36話
さっきの休憩所から分かれた何本かの道のうちのひとつに入り、いくぶんかの分岐を進んだところで、ヘイさんは立ち止まる。
「どうかしたのか?」
「いえ、この辺りから道が複雑になるので、いつもならわかりやすい矢印のマークが描いてあるはずなんですが……壁が崩されてますね」
俺とドゥエスも言われて壁を見ると、周りの壁より少し新しく削られたような壁がみえた。
言われても分からないだろうな。
「これだと帰り道私たちも迷いかねないですね。ちょっとまっててくださいね」
そう言ってヘイさんは、ポケットから何かを取り出すと、石壁に向かって何かの模様を書きはじめた。
蛍光塗料だろうか。
「……何してるんだ?」
「コレですか?このマルク社製の特殊塗料でペイントすると暗い坑道内でも発光するんですよ。仕組みはよくわかりませんが、これがあれば道に迷わなくてすみます。」
「それは便利そうだな……」
便利そうではあるのだが……
…………
ランプの光を受けて蛍光するそのペイント部分は、タテに長い二本の角?のついた頭部に大きめの胴体、そこから生える四本脚の哺乳類だろうか?
「こうして道しるべに猫様を描いていくんですよ」
猫……だったのか。
ウサギみたいに耳が長いのが違和感あるんだが……?
まじまじと見ているとその生き物回りに放射状の線をつけ足しはじめた。
彼の信仰の対象らしいので、後光のつもりだろうか?
「……ね…こ……?」
「え、何か言いました?」
ぽそりと呟いたドゥエスのつぶやきに反応してきた……
「あ……なんでもない……」
「お二人も描きます?オヌコ様」
「絵心ないから遠慮しとく……」
「……オレも。それより早く進まないか?」
「それもそうですね。壁一面のオヌコ様宇宙創成図はまたの機会にします」
すこししょんぼりしたようだが、ヘイさんが満足した頃にはいろいろとコトが終わった頃だろう。
「そういうのは今じゃなくて、アンタの一人の時間を使った時にでも進めてくれ……」
苦笑いしながらとどめに入ったドゥエス。
「はい。……あ、こっちの道です」
やがてキリが付いたのか、案内を再開するヘイさん。
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しばらく進んでまた分岐、ヘイさんはまた目印を書き始めた。
今度はさっきのと同じ顔だが、ポーズが違う。
今度のは脚が細く長い。
胴体の下半分にぐるりと長い脚?のようなものが巻きついている。
ひょっとして脚を折り曲げて座っているポーズなのだろうか?
「……」
絵心については人に言えたタチでは無いので何も言えないのだがな。
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「では、進みましょうか……もうそろそろ問題のポイントに着きます。」
「例の……行方不明になったっていうのは、まだ先なのか?」
「もうまもなくですよ。あの曲がり角をまがった先です。」
ヘイさんに言われるまま曲がり角を曲がると……
「道が……崩れてしまっていますね……」
ヘイさんが、そういって立ち止まり、ランプを前に掲げた。
つられて前を見たら、大穴があいており、道が崩れてしまっていた。
「ここから先ですが、山の反対側に別の入口があるので、町の人たちが探してるみたいですが、回り道になりますし……」
向こう側に見える道も、飛んで行くのには無理がありそうだ。
「あちゃー、こりゃ暗くて底が見えないね。その学生たちはこの崩落に巻き込まれたっていうの?」
「おそらくは」
「ふむ……回り道……も出来そうにないな」
手近にあった小石を拾うと、試しに灯りの触媒にして下に落としてみた。
光を発する小石はそのまま真っすぐ下に落ちていく。
…………
……………………
静寂……
灯りも暗闇に飲み込まれてしまった。
「ここを降りるか……」
「降りるって……お二人とも、ロープもランプも持ってきてないじゃないですか?」
「エリー(仮)ちゃんは、飛べる?」
「ああ。このくらいなら」
「それと、ヘイさん、さっきの光る塗料ですけど、余ってたら使わせてもらえない?」
ドゥエスはヘイさんが先ほど目印にと使っていた発光する塗料について尋ねた。
「良いですよ。暗い中、道に迷わないようネコ様を想って使ってくださいね。」
「……あ、ああ…………ネコって夜目が利くもんな……」
ほう、だからネコだったのか……。
ドゥエスはその答えが合っているのか、不安になりながら答えているようだ。
俺にも正解が分からない。
「あ、素手で長いこと持ち続けると手が壊死することがあるので、塗料を触るときは、必ずこの布越しに触ってくださいね。では、私はここまでなのでお二人のご武運を祈り、地上で待ってますね。」
さらりと恐ろしいことを言ってヘイさんは少し光沢のある灰色の布と塗料の入った容器をドゥエスに渡した。
「ぇ…壊死?……??あ、ちょっと?!」
その蛍光塗料に使われている材料に似たようなものを聞いたことがあるような、知っているような気がしたが……考えすぎだろうか。
ヘイさんの注意のひと言にさしものドゥエスも戸惑いが隠せない。
「まぁ、少しくらいなら大丈夫ですって!ちゃんと布越しに使えば問題ないですし」
「……ほ、本当かあ?オレ、ポケットにこのまま入れて大丈夫なのか?」
そのままポケットに入れるつもりだったのか。
「ドゥエス、そのまま持ち歩くのが心配なら俺のポーチに入れておこうか?」
ポーチなら直接触れずに済むしな。
「お願い、エリー(仮)ちゃん」
ドゥエスから手渡された塗料セットを、ポーチの中に入れておくことにした。
「無事に戻って返してくださいね。」
「ああ。」
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