23話
エリー(仮)、今のところ、ドゥエスの好感度はそれほど高くないようです。
その男は、五、六十代くらいだろうか?
白髪混じりの茶髪にシルバーを中心としたアクセサリーを編み込んで、蒼い刺繍の入った白いローブを羽織っていた。
手には本と杖を持って、何か儀式めいたものをしていたところだったのか、こちらに気づくと、ゆったりと振り向いた。
「何やら先程から騒々しいようだが……何者かね?君たちは?私が、水の精霊アクア様の神官にして、この精霊教会の教主ロード・カウエルだと知ってのことかね?」
俺たちが追いかけていた『黒いの』は迷うことなくソイツに掛けていった。
「アンタがここのトップか!男の名前なんて覚えてやる義理もねえし名乗ってやる義理もねぇが、あんたが飼ってるペットの落とし前はつけさせてもらうぜ!」
『黒いの』は口許に咥えていたものをローブ男…ロードに渡すと、そのローブ男を護るかのように、唸りながら足下を囲んでいる。
「ペット?…ああ、こやつらか………」
そう言って男の手に持っていた本で、足元にいる黒い獣を指す。
「その黒いのを追いかけていたんだが……アンタが飼い主か?」
「ふむ……それがどうかしたのかね?君たちは、精霊教会の関係者ではあるまい?アポイントも無しにここに立ち入られては困るよ」
「地下にモグラみたいに潜ってるやつなんかにそんなの必要ねぇだろ?」
「む?その紅の髪に忌々しい面構え……貴様は『紅拳の魔術師』か……!?」
男はドゥエスを見ると眉に皺を寄せる。
そんな二つ名があったのか。
しかも、なんか嫌われてるな。
「あぁん?オレはあんたのことなんて覚えてないぞ?」
「覚えてないだと?……貴様が覚えてなくても私にしたことは忘れたとは言わせぬぞ!貴様が私の、私の妻に色目使って近づいたせいで妻は子供と共に実家に帰ったと言うのに!」
「男は黙って甲斐性ってな!」
ドゥエスは人妻に手を出したらしい。
ドゥエスの元に件の女性が居ないということは…………まぁ、そういうことなのだろう。
「おかげでご近所さんから冷たい目で見られること苦節10年、貴様の方から来たということは、復讐をしろという神と精霊のお告げなのだろう!!」
…いいのかそのお告げで?
「知っているかね?『紅拳』よ。このペットがどこから来たかーー」
「ふん!知ったこっちゃねえな」
フンとそっぽ向いたドゥエスに変わり、俺が口を挟む。
「魔術を使って召喚したものに見えたが……にしては少々、歪なような……」
「ほう、君には分かるのかね。」
こちらを見て、ニタリと笑う顔に寒気が走る。
「その通り、この『犬』は信者だった者どもだ。」
「―なに?」
「我が精霊協会の信者の中で、水の精霊アクア様からの『祝福』を受けたにも関わらず、祝福を『呪い』として拒絶した『失敗作たち』さ」
失敗作…
「私がわざわざ精霊様に会わせてやったというのに……なんとか簡単な命令は聞くが、食事の度に見苦しい光景を広げるようになってしまってねぇ。もともとの生まれが卑しい者に『祝福』を与えた所で、自我を持たない獣になってしまうばかりでね。こうして小間使いにぐらいしか使い道がなくて、困ったのものだよ。はっはっは!」
下衆はあんただろうに。
「困ってんなら、オレが処分してやるぜ【火焔球】!」
言いながらドゥエスは『失敗作』の群れに向かって、火の玉を投げた。
グォゥ!
吠えた獣たちは散り散りになりこちらへ向かってきた。
「きっ!貴様、魔法が使えなくなって除籍されたという噂は嘘だったのか?!」
「誰の入れ知恵か分からねえが、魔法ならこの通り使えるぜ!エリー(仮)ちゃん!さっきのアレやって!手加減要らないから!」
「なら加減なくやってやろう!【棘這糸】!」
迫り来る『失敗作』たちに向かって返し付きの糸を数本、這わせてやる。
こいつらの動きはそれほど早くなく、避けた所にうねる糸の先が喰い込んだ。
捉えた!
この術の本領はここからだ。
いくつかある糸のひとつを引いてやると……
バチュン!!
喰い飲んだ糸が獲物の内側から飛び出すと同時に獲物が真っ二つに裂けた。
「ひぃぃぃ!!」
「うわえぐぅ!」
ロードの悲鳴とドゥエスのツッコミが飛んできた。
辺り一面に獲物の血が撒き散らされたのは、ご愛嬌と見てもらいたいもんだ。
………
………ちょぴっとやり過ぎたか?
「ふ、ふん!そのくらいでビビビるとでももと思ったか!ぞぞ賊め!」
「この程度で文句言われてもな」
言いながら、ナイフに持ち替えて残ったロードに向かって走る。
「く、来るなぁ!【水刃!!】
ローブ男が唱えた術は、水で出来た刃をいくつか作るものらしく、こちらに向かって放ってきた。
刃が触れた床は大きな爪痕を残した。
さすがに切られたら痛そうだ。
俺は奴が放ってきた水の刃を難なく避けたが、俺の斜め後ろ辺りにいたドゥエスは、その場を動かない。
「おいっ!?」
あわてて声をかけたが、間に合わず
斬っ!!
刃はドゥエスに当たると、水しぶきが上がった。
水しぶきが治まると、ドゥエスはその場に何事もなく立っていた。
「…やっぱりな……」
「な、何が起きた?!確かに当たったはずだ!!」
「どうやら……そういうの、オレには効かないみたいだぜ」
「何ぃ?効いていないだと?!」
驚きを隠せないロード、内心、気持ちは分からなくもない。
「残念でした!!おりゃ!」
一気に詰め寄り、逃げようとするローブ男にドゥエスのパンチが炸裂した。
「ぐギャッ!」
一発でクリーンヒットしたのか動かなくなった。
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「ドゥエス、アンタまともに受けてたみたいだけど、何とも無いのか?」
「頑丈だからね。ホラこの通り、なーんもなってないぜ」
さっきは水の刃をそのまま受けていたように見えたが、身体どころか、服にすら切り裂かれた跡すらない。
濡れてはいたが。
「ちょっぴり、人より魔法が効きにくいみたいだよ」
「だからさっきのロードの魔法を避けなかったのか……ん?待て、効きにくい『みたい』って……?」
「ん〜まぁ、……ちょっと故あって、最近、魔法の効きが悪いから、少しくらい当たっても大丈夫かなぁって思って、避けなかったわけよ。」
「大丈夫かなぁって…」
「結果的に大丈夫だったわけだし。いーじゃん?」
それ以上何も言うなということか?
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ロードのポケットをまさぐると、目的のものがあった。
一対の蒼色の目玉だ。
蒼色?
「……あの店員はもっと薄い水色じゃなかったか?」
「ああ、レオナは水色の目をしてたはずだ。さっきの部屋でバラされてたヤツのだろうな……」
「……取り返したのはいいものの、どうしたらいいんだコレ?」
返す者はさすがに生きていないだろう。
「必要ないならオレが持っててもいいか?」
ドゥエスはそう言うと目玉を取った。
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「てっきり教主とともに精霊がいると思ってたんだが、ここにはいなかったのか?」
それとも嘘情報だったのか?
「ふむん……コレ、じゃないか?」
ドゥエスはレリーフの下に小さなスイッチがあり、躊躇することなく、スイッチを押した。
そんな所にスイッチがあったのか。
ゴゴゴ…………
さらに下へ続く階段が口を開けた。
「更に下に潜るのか……」
「本当にこの先に精霊がいるって保証はないが、とりあえず行ってみないか?」
「ああ、そうしよう…」
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