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精霊通信録  作者: 襾犲 邑
地下へ潜る
20/108

20話


ペしっ!



ドゥエスは自分の頬を叩いて喝を入れると、こちらに向き直った。


「さてと、さっきの怪しいヤツを追いかけますか」


「ああ、……そうだな」


「エリー(仮)ちゃん、さっきあの『黒いの』が行った先、分かる?」


「方向だけなら……でも、喰種の類いなら、墓場が近くにあるって事か?」


「普通ならそう考えるのが妥当なんだけど……ちょっと気になったんだよね。さっきエリー(仮)ちゃんが短剣投げた時、あの『黒いの』が何したか覚えてる?」


「ああ。水の盾?のようなもので、こちらの攻撃を防いでいたな。呪文は聞こえなかったが」

他に仲間がいたのか、魔法が使えたのかは分からないが、呪文詠唱をしていたようには見えなかった。


「水の盾かぁ……消えてるかもしれないけど、念の為、索敵してみるか」

なにやらぶつぶつ呪文を唱えだすドゥエス。


【痕探知】


「血痕を探知する魔法だ。確率は高くねえけど。」

そう言って唱えた魔法で、地面の一角がうっすら色がついた。

探索の魔法とは、また便利そうな魔法を知っているんだな。


「あっちか」


色のついた弱い光は点々と道沿いについている。


辿っていくと、そこは俺がこの世界に来た時の地下水路の入口だった。





**********************




その門扉は静かに、何かを待っているかのようにそこにあった。


「ここだ」


来た時同様、地下に通じる扉に鍵は掛かっておらず、誰でも出入りできるようになっていた。

レンガ造りの壁を伝って、ヒヤリとした冷気が立ち登ってくる。



「エリー(仮)ちゃんは、この地下水路を通ってきたって言ってたよな?それってここのこと?」


「そうだ。といってもそこまで奥は知らないが…」


「来た道教てくれないか?」


「ああ。こっちだ。」


そう言って、俺とドゥエスは地下水路への階段を下りていく。



「聞き忘れていたが、敵は生かした方がいいのか?」


「……さっきのは、出来ればオレに殴らせてくれ。」


「分かった」


ドゥエスは迷うことなどないかのごとく進んでいく。

心なしか口数が少ない。

暗い階段に、ロウソクの頼りない灯りが見えるが、暗くて見にくい。


【拡散】


それでもドゥエスは進もうとするので、来た時同様、灯りを掌に作り、周囲の水滴に光を移す。

なんとなく、前回よりも光量が強いような……


「おお!魔法使えるのか、ありがたい」


「ドゥエス、そういうアンタも、魔法が使えるんじゃないのか?さっきも炎のと探索の魔法を使っていたのに……本当は魔法使いか?」


なぜか目線をそらす。

「んー………元・魔法使いってとこかなー…」

やはり。


「…元?……なら、今は裏稼業の仕事人ってとこか?」


「へぁ?!いや、そうじゃないよ!?魔法使って、人助けしてたんだけど、色々あって破門されただけのオンナノコ限定の優しい優しい遊び人のオニイサンなの!!信じて!」


あわてて訂正をしてくる。


ドゥエスは魔法使いにありがちなローブも着ておらず、護符に使えそうなゴテゴテの高そうな貴金属もない。

唯一付けているのが、片耳に付けた大粒のしずく型のイヤリングぐらいだ。

装飾もほとんど無いラフな服装に杖も持っていないような格好だったので、魔法使いとは思えなかった。


「破門…?」

それはまた、何をやらかしたんだか。


「あいつらが悪いの!心のせっまーーーーーーーい、あいつらが全部悪い!!」


「そ、そうだったのか……そりゃすまなかったな…。。この世界の魔法使いは色々あるんだな」

苦労してんだな。


「ん☆誤解が解けたなら良かったよ」

まだ何か隠してそうだったが、はぐらかされてしまったな。

これ以上は聞けなさそうだ。


「精霊に詳しいのも、元魔法使いならではの知識って所か……」


「専門分野だったしねー……っと、行き止まりなんだけど……?」


暗い部屋の前で、ドゥエスが足を止めた。

探知の魔法で照らし出した痕はとっくに染み出る水に洗い流されてしまったらしい。

しかし、どこにも隠れられそうな場所も見当たらない。


「ここまで脇道もなかったよな?……何もいないな……」


そう言って立ち止まったところは、俺がこの世界にポータルを繋いだ場所だった。

今は時間が過ぎて空間の歪みも元に戻り、ポータルには繋がってないが、見覚えがあった。


しかし周りは静寂と水滴の音に包まれていた。


「……ふむ……」


ドゥエスはぐるりと見渡すと、壁の一角の前に立った。


コンコン……


「何かあったのか?」

壁を軽く拳で小突き素材を確かめると、少し離れて、

…コンコン……


「これだ!―っふん!」




ゴガゥッ!!!!!




あろう事か、握り拳で壁に穴を開けやがった。


「…素手とは……凄いな。……元・魔法使いって言ってなかったか?」


「コッチの方が手っ取り早いからね」

と言って握り拳を見せつけてくる。


「なるほど、強化の魔術でも施してるのか……」


「ん?―いや、なんもしてないよ?強化しなくても、ある程度は丈夫に出来てるってだけさ」


「……」


レンガの壁を素手で壊しておいて、擦り傷ひとつ無いのに『丈夫』の一言で済ませられてしまった。


「……魔法使いじゃなかったのか?」


「拳で語り合う方が向いてんのさ」

……出来ればそういう機会が来ないことを祈るよ。


ドゥエスが開けた穴の向こう側は、小部屋になっていて、奥に通路が見える。

わりと最近使われていたのか、何かが描かれた何枚かの布と小さくなった蝋燭が等間隔で置かれていた。


魔法陣?

慌てて片付けようとしたのか、ちゃんとした魔法陣の形を残してはいないが、誰かがいたという痕跡が残ったままである。


「召喚陣?エリー(仮)ちゃん、キミって召喚されたの?」


「まさか。俺はポータル越えてきただけだぜ?」


ドゥエスの疑問に応えてやる。

おそらく俺が来たという場所と、壁1枚隔てた所に召喚装置とも呼べるものがあったせいでそのように推理したのだろう。


「ポータル?」


「異界を越えるときに使う門扉のことをそう呼んでいる」


「じゃあ、キミが来たっていう場所の近くに、この召喚陣あったのは……偶然ってこと?」


「空間が不安定な場に繋がりやすいことはあるが、座標は俺が決めてる訳じゃない。」


ふうんと呟いた。


「じゃあ例えばさ、この魔法陣を壊したら、エリー(仮)ちゃんが元の世界に帰れなくなる……なーんてこと、あったりする?」


そーゆー心配をしていたのか。


「それなら、心配ご無用。戻る時はポータルの鍵を持ってるから、どこからでも帰還できるんだ」


と言って、鍵をチラつかせる。

普段からあまり人目につかない所で使っているが、特に理由がある訳じゃなくて、何となくである。

今回、近くに魔法陣があったのはおそらく偶然だろう。




……カタン…



視界の端を黒いなにかか横切った。


「エリー(仮)ちゃん!」


「!?」

ドゥエスが叫んだのと、暗闇から現れたモノに反応したのはほぼ同時だった。


バシュッッ!!


横飛びして避けたが、飛来した何かが髪を掠めていった。


あっぶなー!



「グルルルルる……」


『ソレ』は、全身が黒く、腰の辺りを折った人間のような格好をしていた。

例えるなら、人と犬の間のような姿をしていた。


「さっきのやつか?!」


「グォウ!」

吼えるとこちらに向かってきた。


「奪ったものを返してもらおうか!」


ヒュン!


動きは速いが、図体がでかいおかげで、投げナイフが当たった。

今度は水の盾は作られなかったらしい。

ナイフは刺さったが、怯んだ様子はないな。

その間も攻撃の手はおさまらず、鉤爪が掠めていく。

それなら……


【鳴雷!】


バヂッ


雷を落とす術だ。

威力は低く、攻撃には向いてないが、一瞬動きが止まった。


と、そこへー


「大人しくしやがれ!!」


ドゥエスの拳がソイツの胴体にヒットし、壁際まで吹き飛んだ!


「ギャッッ!!」


あげたのはソイツの悲鳴だろうか?


「助かった」

「こっちこそ、殴りたくてウズウズしてたからいいってことよ。」


「グルルルル…」

そいつは起き上がると、こちらを威嚇してくるが、直ぐに飛びかかってはこない。


様子見か?


こちらから仕掛けようと構えた途端、身を翻して、通路ある方へ消えていった。


「あっ!」


「道があるのか……追いかけるぞ!」


通路の先を行くソイツを追いかけていくと、大きめの水路と合流した。


「ぐオゥ!」

ひと鳴きすると、そいつは水に飛び込んで見えなくなった。


「ちっ!」

ヒュッ!

ドゥエスは近くに落ちてた小石を勢いよく投擲すると、真っ直ぐ向かっていき……水の中に消えた。


「水の中に逃げ込まれたか」


「ーフン!このままアレの飼い主のところまで付いてってやるぜ!覚えてろ!」

ドゥエスは息巻いているが、もしかして……?


「誘導させるつもりでわざと外したのか?


「いや、……ほんとに外した。……先に何があるのか進んでみようぜ」


どちらでも構わんが、一瞬期待した俺が馬鹿だった。

ともかく追いかけないとな。




******************


閲覧ありがとうございます。

次の投稿は 12/30 の予定です。

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