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精霊通信録  作者: 襾犲 邑
帰る
102/108

101話

ひときわ大きな蒼い炎がおさまると、その場にいたはずの精霊王は消えた。

「消えた……のか?」


「逃げる素振りもありませんでしたし、多分ですけど、消滅したことになるんでしょう」


少年の姿をした精霊王クレイブの残滓もどこにもない。


「ほら、カーヤ。なんともないだろ?」


ドゥエスはカーヤに見せつけるように両手を広げてみせる。


見た目にも身体にも何も変化は見られない。


「ドゥエス兄さん!」

カーヤはドゥエスに近づくと、その身体をペタペタ触り始めた。


「ちょっ!くすぐったいって!」


「ほ、本当に……なにも起きてないんだね。よかったぁ」

しばらくドゥエスの服をめくったり、髪を摘まんだりしていたカーヤが満足したのか、その場にへたりこんだ。


【アンタ……】

ドゥエスに何か言おうとした水の精霊に目を向けたドゥエスは、ウインクをしてみせた。

ウインクをされた側、水の精霊は小さく『ゲ……』と一目見てわかるように引いている。


「あーあ……苦労して手に入れた精霊王クレイブのアイテムが、すべてキレイさっぱり消えてなくなるなんて、ショックですわ」


「あはは、ごめーんレニアちゃん。」


ぶつぶつと文句を言ってるレニアに、軽口で謝っているドゥエス。

そういえば、素材の一つも残っていないのか、あたりを見回しても、レニアの言葉通り,キレイさっぱり無くなってしまったようだ。

ドゥエスに華を持たせた以上、表情には出さなかったが、正直少しは俺もショックだ。

それでも得たものもあったから、悪いわけではないが。




***



「ドゥエス、カーヤ、二人はこれからどうするんだ?」

「僕は、村に戻ります。村の発展……っていうか、水の精霊さんは残ってるわけだし、どのくらい一緒に入れるかは分からないけれど、もう少し魔法のこと知りたいこともできたし」

「オレは……どうすっかなー、また王都に……」

「いや、兄さんも帰るんだよ。いっしょに帰るんだからね」

柔らかいが、どことなく圧のあるカーヤはドゥエスの腕をひっつかんでいる。


「ちょちょちょ、まだオレには、今回の気苦労をいたわるために遊びまわるって大事な任務が……」

「何の任務だ、ドゥエス。あんた遊び人じゃなかったのか?」


カーヤ(おとうと)と一緒に帰れよ。

そして借りてるもん返せよ。



「エリー(仮)ちゃんは?オレが倒しちゃったとは言え、精霊王と会ってってゆー目的も済んだわけでしょ?」


「俺は、元の世界に帰るさ」


そこで裾をくいくいと引っ張られた。

そちらをみると、レニアが何か言いたげにしている。


「その……おにいさま」

ふむ……


「お前は……鍵を持ってなかったんだったな」


「レニアちゃんもエリー(仮)ちゃんと同じ世界から来たんだよね?何か問題があるの?」


「座標はわかっているし、俺の持っている鍵だけでも、二人くらいなら何とかなるさ。」


チェーンでズボンのベルトループ部分に繋げていた小さな鍵を見せてやる。

銀よりややくすんだ錫に似た素材のソレは、俺がこの世界に来た時に使った道具だ。

簡易的にこの場に世界を渡るためのポータルを作り、空間を渡る力を持った俺の力を補助してくれる有能な道具だ。

今はホームにいる魔術師・黒氏に作ってもらったもので、いくつか作ってもらっていたが、レニアはそのうちの一つを持ち出し、同じように世界を渡っていたのだという。

この世界に来てどこかに落としてしまったらしいが、一見すると何の変哲もない鍵だ。


まさか、レニアにも世界を渡る力が使えるとは知らなかったな。


レニアが鍵を落としたという場所に覚えもなければ、もしそれが、世界間の途中、『次元の狭間』だったら、そこは幾層、無限に広がっているため、いくら俺でも簡単に探せる場所でもない。




いまは

諦めるしかなかった。






閲覧ありがとうございます。

次の投稿は 7/23 の予定です。

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