68話
朝、案内のあった例の坑道入口にくると既に何人かの人だかりができていた。
坑道入口から入って少しの場所に広め広場になっているところがあった。
中央には、テーブル状に平らで大きな台座。
今回はさすがに犬のぬいぐるみは撤去済みのようだ。
全員の点呼をとっていた中年男性がこちらに気づき話しかけてきた。
「おお、アンタらか。学生のお守りは大変だったな」
おつかれ
と励ましてくれた。
「それにしても、あの学院の生徒は毎年、何かしらやらかしてくれるよな」
「そうだよな、今回は迷子程度の可愛いもんだったけどよ、何年か前は精霊石の盗掘とかもあったねぇ。」
と別の屈強な初老の男性が話を続けた。
「炭鉱吹き飛ばされちゃかなわんもんな」
「はっはっは!さすがにあんな馬鹿な真似する奴はもういないだろうよ!」
学生って、リーブラたちの学院のことだろう。
実際には迷子じゃなくて盗っ人だったわけだが、そこは精霊教会のレーザックは伝えてなかったのだろうか。
そういえば、ドゥエスが『むかし、炭鉱を吹き飛ばした』って言ってなかったか?
チラと後ろに立っていたドゥエスを見ると目を合わせようともしない。
それどころか、同じく視界に入ったレニアも明後日の方を向いている。
レニア、お前もか。
**********
「お三方、魔法は使えますか?」
「ああ」
「任せてください」
俺も『この世界ではない』魔法の類に近いが使えないこともない。
「なら、なんかこう……馬力あげるヤツお願いしたい」
馬力?
「ば、馬力あげるヤツ?ひょっとして、筋力向上系のバフとかってこと?」
なんだかふわっとした指示で、さすがにドゥエスもひきつりつつ、説明を求めている。
「ああ、俺たちの面子じゃ、精霊石の重さで足腰がやられちまいそうで」
言われて周りを見てみれば屈強な初老の男性は腰が曲がっており、中年の男性はよく見たら片足が義足、その他の者も皆どこかしら怪我をしているようだった。
見た目は元気そうに見えたが、年齢層が思ったより高かった。
「もちろん!そのあとの乱ちき……ゴホン!ありがたーいお祈りをするためじゃよ」
ちゃっかり柱の影からチラリと見え隠れしている樽に目線を送っている。
「で、運び入れる予定の精霊石ってのはどこにあるんだ?」
「こっちで、す……」
死にそうなうめき声にも聞こえなくもない声が入口から聞こえてきた。
…ギ……ギギ……
荷車を引いてきたのは30代くらいの宝石屋の主人、本人に直接名前は聞いていなかったが、バーリーという犬派の男だろう。彼のほか何人かの男で荷車をひいてきた。
「も、もう……ムリぃ…」
「ぼ、ぼくったちの、し仕事は、ここっ、までで、すん…ん、あとは、おね……っがいし、ま、す…」
よっぽどつかれたのかヘロヘロになりながらバトンタッチしてきたのは列の後ろにいたヘイさんだ。
「こいつらは途中で変なモンを置かないように監視の意味も兼ねて、搬入作業してもらってたんだ」
「おー珍獣コンビー少しは筋トレになったか?」
中年の男性が茶化している。
「お、おやっさん…ぼかもう無理ぃ」
荷車に乗せられていたのは、数人分の背丈もある大きな青い鉱石だ。
透明感はあるが、キラキラと金色に光る何かの内包物が見てとれる。
「あれが、精霊石……」
「大きいですわね」
「この町の特産、精霊石『オメガ♪バージョンつー☆ちゃん』じゃ」
「名前」
思わず突っ込みをいれずにいられなかった。
石に名前つけてんのかこのじーさん。
「前までの精霊石『おめが☆ちゃん』の形も、こう安産型でよかったが、数週間前に倒れて壊れてしまっての。壊れた部分は綺麗に研ぎまくって、つやっつやの美肌にしたんじゃ」
あんたは加工屋だったのか。
「さながらその形は美を象ったヴィーナスのおし…臀部のかけらといっても過言ではない!ランプや太陽の元では青き清浄な輝きを有するが、月光のもとではその輝きは淡い桃色にも見えなくもないという!」
「わぁロマンだねぇ」
「そぉですか?」
ドゥエスはなぜか感心している。
石はどうみても丸みを帯びていないし、月の光のないこの場所ではその色は一生拝めないのではないか?
「わかってくれるか紅いの!よければ欠けた精霊石は臀部のかけらとして二トラス名物として売り出す予定だから、楽しみに待ってておくれ!」
ちゃっかり販促してくるじーさんである。
「えー、そりゃ面白そうだけど、オレ胸派なんだよねー」
ドゥエス流のお断りのつもりなのだろうか?
「なんじゃ、そうか勿体ないのぅ」
残念そうな態度を隠そうともしないじーさんだ。
「あの」
まだ喰いついて来そうなのをレニアが遮った。
「何も人に魔法をかけなくても、ゴーレムを召喚するとか、私の魔法で乗せるってのはダメなんですか?」
「おお!魔法で重いものが動かせるのか?そいつは助かる!」
中年男性はちゃっかりゴブレットを手にしている。
どうやら目的は石を乗せた後にあるらしいな。
「地の……」
「まあまあ、エリー(仮)ちゃん、ここは彼女に任せてみない?」
ドゥエスと契約している地の精霊がやっていたような地面の隆起を利用すれば簡単なんじゃないかと言おうとしたが、何故かドゥエスに止められた。
「あまり強いものじゃないですけど」
じーさんも周りの男たちも早くしてと言わんばかりの視線を浴びせている。
「では、ちょっと失礼して……【静烈風】!」
……ゴゴゴゴゴゴ…
レニアを中心にして強風が巻き起こり、荷車に乗せられていた精霊石がふわりと宙に浮いた。
…ズズン……
やがて石の台座の上に精霊石が配置されると、周りにいた男たちからパチパチと拍手があがっていた。
何故レニアはこっちをみてドヤ顔しているんだ?
「地の精霊を呼んでやってもらえば良かったんじゃないのか?」
ちいさく呟いた声はドゥエスには届いたらしい。
「レニアちゃんがやりたそうにしてたから、いんじゃない?」
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