37話
「じゃ、お先に」
ドゥエスはそう言って、少し助走をつけたと思ったら、暗闇の穴に向かってジャンプした。
自由落下するとは思わなかった。
【風の羽衣】
空中で落下しながらドゥエスは魔法を発動させた。
ドゥエスの身体の周りを風が包み込み、落下速度が緩やかになった。
風を纏う魔法か。
そのまま暗いところに降りていき、やがて見えなくなった。
「なるほど。なら俺も降りるか」
「お二人が降りたら、私は一旦マスターの所に戻ってます」
「ああ、案内ありがとう」
ヘイさんに軽く挨拶をすると、俺も大穴に向かい、手を前に差し出す。
【空間天幕】
薄い空間の隙間に手を差し出すと、色の違う薄いヴェールのようなものがある。そのヴェールをつかみとり、手元に引っ張ると俺の肉体は別の場所に出た。
言葉のとおり、空間を渡って離れたところに移動できる術だ。
大まかな場所さえ見えていれば問題ないが、遠すぎる距離は使えないのが難点だ。
「あれ?エリー(仮)ちゃん、オレより先に着いたの?」
目の前にはドゥエスがいた。
無事にドゥエスの近くをたぐり寄せることが出来たようだ。
「空間を渡っただけだ。」
驚くドゥエスにちょっぴりドヤ顔してやった。
暗いので気付かれていないと思うが。
「空間を渡ったって……?いつの間に?なにそれドユコト?そんな簡単に出来るもんなの?なんかオレの見てないところで、エリー(仮)ちゃんひとりで面白そうなことしてない?」
「それは……気のせいだ」
「知的好奇心というか、面白そうなことするなら今度から前もってそう言ってよ!」
「お、……おう。見たかったのか?」
「そりゃそうさ!オレも一緒に行けたら楽じゃん」
「コレは1人用だ」
そこまで興味持たないと思っていたので、前かがみ気味に食らいついてきたドゥエスが少し意外だった。
まあ、普通の人は渡らないか……。
「ちぇー」
俺の力では1人分しか運べないというより、誰かと一緒に渡ったことはなかった。
試してみるのも良いかもしれないな。
****************
先ほど投げ落とした小石がわりと遠くで光っていたが、わざわざ取りに行くのが面倒なので、右手に新しく灯りを作る。
ここが穴の底だと思うが、どこかから風が吹いているのか、そこまでじめついてるようには感じなかった。
全体を見ておきたいので、照明の術をかける。
【拡散】
俺の魔法を闇のなかに拡げた。
前回の用途通り、水に反射させたかったが、どうやら思った効果とは少し違ったようだ。
なんというか、思ったほど明るくない。
そしてー
「お、あそこに光ってるのは…!」
キョロキョロし出すドゥエス。
地面を照らし、石に含まれる金属光沢がキラキラと見えてきた。
「……なあ、エリー(仮)ちゃんのこの術、オレにも使えたりする?何かしながら出来そうで便利だよね」
「ふむ…この世界の魔法がどんなものかはわからないが、やろうと思えば誰でも出来るんじゃないか?」
言いながら、使ってなかった方の手でもうひとつ光球を作り出す。
しばらく真面目にそれを見ていたドゥエス
「マナを消費しているようにも見えないんだけど、そもそもエリー(仮)ちゃんの魔術ってどんな仕組みなのさ?」
「知人に教えてもらった方法だからなぁ……魔法の類かどうかもわからん」
黒氏に『知っておけばそのうち役に立つ生活術』とか言われてなんとなく覚えたものだが……
「その知人って……何者?」
「一部のひとに魔女って呼ばれてるらしい変わったやつだ」
「今度その知人紹介して!」
お前、絶対『女』の部分に食らいついただろ
「……後悔しても知らんぞ?」
「え?既婚?」
「………………言えん」
「くそっ……!どうして世の女性は、オレを待っててくれないんだ!?」
一人で何かに対して悔しがるドゥエスだが勝手に何かを勘違いしているのだろう。
…………いくら俺でも、知らないものは答えられん。
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