19話※
ちょっと痛い表現出てくるので、苦手な方は、バックトゥーザフューチャーしてください。
「おかしい……」
その雑貨屋の看板が見えた頃、ドゥエスは強ばった声で呟いた。
「いつもなら、今ごろ閉店している頃なのに…?!」
その店は、俺が来たときと同様、灯りが外に漏れていた。
扉も中途半端に開いている。
ガシャン!
途端、店の中から、黒い何かが飛び出してきた。
真っ黒な大型犬―だろうか?
四つん這いの、小さなひとにも見える何かは、口元からぬらりとしたものを滴らせていた。
何かを銜えているようにもみえたが、一瞬、コチラを見たら、すぐ通りの向こう側へと走っていった。
「待て!」
待てと行って待つものはいないと思うが、走る背に向けて、隠し持っていた短剣を投擲した。
バシャン!
カラカラ……
投げた短剣は、黒い何かに当たる前に、地面から吹き出た液体に邪魔され、力なくその場に落下した。
水、だろうか?
黒い何かは、そのまま角を曲がって見えなくなった。
「追わなくていい!」
追いかけようとしたが、すぐさまドゥエスの制止の声が上がる。
「それよりこっちだ!」
彼は、中途半端に開いたドアノブに手をかけ、勢い良く扉を開けた。
お店に入ると、店内は酷い有様だった。
商品棚は崩れ、何かの入った瓶などが割れ、床に散らばっていた。
人影は見当たらず、中に入ると、カウンターの奥、照明の影になったところに『その者』を見つけた。
店員だった女ーレオナとおぼしき女が、大量の血溜りの中に横たわっていた。
近付くと、空色の眼球があった所には、落ち窪んだ空間がポカリと空いていた。
髪と同じ色の猫耳が付いていた部分は、周りの頭皮ごと千切られていた。
「酷い……」
思わず呟いていたらしい。
「……ぅ……」
小さく呻き声が聞こえた。
「おい!まだ息があるぞ!!」
息があり、動こうとしたので、ドゥエスは彼女に近づき、優しく抱き上げた。
「…………ぅエス?……そこにいるノ?
ごめん……真っ暗デ……で何も見えナいや……」
「俺はここにいる」
肩をギュッと抱き、耳があった所に囁く。
「良かった…もう………会え、ないのかと……」
息も絶え絶えになりながら言葉を続ける彼女。
俺に回復魔法の類は扱えない……
こういう時に何も役に立たないとは
「………そ…ぅだ、さっきね……アタシ……人助け……したんだょ。……金色のキレイな人……でね……どぅエスに、会うように、伝えたンだ……アタシの……店にキタから、襲われたら……いけないと思っ…ォ守り、……その人に、あげちゃっタ……怒られる……かなァ……?…」
ドゥエスはポケットから取り出し、そっと簪を髪に差してやる。
「……お陰で、会えたぜ、ありがとな」
「よかっ……」
「……………おやすみレオナ。」
彼女は、一瞬笑ったような気がした。
ドゥエスはそういい、まだ、息のある彼女を横たえると、ぽそりと何かを口にした
「精霊戮炎」
ボォウッ!
途端、レオナを中心に、赤い炎が巻き起こった。
周りにも燃え広がる。
「ーっ?!おい、まだ生きてるんじゃないのか?!」
ほぼ瀕死の状態ではあったが、まだ生きている。
それなのに、コイツは、生きたまま炎の魔術で焼いたのだ。
「……燃やさねぇと……ならねぇんだよ……『成る』前に……」
首を横に振る。
「『成る』…とは…?」
「半精霊だよ。…魔力持った人間や獣人が………身体を一部失うと、まれに半精霊になっちまうことがあるんだ」
「半精霊?……どういう事だ?…彼女は獣人ではなかったのか?肉体を持った人族が、性質の違うエネルギー体に近いものに変化すると言いたいのか?」
「そうさ。原理はよく分かってないけど、所謂『祝福』って呼ばれてる現象だ」
「『祝福』……」
彼女―レオナは、冒険者が恩恵を得るために精霊教会で受けるものだと言っていたが……
「そもそも精霊ってのはな……元・人間なんだ」
「―な、なんだと!?」
声が掠れていたのは気のせいか?
「みんなが皆そうって訳じゃないけど、精霊王や一部の精霊の中には人間が精霊になったっていう伝説が残ってんのさ。精霊になりきれなかった半端者の中には、失くしたところを補おうと、生きてる人間を襲うやつも出てくる。そーゆーやつを『半精霊』なんて愛嬌込めて呼んでたり、どっかの地域ではゾンビやグールって呼んでる奴もいるが、……似たようなもんだろ?」
「……半精霊……グール……」
さっきまでの声の張りはなく、淡々と説明していくドゥエス。
「精霊は肉体が無くなってもマナさえあれば生きていられるけど、半精霊は肉体が無くなっちまえば動かなくなる」
なら彼女は……?
「安心しな、そうなる前にオレが燃やし尽くしてやるからな。これはただの炎じゃねぇ。オレが独自に考えた『マナを断ち切って燃やす』魔法さ。この魔術なら……そもそもの精霊化を止められる」
マナを断ち切って、燃やし尽くす……?
俺の知ってる魔法とは、マナから供給されたエネルギーを使って魔法を使うものだと思っていたんだが……どういう仕組みの術式なのか、ひと目では分からなかった。
このドゥエスという男は、この世界の魔法の仕組みそのものに干渉することができる方法を知っているというのか?
どうやらただの『自称・遊び人』では無さそうだな。
****************
炎が建物を呑み込んでいく。
「アイツ……レオナは、身寄りのない半獣人だったんだけどな……、苦労して、お金貯めて、『たくさんの好きを詰め込んだお店』を開くのが夢だったんだ。ほんの数ヶ月前なんだぜ……その夢、叶ったの……」
ドゥエスの独り言にも近い小さなつぶやきは、木の燃える音にかき消されそうだった。
俺は、外から眺めていることしか出来なかった。
「……エリー(仮)ちゃんが一緒に居なかったら、多分、オレはアンタを恨んでたと思うぜ。」
「…………そうか」
俺はドゥエスの顔を見ることが出来なかった。
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