29話
鍋に水と何かの食材を入れ、グツグツ煮込んだだけの簡単なスープと謎に堅いパンを朝食に頂いた。
……なんでドゥエスは、このかったいパンをふつーにバリバリ噛み砕けるんだ……。
「硬いからスープに浸して食べると良い」とのアドバイスを受け、スープに浸したのだが、それでも堅さを失わなかった謎の硬度を誇るパンをうっかり噛んで、俺の顎が瀕死を迎えながら格闘していると、隣では先に食事を終えたドゥエスがカーヤに面と向かって話を切り出した。
「カーヤ……」
「ん、何?ドゥエス兄さん?」
「お前にこれを渡しておこうと思ってな。」
ロザリオの金具が鳴る音
「ロザリオ?どうしたの?」
「ある人が遺したものだ」
ロザリオの後ろに何か刻印がされているのか、ひっくり返して確認している。
「ある人……?……あ、これ、父さんの名前」
「すまねぇ、カーヤ。お前の父親……連れて帰れなかった」
「……ぇ……」
しばしの沈黙。
……パンを諦めてもいいだろうか?
「……もしかして兄さんは、ボクの父さんのことを捜してくれていたの?」
「まぁ……ついでにだけど、な。家族が戻ってくりゃ、お前はもっと楽に生きられるんじゃないかと思ってな……」
「……それは…………いいよ、兄さん。気にしないで。……兄さんのせいじゃないんだから。」
「カーヤ……許してくれるのか?」
「許すもなにも、僕は別に怒ってはいないよ。」
「すまねぇ、母親の行方も、行き先はわかったから探して来る。」
「探してくるって……またどこかに出掛けるの?」
「ああ、エリー(仮)ちゃんとの約束もあるからな。まあ、少し留守にするだけだ。」
覚えてくれていたか。
人知れず胸を撫で下ろすと、ブイヨンの効いたスープを静かに口にする。
「じゃ、オレは外で水の精霊の対策してくるわ」
「あ、ちょっと!?」
カーヤの制止する声を無視してドゥエスは外に出ていってしまった。
あとに遺されたこの微妙な空気をどうしてくれるつもりだ?
「兄さん……ボクは今さら親のことなんて気にしてないのに……そんなことより、一緒に居てくれればそれでいいのに……僕の苦労は兄さんの事だけだよ……はあぁ……」
ぽつりと出たひとりごとと、ため息が心なしか長かった。
ドゥエスが外に出ていったあと、カーヤが1人呟いていた。
大人びた印象を受けたが、人並みに孤独を感じているのか……
「ここ最近の心配ごとは、出ていく度に増える兄さんの借金の方だよ……」
……
…………
あ、危うく、静かにすすっていたスープを吹き出すところだった。
ドゥエスよ、実はアンタは『お助けお兄さん』じゃなくて気づかないところで思った以上に弟に迷惑かけてるんじゃないか?
たぶん、親を見つけるよりもっと大事なことがありそうだぞ?
「カーヤさん、ご両親のことを『そんなことより』って言っていたが……」
「ずっと昔に出かけたっきり帰ってこないし便りもないから、なんとなくそうなのかなって覚悟はしてました。それより、これからの方が大切だしね」
「前向きなんだな。2人は他人なんだろう?どうして縁もないのに彼の尻拭いをしているんだ?」
「ええ、他人ですよ。……他人ですけど、ボクの手助けしてくれて、そのせいで怪我ばかりして、なんてゆーかほっとけなくて、つい心配しちゃうんです。……あ、今のこと兄さんにはナイショですよ。頼れる兄さんなのには替わりありませんから。」
なんだかんだ言ってはいるが、信頼はあるんだな。
*************
夜。
辺りが薄闇に支配されると、静寂に包まれる。
どうにも落ち着かず、眠れない。
ドゥエスは静かな寝息を立てている。
起こさないように扉を開け、外に出ると井戸の近くに、 月明かりに照らされて誰かがいた。
暗くてよくは見えないが、腰までの長い髪を下ろした者、カーヤだ。
こちらに背を向けているので俺には気づいていなさそうだが、なにか声を掛けようと近づきかけ……
……やめた。
「……っ…………」
その肩は小さく震えていた。
「……ふっ…………っ、……ぅっ……」
「……とぅ……さんっ……」
空に登った三日月が静かに彼を見下ろしていた。
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