62話
「……ところで、冒険者?をしていると言っていたな。何か働ける道でもあるのか?」
何故ここに、本来であれば元の世界にいるはずのコイツがこの世界にいるのか聞きたかったが、それより直近のお金のことで頭がいっぱいだったせいか、そっちが声に出たようだ。
「はぁ……久しぶりに会ったと思ったら開口一番がそれですの?金の亡者」
さしものレニアも呆れている。
「あ、いや、他意は無いんだが、つい……な」
手違いで礼金らしいものが貰えなくなったなどと、言いたくはなかった。
「この世界にきてから数年、魔法学院で魔法を学び、今は冒険者ギルドで仕事の斡旋をして ま す の!」
形式張って端的な回答をされた。ちょっと語尾が強めだったのは気のせいか?
いやタレ気味の目尻がつり上がっているようにも見える。
「――そんなことより、どうして私がこの世界にいるのか聞いてくださいませんの?」
フグみたいに膨れられてしまった。
「あ、ああ……そうだったな。なんで異世界にいるんだ?レニア。それに数年前って言っていたが……?」
いうと、プイとそっぽ向きながら呟きはじめた。
「数年前、正確な年は忘れちゃいましたが、ある食材を求めにポータルを使いましたの」
「数年前?俺がポータルを越えたのはつい数日前だぞ」
俺のもといた世界では、俺がこの世界のポータルに入る前にはあちら側、それも特にガルヴァートに頻繁に会いに来て居たような気がしたんだが……
「おに……あなたが使ったポータルを使って、じつはこっそり……」
俺がこの世界に移動したあと、同じポータルをぐくり過去に飛んだってことか。
「そうしたら、すこし前の過去?に飛んだみたいで」
「何の用があったかは知らんが、用がすんだのなら帰ればいいだけだろ?冒険でもしたかったのか?」
「いえ、そうじゃなくて……手違いで、鍵を落としてしまって、帰れなくなってしまって……」
ほうほう、ポータルに使う鍵を……って、E?
「鍵を……落としただぁ?!」
鍵は黒氏が俺にくれた世界間を渡るために使っているものだが、持っているのは俺だけじゃなく、黒氏とガルヴァートもそれぞれ世界を渡るための補助具として持っているものだ。
まさかコイツも持っていたとは……
「え、えぇ。さすがに申し訳ないのと、その、すぐに帰れなくなってしまったので……この世界で慈善事業を兼ねた冒険者をしてましたわ」
「ほ、ほう……まさか換金したわけではあるまい?」
鍵といっても、落としても術式を知らない一般人には何の変哲もない金属の塊だ。
すこしは……いや、たいした金にもならんだろう。
人手に渡っても意味はないが、俺達のようなポータルを使う側には無くてはならないものでもある。
「――っ!誓ってもそんなことありませんわ!」
「だいたいの事情は理解したが、剣も魔法も使えない人間のお前が、なにかできることでもあったのか」
少なくとも、コイツは元の世界では一般人、女子高生だったはずだ。
「そこは、筋トレと努力のたわものってものですわ、学院に通って勉強したら自然と魔法も身に付きましたの」
筋トレがどこに関係あるというか?
「筋トレに興味があるようでしたら、南部地方に行くことをお勧めしますわ!魔法や精霊に頼らず、なんでも筋肉で解決してしまうすごい遊牧民おりますの!」
「まるで、ドゥエスのような世界だな」
若干めまいのようなものを覚えつつ突っ込むと、あからさまに嫌そうな顔をした。
「ちょっと!そういえば一緒にいたあの人は何者だったんです?!強い魔法が使えて、地の精霊とも仲がよかったみたいなのに、ニトラスの精霊教会のレーザックさんと険悪そうでしたし、そんなすごい方なら私がいた魔法学院でも名前を聞いててもおかしくない筈なのに、聞いたこともありませんでしたわ!ドゥエスって方、何者なんですの?」
たしかに、何者なんだろうな?
あのドゥエスという男、精霊王について何か知ってそうだからと同行して貰っているが、自信は地の精霊と契約し、水の精霊を彼の弟と契約させたりして、そのくせ精霊を奉っている精霊教会や魔法使いとは剣呑な仲だったりと、いったい何者なのか、あまり考えないようにしてきたが、そろそろそうも行かなくなってきたか。
本人は隠そうとしているようだが、いずれ障害になるようなら、知っておいたそうがいいだろうな。
「すんごい悪そうな顔になってますわよ?」
「……気のせいだ。ドゥエスとは精霊王のすみかを知っているようだから案内して貰うつもりだ。何者なのかは……いずれ、聞いてみるさ」
「……能天気。その身体、お兄様の身体に傷でも付けたら容赦しませんわよ」
「ハイハイ」
コイツは、レニアは、この身体の持ち主である人間の男『貴幸』の腹違いの妹だ。
貴幸が命を諦めたあと、つまりは俺が契約したあとに『そういう存在』がいることを知った。
貴幸本人も知らなかったようだが……
最初の頃はガルヴァートがどこからか拾ってきたのかとも思っていた。
「そういえば、ドゥエスには俺が異世界から来たと伝えてはいるが、お前との関係は言ってない」
説明するのも面倒だ。
勘違いされそうならいずれ説明するだろうが
「そうでしたの。きがねなく言ってくれて構いませんわよ。なにもやましくないんだし。……それより……」
目線を逸らせたかと思うと、歯切れ悪そうに聞いてきた。
「あの……今のあなたのことは、なんて呼べば良いですか?……何でも屋さん?……エリー(仮)さん?」
ん?呼び方?
そんなくだらないことで悩んでたのか。
「……好きに呼べ」
事実は変わらないのだから。
「じ、じゃあ……呼びやすい呼び方で勝手に呼ばせて貰いますね……お兄様」
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