41話
「……他にも誰かいるのか?」
あまり大きくはないが、後ろから声が聞こえた。
振り向くと、白いローブを着た男、レーザックがこちらに近づいていた。
「―なっ!?」
レーザックは地の精霊を見ると驚愕の声を顕にした。
「あー……騒がしかったか。悪かったな」
「そそそっそ……!」
謝罪をするドゥエスは視界に入っていないのか、ワナワナと肩を震わせている。
「そそそそこにいるのは…地の精霊アスク様!?」
「……え」
俺たちと対面していたのが一目で地の精霊と分かったのか
「知ってるのか」
「よく分かったね」
【あなたは……教会のヒト……?】
「わ、私は、精霊教会ニトラス支部、副支部長補佐のレーザックと申します!」
そう。
王都の地下で見た精霊教会の信者のものと同じデザインのローブだ。
精霊教会の人間にいい記憶はないのだが、あそこだけが例外だというドゥエスの話を鵜呑みにしていいものなのか、いまいち判断がつかずにいた。
そして、この男は、ニトラス支部……だと名乗った。
町の教会にまだ行ってなかったな。
「教会……」
「二トラスは元々鉱山の町だからねぇ。町ができる前から地の精霊様と繋がりが深いんだよ。もっと地の精霊ちゃんと仲良くなれれば、さらに深い鉱脈に安全に潜れるようになるんだ」
ドゥエスは来たことがあるのだろうか?
「だからこの二トラスの住人が繁栄していられるのは、地の精霊ちゃんと人間とが良好な関係が保たれている……教会が役目を果たしているって証拠なんだ。どこぞの教会とは違うから安心して良いよ。」
わざわざドゥエスが言い直したのは、レーザックに気を使っているからか?
「キミは教会に興味があるのか?」
精霊そのものに興味はあるが、あんたらには全く無いな。
あえて口にすることでは無さそうだが。
「もし気になることがあれば教会に来るといい。新しい信者はいつでも歓迎するよ。」
「…… あんたらは精霊にせがまれたら、人間を生け贄にするか?」
「ちょ、エリー(仮)ちゃん?そこ、ストレートに聞いちゃう?!」
ドゥエスが待ったをかけてくる。
「生け贄?なんの事か分からんが、人聞きの悪いことはやめてもらおうか。私たち精霊教会の理念は《精霊を崇め、人を分け隔てなく守護し繁栄を培うもの》だ!云うに事欠いてその護るべき人間を生贄だなどと……!」
強く否定されてしまった。
どうやら警戒していたのが裏目に出たようだ。
彼は、正常な人間のようだ。
「そ、そうか……早とちりだったようだ。すまん」
【まぁまぁ、レーザックさん】
「……!私の名前!!!!!呼んでくれた!!」
そこで喜ぶのかよ。
ローブを外すつもりは無いようだが、彼は歓喜し、テンションが上がってるらしい。
土下座して何か祈りのポーズをとっている。
【いやあの、土、ついちゃいますよ?】
さすがの地の精霊も引いているのがわかる。
*******
「アクスって名前だったのか?」
ぽそりとドゥエスに聞いたが、彼は首を傾げている。
「うーん、そんな名前だったっけ?」
【教会の方々が愛称みたいな感じでそう呼んでくれてるだけで、その、違うんですけど……まぁ悪くない愛称みたいなものかなってそのままにしてます】
……本人がいいならいいのか?
「そういえば、先ほどからアクス様と対等にお話していたようだが、君たちは何者なんだね?酒場のマスターのお知り合いか?」
少しテンションが落ち着いたのか、声のトーンは下がったが、言語が少しチグハグ感が抜けていないようだ。
ドゥエスに答えを求めている。
「何者って、さっきも言った通り、オレは遊び人さ。ちょっとワケあって彼女と契約してるんだけど」
「はぁ?契約!?遊び人風情が???下位精霊の隷属ではなく、人間と契約することは滅多にないとされる上位精霊アクス様と?!いやいやいや、ただの遊び人な訳なかろう?!」
そうなのか?
ドゥエスとカーヤ……
俺の目の前で割と簡単に契約してる奴らがいるが、実は珍しいことだったのか?
「一緒にいる君も、世間知らず…というか……魔法使いというわけでもなさそうだが……」
レーザックの疑念の矛先がこちらを向いた。
正直に異世界から来たといっても通じるのだろうか?
「俺は何でも屋をやっている。訳あってドゥエスと行動しているんだ」
「遊び人と何でも屋……遊んでるようにしか聞こえないな…あ、すまん嫌味じゃないいんだ」
おいおい。
さすがにその誤解は解かないとならないな。
説明をしようとしたレーザックと俺の間に立ちはだかるように地の精霊が間に入った。
【赤いのが元・炎の魔法使いで、黄色いのが異世界の者です】
ぶふっ
地の精霊の身も蓋もない説明に吹き出してしまった。
いや、間違いではないんだけどな。
「なんだ。やっぱり魔法使いなんじゃないか。それに異世界……うん?異世界?さっき名乗った時は何でも屋ではなかったのか?」
「ある目的のために、こことは異なる世界から来たんだが、何でも屋で生計を立ててるから、そう名乗っている」
「は、はぁ……そういう事か」
納得して貰えたようだ。
「それで、今は何か依頼は受けているのか?」
「一応な。坑道の立入禁止エリアに迷い込んだネズミの保護……といったところだな」
「ネズミ……ねぇ……」
ドゥエスが言い得て妙だなとつぶやく。
「ネズ……ひょっとして、アーリア学園生たちのことか?」
一緒にいたアンタも関係あるんじゃないか。
「あんたは、二トラスの教会の所属だったな。地元の者なら、彼らを引率してたんじゃないのか?」
「私は確かに地元のものだが……引率は違う。今回は冒険者ギルドに依頼していて、、彼らが入る数日前、坑道入口の精霊石が何者かに破壊され、鉱夫組合長のバーンザーさんから、地の精霊殿に何かあったのではないかと相談を受け、その調査をしていたのだ。」
【二トラス教会の方々は皆さん真面目な方が多いんですよ。特に今の教会の方は優しい方ですよ。】
優しい笑顔を向けている。
そりゃ『精霊には』優しくするんだろな。
「なるほど、それがアンタの外面か」
【なんですって?】
つぶやきがうっかり声に出ていたらしい。地の精霊が予備動作なしにこっちに近づいてきた。
「!……いひゃい」
ほっぺをつねられてしまった。
「まぁまぁ、精霊ちゃん、そのくらいで……」
【んもう!めーですよ!】
ドゥエスが止めてくれたおかげで頬が生き残った。
「それで、レーザックさん、あの精霊石の破壊って、何か心当たりがあったのかい?」
「アクス様に触って貰えるだなんてなんて羨ま……ゴホン!まだ予想の段階だ。精霊どのの様子を見に行く途中、彼ら、アーリア学園の学生達に会ったのだが、トラップに巻き込まれて足止めを食らっていたのでね」
【まさか敬虔な信者を巻き込んでしまっていたとは露知らず……ごめんなさいね】
「あっ!いえ!こうしてアクス様に会えてラッキー……じゃなくて、教会の信者たるものの勤めと申しますか、どんな人でも困っていたら助けない訳にはいきませんから」
仕事熱心なのだろうが、裏表忙しないヤツだな。
*******
「あの〜……話し中悪いんだけどさ」
黒髪のジェミンが、こちらの様子を伺いながら遠慮がちに声を掛けてきた。
「……その……話終わった?」
「あ、ああ。放置して悪かったな」
いま行く、とジェミンたちの休んでいるところに戻った。
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