24話
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先程の儀式部屋から繋がる隠し通路の更に奥、そこは自然に出来たような、ひとが数十人は入れそうな広めの空洞になっていた。
ロウソクの灯りがちらほら見えるが、気になるほど暗くは感じない。
その中ほど、地下から染み出してきたのか、泉になっている場所があった。
ぼんやり光を反射する泉に波もなく、あたりは静寂が支配していた。
泉まで近づき、中を覗くと、何かが沈んでいるのが見えた。
水面が光を反射しているのではなく、どうやら水そのものが発光しているようにも見えた。
「水が光っているが…何か沈んでいるのか?」
「違うな。これは精霊の濃いマナが融けていせいだ。」
「精霊のマナだと…?マナだけでこんな風に見えるもんなのか?」
【新しいひと?】
どこかから声が聞こえた。
「!?」
【私の住処になんの用かしら?】
ざざざ…
水面が波打つと水が人の姿を形作っていった。
上半身が女、下半身は半分水に溶けたようなサメの形をしている。
手には水棲生物のような水かきと、首筋に鰓と思われる穴があるのが見えた。
「あんたは?」
【人が精霊というような存在…かしらね。そういう貴方たちは?】
教主が『水の精霊アクア』と呼んでいたものだろうか?
「俺はエリー(仮)という。」
「ドゥエスと呼んでくれ、美人のお姉さん♡」
【近い】
いつの間にか近づいて手を握ろうとしたドゥエスの手をヒレ、のようなものでぺしんと弾いた。
「……なぁ、泉を囲むアレには何か意味があるのか?」
泉の周りをぐるりと囲うように何かの模様が掘られた石が配置してある。
ルーンに似た文字だが、知っている文字とは少し違うため何が書いてあるかは分からない。
「見たところ、捕縛の魔法陣が敷いてあるな。」
「捕縛……あの教主は精霊を捕まえていたのか?」
【いいえ、捕まったわけじゃないわよ。ワタシめんどうくさいこと嫌いなの。ココに来るニンゲンが、都合よく色々準備してくれるから、そのままここにいるだけよ。別にこの捕縛の魔方陣くらい、何時でも抜け出せるわ。】
「アクアといったか?あんたは自分の意思でここに居るって言うのか?」
【アクア?それはあの男が勝手にそう呼んでた名前ね。都合がいいから何も言わなかったけれど、アクアじゃないわよ。教えてあげるつもりはないけど。ワタシね、綺麗な青い目が好きなの。群青、青紫、濃い蒼、薄い水色……色々な目玉をコレクションしてるの】
うっとりと陶酔して説明する下半身がサメのような精霊の女。
突然何を言い出すのか?
【そうしたら上にいる人たちが、ワタシの力を借りるかわりに、綺麗な目玉をくれるって言うじゃない?だから、少しだけチカラを貸してあげてるのよ。】
教会の者共は、こいつに捧げるために、眼球を集めていたと言うのか?
【貴方は…金色なのね。綺麗な色だけど、私の好みじゃないわ。そっちの男は……怖い姉様と同じ赤なのね。赤いのも熱いのもワタシ苦手だわ】
「そりゃ残念。オレは美人ちゃんならなんでも好きだぜ。」
【半刻前に男が持ってきてくれたこの空色の目は澄んでいてとても綺麗だわ】
手のひらで、何かを弄ぶ精霊。
「俺たちはそれを返してもらいに来たんだ。返してはくれないか?」
【イヤよ】
「なんでさ?目玉なんて、そんなもの肉体のない精霊が持ったところで、意味ないじゃないか?なんで集める必要があるんだ?」
ドゥエスの質問に薄ら笑いを浮かべる精霊。
【知らないのなら教えてあげるわ。これを、ワタシの水に沈めるとどうなるのか……】
そういって彼女は、自分の足元の泉に目玉を沈めた。
ポチャン……
水に落ちると、それは一瞬で泡となり消えてしまった。
そして、水がひときわ明るく光ったと思うと、青く澄んでいた水の色が変化した。
「まぶしっ!?」
「泉が…!」
【この水を口にすれば、その身にマナを宿すことができるわ。もちろん、魔力持ちの人ならその魔力をかさ上げして……どうなるか分かるわよね?】
「なるほど、この水を飲んであの教主と獣の奴らは『祝福』を得ていたわけか。」
【そう。それに、魔力を持った人間の体の一部って、ワタシたち精霊にとっておやつみたいなものよ】
「おやつだと……?」
「……」
【アナタたちの目は好みじゃないけど、青い目を持ってきてくれるなら、少しぐらいワタシが手を貸してあげてもいいわよ】
にやりと意地悪そうな笑みを浮かべる水の精霊。
「……なら、聞きたいことがあるんだが、調べものは得意か?」
そう言って、ポケットに手を入れながら近づくドゥエスからなぜかそっと距離をとる水の精霊。
【調べもの?水のあるところの探し物をするのは得意だけれど……】
「捜してる人がいるんだ……まずは……これの持ち主の正体について知りたいんだ」
「それってさっきの……」
そういって差し出したのは先程解体されていた者の目玉だった。
【あら、綺麗な青の目ね。くれるの?】
「君にあげたい訳じゃないけど、もしかしたらオレの捜してる人のひとりかもしれないと思って、な……」
「捜してる人がいると言っていたな。青い目の人だったのか?」
「多分だけどな。戻ってこなくなった知人の関係者さ。そいつには世話になってるから、何か手がかりでも見つけて連れ戻せないかなって思って」
「……それがその件の人なら、もう、連れ戻せないじゃないか。」
「うん……でも、もしかして違っていたら、少しは希望が持てるでしょ?」
「そうだな。」
【泉の水に沈めてくれたら、わかるわよ】
ぽちゃん……
躊躇わず、水に沈めるドゥエス。
水に沈んでいく青い目。
先ほどと同様、泡となり消えてしまった。
【……ふむ……マナのある男、貴族……蒼の一族の生き残りね……このニンゲンは元・貴族とでも言ったところかしらね。没落して、水の少ない村に逃げたけれど、最近、妻と、この教会に戻って来たみたいね。ワタシのマナと相性が良いみたい。】
「……奥さんはどうなったのかわかるか?」
【あなたたちが此処に来る数日前に王都の外に出たみたいね。教会のニンゲンと一緒に、『マナ溜まり』に向かうという会話をしているわ……かわいそうに。】
「マナ溜まり?どこだそれ?」
【この王都からは少し遠いところに、生物が住めないくらい濃いマナがある場所があるの。そこを『マナ溜まり』って呼んでるのよ。そこに行けば精霊を呼ばなくても『加護』を得られる場所よ。ワタシがいるのに薄情な信者ね。】
「教会のやつらは、何かをしようとしているのか?今から追いかけて追いつけるかな?」
【ワタシに視えたのはここまでよ。あら、西方の……アシャト村、に生きてる子供がいるみたいね。会ってみようかしら♪】
「……会う?ここから出られないんだろ?」
【大丈夫よ】
ザバァッ!
水が溢れたかと思うと、泉の周りを囲んでいた文様を覆っていく。
一瞬、小さく何かが弾けたような音が聞こえた。
【先に行って貰いに行くわね。じゃあねお二人さん♪】
「ちょっ!そいつに手を出すな!」
そういうと、水の精霊は投げキッスをして、その姿は水に溶けて消えてしまった。
慌てて手を伸ばしたドゥエスだったが、精霊の腕を掴むことは出来なかった。
ぱしゃん……
…………
静かになる洞窟。
泉の中にいたものはどこかへ行ってしまったようだ。
「ちっくしょう!あの時ハグしてれば!」
焦っているのか、後悔してるのかよく分からないドゥエスの声が洞窟内に反響した。
「……行くか。」
「え……?」
「行くんだろ?アシャト村ってとこに」
「エリー(仮)ちゃん……」
『マナ溜まり』も気にはなったが、ドゥエスの焦り具合から、アシャト村の子供の方が大事なのだろう。
「村って……遠いのか?」
「そこまでじゃないさ。全力で走れば5時間くらいかな」
説
全力で5時間も走れるか。
こいつの肉体の基準に合わせてはいけなさそうだ。
「何も走らなくても、どっちの方角か分かれば外で飛べばいいだろ」
「飛ぶって……飛行魔術が使えるのか!そりゃ助かるよ!」
正確には『飛行』とは少し違うのだが、説明している暇は無さそうだ。
「アンタも魔法使いじゃなかったのか?魔法で飛んだりできるだろ?」
「ははは、オレ1人だと走った方が速いから……」
「……飛べない魔法使い…………」
「それより、行くぞ!アシャト村へ!」
「あ、ああ!」
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