101話
ひときわ大きな蒼い炎がおさまると、その場にいたはずの精霊王は消えた。
「消えた……のか?」
「逃げる素振りもありませんでしたし、多分ですけど、消滅したことになるんでしょう」
少年の姿をした精霊王クレイブの残滓もどこにもない。
「ほら、カーヤ。なんともないだろ?」
ドゥエスはカーヤに見せつけるように両手を広げてみせる。
見た目にも身体にも何も変化は見られない。
「ドゥエス兄さん!」
カーヤはドゥエスに近づくと、その身体をペタペタ触り始めた。
「ちょっ!くすぐったいって!」
「ほ、本当に……なにも起きてないんだね。よかったぁ」
しばらくドゥエスの服をめくったり、髪を摘まんだりしていたカーヤが満足したのか、その場にへたりこんだ。
【アンタ……】
ドゥエスに何か言おうとした水の精霊に目を向けたドゥエスは、ウインクをしてみせた。
ウインクをされた側、水の精霊は小さく『ゲ……』と一目見てわかるように引いている。
「あーあ……苦労して手に入れた精霊王クレイブのアイテムが、すべてキレイさっぱり消えてなくなるなんて、ショックですわ」
「あはは、ごめーんレニアちゃん。」
ぶつぶつと文句を言ってるレニアに、軽口で謝っているドゥエス。
そういえば、素材の一つも残っていないのか、あたりを見回しても、レニアの言葉通り,キレイさっぱり無くなってしまったようだ。
ドゥエスに華を持たせた以上、表情には出さなかったが、正直少しは俺もショックだ。
それでも得たものもあったから、悪いわけではないが。
***
「ドゥエス、カーヤ、二人はこれからどうするんだ?」
「僕は、村に戻ります。村の発展……っていうか、水の精霊さんは残ってるわけだし、どのくらい一緒に入れるかは分からないけれど、もう少し魔法のこと知りたいこともできたし」
「オレは……どうすっかなー、また王都に……」
「いや、兄さんも帰るんだよ。いっしょに帰るんだからね」
柔らかいが、どことなく圧のあるカーヤはドゥエスの腕をひっつかんでいる。
「ちょちょちょ、まだオレには、今回の気苦労をいたわるために遊びまわるって大事な任務が……」
「何の任務だ、ドゥエス。あんた遊び人じゃなかったのか?」
カーヤと一緒に帰れよ。
そして借りてるもん返せよ。
「エリー(仮)ちゃんは?オレが倒しちゃったとは言え、精霊王と会ってってゆー目的も済んだわけでしょ?」
「俺は、元の世界に帰るさ」
そこで裾をくいくいと引っ張られた。
そちらをみると、レニアが何か言いたげにしている。
「その……おにいさま」
ふむ……
「お前は……鍵を持ってなかったんだったな」
「レニアちゃんもエリー(仮)ちゃんと同じ世界から来たんだよね?何か問題があるの?」
「座標はわかっているし、俺の持っている鍵だけでも、二人くらいなら何とかなるさ。」
チェーンでズボンのベルトループ部分に繋げていた小さな鍵を見せてやる。
銀よりややくすんだ錫に似た素材のソレは、俺がこの世界に来た時に使った道具だ。
簡易的にこの場に世界を渡るためのポータルを作り、空間を渡る力を持った俺の力を補助してくれる有能な道具だ。
今はホームにいる魔術師・黒氏に作ってもらったもので、いくつか作ってもらっていたが、レニアはそのうちの一つを持ち出し、同じように世界を渡っていたのだという。
この世界に来てどこかに落としてしまったらしいが、一見すると何の変哲もない鍵だ。
まさか、レニアにも世界を渡る力が使えるとは知らなかったな。
レニアが鍵を落としたという場所に覚えもなければ、もしそれが、世界間の途中、『次元の狭間』だったら、そこは幾層、無限に広がっているため、いくら俺でも簡単に探せる場所でもない。
いまは
諦めるしかなかった。
閲覧ありがとうございます。
次の投稿は 7/23 の予定です。




