16話
ドゥエスは『射手座のゆりかご亭』を出ると、メイン通りに幾つか並んだ店を通り過ぎ、どんどん横道に入っていった。
暗い道が続いている。
「……どこまで行くつもりだ?」
「すこーしばかり、ひとけの無いところ。あんまし、あーゆー話は、あの通り『ゾディアック通り』付近ではしない方がいいからな。」
ゾディアック通りというのか。
「あ、でも、女の子1人で入り込んで良いようなところじゃないから、オレが居ない時は、来ちゃダメだぞ☆お嬢チャン☆」
………
……お嬢チャン?
「…なにか勘違いしてるみたいだけど、オレは男だ。」
仕事で女装することはままにあるが、今は普段通りの上下白を基調とした格好だ。
「え!?おと…こ?……いやいやいや、冗談でしょ?!」
歩きながらこちらを確認してくる。
路地内なので暗くて驚いた顔がよく見えないが、
きっと素っ頓狂な顔をしているのだろう。
「なぜ、ここで冗談を言わねばならない?」
「綺麗な顔といい、小柄……華奢な背格好に長髪だったから………………てっきり…ちょっぴりツンケンした男装っ娘かなと。―あ、娘と書いてコって読む方の…」
「そんな説明いらん!!育ち盛りだ!それに長髪なのは,お互い様だろうが!!」
まぁ……育ち盛りというのは嘘だ。
│魔族の精神を人間に憑依させたことによる弊害か、人間の体は成長を止めた。
ひとより少し小柄な程度だが、わりと小回りが効くのでこの姿が気に入っている。
それに、ドゥエスは長髪と言ったが、俺の髪は背中くらい、ドゥエスは更に長く、腰くらいの長髪だ。
自分より長く伸ばした長髪男に女に勘違いされていたのか。
「……最近、女の子センサーが上手く作動しないなぁ……」
小さくため息混じりに呟いている。
「女の子センサー」
「……変態じゃねぇよ?」
まだ何も言ってないが、彼の方からツッコまれた。
「まあ…それでもエリー(仮)ちゃんみたいな、かわい子ちゃんにはアブナイお店も沢山あるから気を付けるんだぞ……っと、ここだココ。」
軽口をたたきながら通りをいくらか進んだところで、突然足を止め、ある民家の前で立ち止まった。
見た目には周りも似たような作りをしている。
中に人がいるようで、小さな窓から灯りがぼんやり見える。
コンコン
「……誰?」
ドゥエスがノックすると、女の人の警戒する声が聴こえた。
「ドゥエスだ。いつもの持ってきたぜ」
しばらくしてから扉が開くと、中から女がでてきた。
緩やかなウェーブのかかったアッシュブロンドの美女だ。
疲れているのか、目の下にクマがあった。
メイクをして着飾っていれば美女なのだろう。
目の下のクマと皺の入った服が彼女を『疲れた女性』に見せている。
彼女はドゥエスを見ると目をきらめかせて、
「会いたかったわ、ドゥエス♡」
開けるなり女の人がドゥエスに抱きついた。
「待たせなぁ」
ドゥエスも女の腰に手をまわしている。
「なかなか来てれないんだもの、心配したわよ」
「ハハハ。ごめん遅くなって☆はい、これいつもの」
と言って懐から何かの小さな包みを手渡した。
薬包紙?……
「ありがと☆」
「上の部屋をすこし借りたいんだが、空いてるか?」
「ええ、構わないわよ……あら?同行者?」
長身のドゥエスの影に隠れてて見えなかったのだろう、美女は俺を見て疑問を投げかけた。
「……どなた?」
「えーと…ちょっとワケありの…迷子……?」
「……│他人«ヒト»の家で迷子の保護活動と称して捕食でもするつもりじゃないでしょうね……」
ジロリと美女がドゥエスを睨む。
「いやまさかァ!」
「まぁいいわよ。アンタがワケありなのは今に始まったことじゃないものね。さ、入って」
「サンキュ☆」
2階の奥、それほど広くない民家だが、通された部屋は物置部屋だろうか?
「ここなら色々話せる……ついでに―」
「…その前に、直近で重要そうなことを聞いてもいいか?」
無関係な犯罪の片棒を進んで担ぐつもりは無い。
「ん?なに?」
「さっきこの家の住人と思しき女性に何か渡していたみたいだが、アレは……何か健康を害するようなクスリだったり?」
ドゥエスはキョトンとして慌てて手で否定した。
「しないしないwさっきのは、彼女キャシーってゆーんだけど、彼女の病気の娘用の薬さ。」
「娘?」
「そう、キャシーに似て美人ちゃんなの☆前からよく遊びに来てたんだけど……最近、病気がちになっちゃって。アレはちょっとした知り合いのツテと俺の根気で調合したお薬。」
「薬を調合?あんたが調合したのか?」
この男は薬の調合もできるのか?
「そうさ。たまたま持ってた素材だったから、チョチョイっと、ね」
「ここは大きな街のように見えたが?医者はいないのか?」
「ここは王都だよ。でも、今はワケあって、どこも医者が足りてないんだよ。オレみたいな、頼れる平民は、困っている知人のほうが多いわけよ。―んで、たまに挨拶がてらおつかいに来てるわけ。あーゆーおーけ?」
「あ、ああ……人助けなわけか……」
自分で頼れるとか自慢しているが、お人好しの類いなんだろうか?
「オレは普段、女性限定で相談に乗ってるンだけど、知らないウチになんか便利屋みたいなってたんだよねww」
ケラケラと上機嫌で語ってきた。
なんとか納得したが、ひょっとしたら、このドゥエスという男は、どうやら俺が思ってる以上に、周りに勘違いされやすい男なんじゃないだろうか?
「でもエリー(仮)ちゃんだったら、ちょっとスカート履いて『優しいドゥエスおにーさん☆教えて♥️』って、上目使い、猫撫で声で呼んでくれれば教えて上げなくもないゾ☆有料で!!」
お、おに……?
一瞬ゾワリとしたものが背中を這っていったが、きのせいではないはずだ。
「……自分のことそう呼んで女を喰ってんのか?」
ジト目で見るとドゥエスは焦って、
「いや、喰ってねーわ!食べちゃいたいけど、全員そこそこガード硬いから!!」
そんなこと聞いてねぇわ!
「有料と言ったが、さっきの店代返してもらってから考えようか」
「!?しまった!」
何が『シマッタ』だと言うのか。
「そーゆーのは……あの、……ツケでお願いします。……遊んで、気分乗ったら、そのうち働くから……」
弱気な声が帰ってきた。
どこまでクズだと言うのかこの男。
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