99話
「え……」
風の精霊が放った攻撃は、旋風を纏ったその矢は、ドゥエスに向かっていった。
途中までは。
警鐘を叫びながら間に割り云ったのは、兄を真似て髪を伸ばしていた青髪の青年、カーヤだ。
その風に吹き飛ばされるのかと思ったが、それほど威力があったようではなかったようで、その場にくずおれた。
「カーヤ!」
「カーヤさん!」
ーー!……
慌てて抱えるドゥエス。
誰かの息を呑む声も聞こえたが、今はそれどころではあるまい。
【あら、今の私の十八番が目的をはずしちゃうだなんて、まだちゃんと扱えてないのかしらね】
「まだ続けるつもりか【闇幕壁】」
今の風の精霊にどれくらい有効かは分からないが、精霊王の時ほどではないだろう。
俺は、見た目には何も見えない壁を作りながらカーヤを抱えて動かないドゥエスと風の精霊との間に立つ。
横目で見ると、カーヤの腹部に大きな傷が見てとれる。
ゆるやかに流れる赤が地面に血だまりを作っていく――
「エリー(仮)ちゃん、ちょっとだけソイツの相手、お願いしてもいい?」
何かの回復呪文でも唱えているのだろうか、ドゥエスが珍しく静かな声音だ。
怒りだろうか?
悲しんでいるのか、表情は隠れていてよく見えない
「任せろ」
*
「風の精霊よ、そろそろソイツの身体を返しちゃ貰えないか」
レニアが気にしていた精霊のようだから、できるだけ下手に出ておいてやる。
【えー、そんなのいやですぅ、エリー(仮)おにーさまー☆】
風の精霊は両手で拳を作り顔の近くに持ってきてぶりっ子をしてくるが、レニアは俺に気安くそんなことはしない。
レニアの顔をしているのに、大人びた少し違う声で俺の名を呼ばれると……なんというか、一瞬で気分が失せたのは気のせいだろうか。
「……」
【そんなに怒らないでよ、冗談なんだから】
怒っている?
俺が?
何に怒っているというのか
【この身体と相性もいいみたいだし、大丈夫よ。この肉体はしっかり使いこなしてみせるわ】
「返せ」
【無理な相談だわ【風芥】】
ビュウゥ――
竜巻が意志を持っているかのように襲い来るが、前方に展開していた障壁に溶け消えた。
本来の用途が発動したらしいな。
【無効化ですって――】
『ソイツ』はの周りに小さな球体を漂わせて、盾のつもりだろうか?
「おとなしく……、返せ」
ガルヴァートには『出来るだけ優しく、なおかつ端的に要望を伝えること』が対話するうえで大事なことだと言われていたのを思い出した。
【ふ、ふん!できないわ!私が人間に戻るために必要だもの】
「人間に、戻る――?」
【そうよ。クレイブの呪いのせいで、精霊だなんて幽霊じみた姿になり下がったけれど、人間に戻って人生やり直すのよ。肉体さえあれば、綺麗なドレスを着て、男と交わり子供を作ることだってできるもの】
「そうか。それはだれか他の肉体でやることだな!」
ソイツの周りを漂っていた小さな球体は、追加で展開していた闇幕壁にぶつかると、ひとつずつ消えていった。
「な―!」
一気に距離を詰めて、腹に一発くれてやる。
「うぐッ!!」
魔術も何も込めていない、純粋なグーパンだ。
膂力にドゥエス程の自信は無いが、
【え、いきなり腹パン?】
「そういえば、何か呑み込んだんだったな」
風の精霊の文句を聞き流しながら、隙を作る前に背中から羽交い絞めにして、拳をみぞおちに……だったよな?
「ふっ!」
「――っぐ!」
カツン―――!
口から何かが落ちた。
どうやら『異物』は吐き出せたようだな。
「っげほ!っげほ!」
その場にしばらくしゃがみ込みせき込んでいるレニアの顔を、直視できなかった。
「た、助かりましたわ……お兄さま……さすがに、物理でどうにかなるとは思ってませんでしたが……」
視線を感じる。
「そ、そう……だな」
「もう少し、女の子に優しくするのも、紳士ってもんですわよ。物理的に」
「き、緊急……事態、の、ようなものだったし………」
「おにいさま」
「…………すみませんでした」
今度はちゃんと言ってからにするよ。
【くっ!】
「あんたは動かないでいてもらおうか【闇茨籠】」
ツタで精霊の身体ごと覆ってやる。といっても、風の精霊に物理的な籠は意味ないと思い、内側に闇幕壁で魔術的な幕を作ってある。
ツタでできた籠も時限式ではなく、大きさを一定に保っている。
【ちょっと!なんのつもりよ!身動き取れないんだけど!】
「あんたにはそれでいいだろ」
**
ドゥエスのところに戻ると、止血はできたようで、カーヤは意識があったようで、ドゥエスを見ている。
「に、にぃさん……ま、……に合った……みたいだね」
「そういえば、水の精霊は何もしなかったのか?あいつがいれば防げただろうに」
過保護なほどに引っ付いていた水の精霊が、さっきは近くに居なかった。
風の精霊を拘束してから二人のところに戻ると、いつの間に姿を現したのか、水の精霊がカーヤを静かに見守っていた。
「カーヤの事なら、てっきり水の精霊が護るのかと思っていたんだが、防がなかったのか?水の精霊」
【悔しいけれど、……防げなかったのよ。水で幕を作ったんだけど、致命傷を避けるくらいしか出来なかったわ】
その表情からは本当かは分からない。
「そうだったのか……」
「よ、よかった……!ごめんなさい……私、わたくしっ……!」
泣きそうな……、
いやちょっと泣いているのか、レニアがカーヤに近づいてきて、回復魔法を使っている。
「あぁ、レニアさん、元に戻れたみたいで、よかった」
「―っ!カーヤさん!?」
「カーヤ、どうして庇ったりなんかしたんだ!」
「だって、兄さんを……止めたくて」
「とめるって――?!」
「精霊王を倒さないで――そんなことをしたら、……そんなことしたら、今度はドゥエス兄さんが次の精霊王になっちゃう――」
「!な、なぜ……それを―」
「どういうことだ?精霊王になる―?」
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