15話
**************************************
15
**************************************
コンコン
女主人は、その扉をノックすると、中から声が聞こえてきた。
「誰だ?」
「リリスだよ。紅いの、あんたに会いたいって客人が来たんだけど、入れて良いかい?」
「……かわいコちゃんなら、通していいぜ」
と帰って来たのは男の声。
キィ―
扉を開くと、中には、ベッドに座る男女が一組。
「休んでたところ邪魔して悪いね、あんたに客人だよ。」
「お客さんが、オレに用だって……?ここは女の園だってのに、女の子選ばずに何しに来たんだか〜。……ーあ、ひょっとして女の子に聞かせられない恋の相談?それだったら聞かないわけにはいかないかもな〜」
そう言ってしぶしぶ立ち上がったのは男の方。
180cmくらいはありそうな高身長に紅色の髪をスラリと伸ばした男だった。
ルビーのような深紅の瞳は猛禽類を思わせる鋭さだ。
ゆったりした服を纏い、寝乱れた服を正しながら値踏みする目を向けてくる。
「……まあいいや。で、この『期間限定★『射手座のゆりかご亭』の用心棒 兼 世の女性全員の恋人☆』ドゥエス様に何の用さ?」
ウィンクしながらポージングしてくるが、一緒にいた女性からの声は少し違うようだ。
横から抑え気味の声が聴こえてきた。
「タダ飯ぐらいのお調子者め」
「ぐっ……!?」
ボソリと呟いた声だったが、彼にも聞こえたらしい。
固まってしまった。
「シュリ!お前は黙ってなさい!?」
女主人・リリスが男と一緒にいた女を嗜めている。
「あんたはこっちへおいで」
「……はぁい。」
まだ幼さの残るその女は毒づいているが、リリスがそれを窘めている。
そこは黄色い声を出すところではないのか…?
男の傍にいた女・シュリはリリスに促され、そそくさと部屋の外に出ていった。
「……あとはおふたりでどうぞ」
パタン
扉が閉められた。
部屋に二人きりになると、紅毛の男・ドゥエスは口を開いた。
「……ま、まぁ、基本は女の味方な訳よ。そーゆーあんたは何者なわけ?」
「オレはエリー(仮)。何でも屋だ。」
「何でも屋……ねぇ。―で、具体的には何を知りたいんだ?気分が乗る範囲でいいなら答えてやっても良いぜ。」
「この世界の精霊王について」
「―っ!!……よりによってあの精霊王かよ!」
精霊王をガキ呼ばわりとは……どうやら何か知っているようだな。
「知り合いだったか?どこに行けば精霊王に会える?」
「……はぁ?!」
一瞬、怒気をはらんだような声音が帰ってきた。
「精霊王に……会う……だって?……無理だね。……それに、今はそーゆー気分じゃねぇんだ、……帰った帰った」
なにか事情でもあるのだろうか。
一気にテンションが下がったようだ。
しかし、こちらも引くわけには行かないな。
「そうは云われても…こちらにも精霊王に会わないことには、この世界に来た意味がないからな」
「この世界?来た……?アンタ…どこから来たんだ?」
「俺はこの世界とは違う理ーーいわば異世界からのものだ。」
「異世界??」
「………そこの説明も必要か?」
「あ……い、いや、要らねぇ。概念としては知ってる」
最初はポカーンとしていたが、すぐ理解したのか先を促してきた。
話が早くて助かる。
「しっかし、何でまた異世界の何でも屋が、この世界の精霊王なんぞに会いたがるのかってよ」
「この世界を統治しているものーーその者と交渉事がしたくてこの世界に来たんだ。魔王とか神とかとも言われるが…」
「はぁ?魔王だ?神だァ?!そんなの伝説級にも近しい存在じゃねえか?!」
「ーらしいな。聞いた話だと、現在は、かの『精霊王』がその立場にいるとか?」
「なにか勘違いしてるみたいだが、精霊王は口がきけけねぇし、ヒトの味方なんてしない。それに8年くらい前に、封印されたぜ?」
ドゥエスは少し目線を逸らしてキッパリと言った。
「!?……封印されていたとは…それは参ったな。」
交渉に難儀することもあるだろうとは予想していたが……
「諦めてお家に帰りな」
「……なら、その下位のものと交渉は?」
「精霊王に眷属はいない」
「いない?」
「そ。世界中にマナの精気がある以上、どこがで少なからず精霊・妖精は生じるが、そのどいつも各々の意思で動いている。どいつもこいつも、まとめてやろうなんてモンはいないのさ。精霊王に従っているわけでもなさそうだしな。」
ふむ……どうしたものか。
と、ふと考えて、あんまり気乗りしない方法を思いついた。
「なら『信仰者』?……精霊教会ってとこなら精霊と接触できるんじゃないのか?何らかの儀式をして会えるようなことを言っていたようだし……?」
「それだけはやめておけ異邦人。教会でやってんのはアイツらのための儀式だけだ」
「何か知っているのか?」
「……………おっと、ここじゃ説明出来ねぇや」
ドゥエスは声を抑えて、チラと扉の外に目を向けた。
「エリー(仮)ちゃんって言ったか?夜ご飯……食べたか?」
何を突然言い出すかと思えば、目線は相変わらず扉、廊下で聞き耳を立てているであろう方向を見ている。
……そういう事か。
つまりこの中では都合が悪いから、外で説明すると言いたいのか……
そういう事なら致し方あるまい。
「これから宿も兼ねて探すところだ」
「なら、美味しいところ教えるから、奢ってくれ☆」
「……奢れる範囲でなら……」
換金した分で間に合えばいいんだが。
「やりぃ!そうと決まればとっとと外行くぞ!」
といって元気に廊下の扉を開けると、案の定、そこにはリリスがいた。
「行くのかい?」
「ああ、世話になったな」
「今更さね。……そういえば部屋代、いつ返してくれるんだい?今年分のツケ、貰ってなかったねぇ…」
ん?
どうやら退ける様子はないな。
ドゥエスを見るとニコニコ笑顔で手を前にかざして、こっち見て「メンゴWWW」の表情である。
こいつめ…
ポーチの中のお金の心配をして『射手座のゆりかご亭』をあとにした。
去り際にリリスに案内料として、幾らかの宝石を渡しておいた。
徴収されたとも言う。
大丈夫。
まだ換金した分は……ご飯奢るくらないなら残ってる………………はず。
早くも寒くなった懐に挫けそうになりながらドゥエスを見ると、満面の笑みだ。
「まあ、勉強代と思ってくれよNA☆」
申し訳程度の声音で、ドゥエスは横に並びながらウィンクしてくる。
「!?てめえのせいじゃねえか!」
もともと支払いを滞納してたのだとか……
自然と声を荒らげていた。
「まあまあ、アンタが気前よく……めっちゃ親切な子だってのがわかったわけだし。」
いいように財布に使われただけである。
そうして、紅髪の謎の男ドゥエスに、夜の街を案内してもらうことになった。
閲覧ありがとうございます
次は12/6の予定です




