57話
「それで?まだ生きてるって言ったが、あんたにはその子を治す方法があるのか?」
地の精霊の引っ掛かる言葉に質問をしてみた。
「それもそうですね……地の精霊さんの言い方だと、症状を抑えることができる
……みたいな言い方ですけど」
となりにいたポニーテールの女冒険者レニアも気にはなったらしい。
ドゥエスはこめかみを抑えながらブツブツなにか呟いているが、何を言っているのかは聞こえない。
【その通り、進行を抑えるだけよ。それに、治し方って言っても、魔術や私みたいな精霊の力では無理ですよ。黒化した細胞を新しいものにすげ替えて、精霊王の欠片に触れてしまったものも他の新しいものに取り替えしちゃえば治せるかもしれないってことです】
物理かよ。
おそらく彼女はドナーのようなものを言っていると思うのだが、とくに感情を込めずに云う精霊の言葉のせいか、よく聞くパラドックスのひとつである『テセウスの船』を連想させたのは、なぜだろうか。
「新しいもの……」
青ざめて呟くリーブラを片目に、精霊は続ける。
【そうよ。全部交換しちゃえば助かりますよ。それまで私が面倒見てあげられます】
「その間、精霊王の欠片はどうなる?」
精霊を祀る職をしているというレーザックが口を挟む。
【応急手当をした後なら、ある程度は私がマナを補給し続けられるので、抜き取って貰って構いませんよ。あ、直接素手で触っちゃダメですからね!貴方も彼女みたいに、マナを抜き取られながらその辺に佇む彫像のひとつになっちゃいますよ】
「そんな危険なものだったのか……知らなかったな……」
リーブラと動揺、レーザックも青ざめている。
「なんの準備もなく精霊王に近づいちゃならねえってことだ。まあ知ってるヤツなんてそうそういないけどな……」
独り言のように呟いたドゥエスに、レーザックは睨んだ。
「紅炎の魔術師……貴様、われわれ精霊教会の者でもないただの一介の魔術師のくせに、何を知っているというのだ?それも地の精霊様からの恩恵でも受けているとでも云うつもりか?」
「ふん!馬っ鹿馬鹿しいね。オレは魔術師なんて儲からなくて非現実な仕事人は辞めた身分なの。一般人!遊び人にめんどくさくなりそうなこと聞かないでくれない?」
不振を露にするレーザックを適当にあしらうドゥエス。
魔法が使えれば便利だと思うのだが、儲からないのか。
【ちょっと集中したいから、静かにしててくれる?そこの紅い契約者さん。彼女助けたいんでしょ?】
「うー……今のはオレのせいじゃないってのに……」
地の精霊はドゥエスを黙らせると、ラルカにそっと近づいた。
すこし痙攣をしているが、ほとんど彫像のようになってしまった彼女に向かうと、
そのまま優しく抱擁するように両腕を差し出し、地の精霊を中心に、柔らかい光が辺りを照らし出した。
「ぐ……」
うっかり直視していたせいで、軽く目眩ましを食らった。
「上級の回復魔法の類い……でしょうか?」
となりにいたレニアも眩しそうに手で影を作りながら実況してくる。
この世界の魔法の事情をあまり知らないから「そうか」しか言えん。
「どうやら成功したみたいですね」
目を向けると光がおさまったところだったのか、地の精霊の姿はなく、小柄なラルカだけがいた。
胸元に空いていた穴は塞がっていたが、血の滲む服の上から覗くその部分には黒く変色した皮膚が見えた。
意識は……戻っているようには見えない。
「「ラルカ!」」
「あ、まだ見ちゃダメですよ!」
駆け寄ってきたリーブラとジェミンをレニアが遮り、持っていた大振りのスカーフで彼女のはだけた胸元を隠してやった。
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