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精霊通信録  作者: 襾犲 邑
帰る
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今回のことを黒氏に報告するため、地上行きのエレベーターに乗る。

「何はともあれ、黒氏のもとにいかないとな」


「あ、わたくしは後から行きますわ」


目線を逸らしてそっと後ずさりしようとしているレニアの腕を掴むと、ずるずる引きずって連れていく。

「ちょっ………そっちじゃな………!」


「なんだ、やっぱり黒氏に怒られるのが嫌なのか。黙って鍵を持ち出していたんだろう、それを紛失したとなれば、さすがの黒氏も黙っちゃいないだろうなぁ」


「うぐぅ……だって、あのひと怒ると怖いんですもの……」


怒る黒氏の顔が想像できるのか、青ざめているのをちょっと楽しくなりながら引っ張ってってやる。


「えーやだぁ!」

わがまま言うなよ。



*



地下の転送装置から地上に近いカフェスペースに向かうと、コーヒー片手にいつものソファを陣取って寛いでいた銀髪の男がいた。


柱についている日付付きの時計には、俺が向こうの世界に飛んでから数日が経っていたようだ。

16時……休憩の時間は過ぎているが、普段なら時間をずらして休憩に入る事務員や、簡単な打ち合わせに使うひともいるような時間帯だ。

他にもカフェスペースの階層があるため問題はないと思うが、一番広いこのカフェスペースにはその男以外誰もいない。


その銀髪は、イラついているのか、何やら険しそうな顔で殺気立っていせいで、それなりに広いはずのカフェスぺ―スにはその男以外誰もいない。


「そんなんじゃ皺が増えるぞ、ガルヴァート」


見知った男――ガルヴァートは俺たちに気付くと、とたん顔色を変えた。


「おかえり!エリー(仮)!!それと、レニア!お前、勝手に抜け出してるとは思わなかったぞ」


「おう、ただいま」

「ただいま……もどりましたぁ……」


ガルヴァートの前のソファに腰を掛けると、ふかふかのソファが心地いい。

レニアに至ってはキョロキョロと周りを警戒している。


「なんでそんなイラついてたんだ?お陰で誰も近づけないみたいだぞ」


「誰もって…………誰も来ないぜ」

言われて周りを見渡すガルヴァートはキョトとしている。

おおかた銀竜たるガルヴァートの殺気に怯えて近づかないだけだろう。


「イラついていたって訳じゃなくて、これは黒氏の呪物のせいで俺の私室が吹き飛んじまってよ。お陰で俺の『ピピ猫★むぅニャン』のコレクションの大半が火葬されちまった」


『ピピ猫★むぅニャン』とは毎週夕方の時間に民放放送されている癒し動物系のアニメ番組だ。なぜかガルヴァートはこのキャラクターを推していて、市販されているぬいぐるみやらポーチなどを買い集めていた。


……少しくらいなら気にもならないが、部屋の一角にそんなものがコレクションされているとは初耳だった。


「とんだ呪物だな」


一瞬、彼の部屋の内装を想像して、ありもしない頭痛がしたが、黒氏にはよくやったと後でほめておこう。


「黒氏はどこに?」


「いるわよここに」


「ぴゃっ!!」

音もなくカフェスペースに侵入してきた金髪の女性――黒氏は、何を考えているのか分からない顔で静かに佇んでいた。


その声に器用にも一瞬で飛び跳ねるレニア。

正直、俺もちょっとびっくりした。


「呪物じゃなくて、御守りと言ってほしいわね」

「どっちも同じだって!後でしっかり請求するからな!」



しばらくガルヴァートと黒氏の口論を聞き流していたが、ある程度叫んで気が晴れたのか、ガルヴァートはソファに深く座り直した。


「それで、エリー(仮)、目的のものは手に入ったのか?」


「ああ、当初の目的のものに使えるかは少々怪しいが、……これは使えるか?」

言いながらポケットから『あるもの』を黒氏に渡す。


「え、お兄さま、それって精霊王の……羽根?いったいいつの間に?」


頭部に近かった羽根耳なのか、肩口についていた羽根なのかは分かりかねるが、少しばかり拝借しておいた。


「地面に落ちていたものを数枚拾っただけだ。残りは燃やされてしまったからな」


「十分。これで完成できそうよ」


「今度は安全なモノで頼むよ」


部屋を壊されてはかなわないからな。


「…………」

静かに口角を上げる黒氏からの返事は特にないのが、怪しいな。


「おいおいおい!黒氏また同じことやらかすつもりかよ!」


「なによ冗談じゃない。あ、レニアはあとでわたしの部屋に来なさいね」


「うぅっ……」


レニアはばつが悪そうにしているが、そのままレニアを連れて戻っていった。

「エリー(仮)」


二人が去るのを見届けると、報告に行こうとする俺を正面から見据えてガルヴァートは続ける。

「いまは何があったかは聞かないでおいてやる、休んどけよ」


それでイラついていたのか?


「ああ……黒氏の『千里眼』で知っているとは思うが、新しい統治者ができた。あとで報告する」


「ちがう。そうじゃない」


「なんだ」


「自分の身体ぐらい労われって言ってんだよ。心配、してたんだからな……」


「……そうか」


コイツの『心配』は俺の中の『あいつ』に対するものなのだろう。

あくまで、ついででの事を言っているんだろうけど、


…………


まあ、悪い気分じゃないな。






閲覧ありがとうございます。

次の投稿を7/31に予定しています。

一旦、完結になります。

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