58話
しばらくすると、ラルカはぱちりと目を開け、ニッコリ微笑んだ。
【ん〜!ちょっと狭いけど、何とか入れたみたいですね〜】
背伸びをしながら、ラルカの喉から聞こえたのは、今しがた中に入り込んだと思しき地の精霊の声だ。
「……アスク様?」
「誰だ?」
思考より突っ込みが先に出てしまった。
「そういえば、どこぞの精霊教会二トラス支部のおっさんが、地の精霊ちゃんをそんな名前で呼んでなかった?」
ドゥエスの横からの説明で、なんとなく思い出した……ような気がする。
【そうですよぉ、このワタシ地の精霊のチカラで、この子の一部の肉体を再生成してマナが精霊王に吸収されないように補填してぇ……あ、そんな説明いらない感じですかぁ?】
説明が長くなりそうだと本人も気付いたのか、適当に語っている。
「それはそうと、精霊王の欠片は、まだラルカちゃんの身体の中にあるんだよね?傷口塞がっちゃったら取れなくない?」
スカーフで隠されたが、傷口があったところの皮膚は綺麗に塞がり、黒く変色してしまっていた。
【ああ~、そうですねぇ】
精霊体のときより、人間の肉体がなじんでないのか、やや間延びしたような話し方になっている。
ラルカの身体に憑依した地の精霊は、スカーフの内側に右手を入れて、しばらくもぞもぞしていたと思ったら、
…ずっ…
【っんっ…っしょ!】
「な、なにして……?!」
ズズズ…ズ……ずりゅん!
【――ふぅ!】
ひといきに腹の中から精霊王のやせ細った腕を抜き取った。
「っひぃ」
「今何が起きたんです?」
青ざめながら呟くレニアと、リーブラの小さな悲鳴は、のんびりとした地の精霊にも聞こえたらしい。
【えっと、傷口を開きながら回復して抜き取ったんですけど……、なんとかなりましたァ】
そう言いながら、右手に持った腕をもてあそんでいる。
精霊に憑依された肉体では、皮膚が黒化することなく持つことができるのか。
【この精霊王の一部は、あんまり人の目に入らないようにしたいんですけどォ……できればどっか遠くに捨ててもらうとか――】
「いらないなら、くれないか?」
黒氏に云われた『頭部に近い素材』にはほど遠いかもしれないが、使えなくもないだろう。
【アナタにあげるくらいなら、マグマに落としてきます】
ダメ元で提案したんだが、断られてしまった。
「エリー(仮)ちゃん……何に使うつもり?」
おっと、ドゥエスには『精霊王に会いたい』としか行ってなかったんだったな。
そろそろ本当のことを話すべきか?
そんなことを悩んでいると、ドゥエスは静かにラルカの姿をした精霊に近づき、その腕を鷲掴みにした。
「ドゥエス?なにを」
しようとしているのか聞こうとしたところ、ちいさく何かを呟いていたのが聞こえた。
「何をしようとしているか分からないけれど、よくないことに使うつもりなら、ここで燃やしておくよ、精霊戮炎!」
「ちょっ!それは!!」
ボォウ!!
途端、ドゥエスを中心に魔法の炎が巻き起こり、彼の手に持った精霊王の腕が業火に焼かれていく。
あぁ……俺のものになるはずだった素材……
彼が唱えた魔法は確か、彼のオリジナルの魔法『マナを断ち切って燃やす』とかいっていたか?
マナの塊のような精霊王の欠片にもどこまで効果的なのか、気になるところでもあるが、それより、本来は貴重な素材になるはずだった『それ』を無常に焼き払っていくその姿に不満を隠しきれないでいた。
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「―ていうか、ドゥエスさんも一緒に燃えちゃってますけど……大丈夫なんですか?」
「心配ご無用!オレは火の魔法は利かない体質だからね!」
そう言ってドゥエスはレニアにウィンクをしたが、彼女があげた小さな「げ」という声は激しい炎にかき消された。
「なんなんです?あのひと……」
「……汚物を見るような目で俺に質問されても困るな」
「あなた、あのひとのお仲間じゃないんですか?」
「さぁな……付き合いは短い方だ」
「へぇ」
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