102話
「そっか、エリー(仮)ちゃん、ほんとに帰っちゃうんだね。ちょっと寂しくなっちゃうなぁ」
ドゥエスがしみじみと呟いている。
「ああ、ドゥエス、アンタにはいろいろと世話になったな」
俺はドゥエスに手を伸ばして、握手をすると『あること』を提案した。
「そうだ、ドゥエス。『統治者』に興味ないか?」
「お兄さま、それって」
レニアが文句を言いそうになるのを手で制して、
「トウチシャ?なんかの役職?」
「この世界と俺たち異世界の住人―いわゆる異邦人ってヤツだ、そいつらとの橋渡し役をしたり、あんたが統治している世界の簡単な管理をするもの……といったところかな。
もし俺たちと来たいならそれでもいいし、そこは選べるようにしよう。
ただ、後者の場合はこの世界と違って、あんたの今までの常識が通用するとは限らないぜ。」
「橋渡しって、異邦人をオモテナシしたりとか、何かお世話しろってこと?」
「もてなすかどうかは強制はしないさ。ソイツらが暇して困っていたら、構ってやってくれればいいさ」
「あんたが新しくこの世界の統治者になってくれれば、当分の間は退屈にはならないだろう」
「退屈にならない……ねぇ」
どうやら悩んでいるようだが、ひと押ししてやる。
「もちろん、お金はその分出すよ。」
「え!儲け話?」
「えっ!兄さんがお仕事してくれるの?!」
かつてないほどに目を煌めかせているのはカーヤだ。
そんなに嬉しいのか……まあ分からなくもないが。
「嬉しそうだなカーヤ」
「そりゃあ外に出れば、仕事もしないで自称『遊び人』を繰り返してるし、ちょっと稼いできたと思ったら、どこからか来る借金の取り立てで消えるんだもの!」
「これ以上家計を圧迫しないでもらいたいんだよね。」
カーヤは俺の方を向いているが、視線はドゥエスに向いている。
そこかぁ……
「それで、ドゥエス、あんたはどうする?」
「ははは、冗談冗談。オレはまだやってないことあるから、すぐには行けないかなー。でも困ったときはお助けしてあげるよ!かわいい女子限定でね!」
「僕も手伝うよ。ドゥエス兄さんを一人にしておけないもんね」
【アタシもしっかり監視……いえ、手伝ってあげるわよ】
「ええっ!二人に監視って……え……」
「協力者もいるなんて、良いことじゃないか」
「う~ん、……働きたくないけど、お金は欲しい☆」
「兄さん」
しっかり働いてもらうぞ?
しばらくの間は、俺がポータルで行き来すれば問題ないだろう。
帰ってからやることが増えたが、多少の忙しさは嫌いじゃない。
「じゃあ、また来るよ」
そういって、俺はレニアの手を取ると、鍵を使って世界を渡った。
*
ゴゥン……
光に包まれ、目の前の景色が消えると、そこは見覚えのある暗い部屋。
俺の元居た世界の『ホーム』の地下にある転送装置だ。
あれ?
少しの違和感が過ったが、何かは思い出せない。
「ふむ……?」
「あの、良かったんですか?ドゥエスさんを誘って、後悔しても知りませんよ?」
「レニアは、反対だったか?」
「うう~ん、そうじゃないですけど……」
「当分は俺があちらの世界に行けばいいだろ」
「そうですけど……あのぅ……お兄さま、身体は大丈夫ですか?」
レニアが不安そうに自分の服の裾を掴みながら見上げてくる。
レニアと俺の身長はほとんど同じなので、見上げられているというより、ガンつけに近い角度ではあるが。
「ああ、お陰様で」
そういって片腕を持ち上げて見せる。
クレイブの攻撃を受けたあとは、肉体がうまく動かせなかった。
特に表面上の傷なども見当たらないし、気怠さに近いものはあったが、カーヤの治療のおかげだろうか。
今は特に問題がないようだ。
心配していたレニアは安心したようにため息をついた。
「お前こそ、何かキワモノに取り憑かれてたみたいだっだが」
「それなら、なんとかなりましたわ」
そうか。
「お前は、結構しっかりしているから、大丈夫だと思ってたよ…」
「……そこは嘘でも『心配した』って言ってもらいたいです。お兄さまケチんぼ」
悪かったなケチで。
「まさか大事なもの落っことして、うっかり下克上企む精霊に身体乗っ取られるなんてさすがにお前がそこまでドジを踏むとは、俺も想像だにしてなかったさ」
予想の外をいくレニアの行動に驚きを隠せなかった。
「う~!ごめんなさい!その辺は調子に乗りました!」
ペコリと勢いよく頭を下げたが、そのせいで一つに結んだポニーテールが俺の顔を掠めた。
油断ならないヤツだな。
「はぁ……」
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