
「パンのおばさんの耳に入ったら、俄然、創作意欲が溢れたみたいで、今までとは違ったパンを焼いてくれてるんだ。これがまた凄く固くて……。お陰で村の備蓄庫が麦粉(食材)じゃなくてパン(武器庫)になりつつあるんです」
「武器庫て」
いくらなんでも言い過ぎでは?と思いつつ差し出されたパンを手に取ると、こりゃまた固かった。
前回いただいた時より硬度がある。
軽く拳でつついても帰ってくる音がやや鈍い「ゴッゴッ」とした音だ。
色は焦げているのか、少し濃く、円形をしている。
「カンパーニュの類でしょうか?」
横にいたレニアがパンをひとめ見て、パンの種類を説明する。
「カンパーニュ?」
「ハード系のパンの種類ですわ。田舎パンってやつです」
パンにそんな名前があったのか。
固いものといえば棒状のフランスパンぐらいしか名前を知らなかった。
「薄く切ってジャムを付けたり、魚やハムと野菜とかチーズなどをサンドイッチにして食べると美味しいですよね。でも、塩かけてオリーブオイルを付ける方が香りがいいです」
お腹もちもいいですし、と付け加えている。
「そんな食べ方があったんですね……レニアさんは物知りですね。僕、牛乳に浸すぐらいしか思いつかなくて……」
差し出されたパンを触り、
「あ固」
さしものレニアも予想以上の硬度だったらしい。
そのリアクションに一瞬不安げになったカーヤだった。
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