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精霊通信録  作者: 襾犲 邑
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1話

ドゥエスとカーヤの義兄弟の出会いのおななしです。

まだまだ先ですが、シリーズ中でそのうち人によっては痛そうな描写出てきそうなので、苦手な方はご注意ください。

1話1話は少し短めになります。


いつもの時間、少年-カーヤはいつもの廃れた教会へ行くと、珍しく先客が居た。


田舎の小さなアシャト村のはずれにある小さな教会。

ところどころボロボロで、ヒビが入ったままの壁に窓もいくつか割れたまま、掃除は行き届いておらず、天井には大きい蜘蛛が所有権を得たとばかりに巣を広げている。

まだ子供の自分では届かない高いところにあるため、諦めていた。


また、屋根は端の方に残っているため、雨避けは出来なくもない。


―寒いけど。


牧師も神父も居らず、誰も来る事もなくなった教会に来る人なんて、自分以外に居たのかと驚きながら、朽ちて顔の崩れた聖人サマの銅像の前まで近づいて行くと、こちらに気付いたのか、『その人』は、ゆっくりと振り向いた。


紅いー


夕日のせい?

いや、違う。


あれは…


その人は、長い髪も服も瞳も全てが紅かった。

髪や瞳はともかく、服は返り血だろうか?

所々黒ずんでいた。

釣り目で怖い目をこっちに向けてきた時はドキッとした。

なんとなく、疲れたような目をしていた。


……


見てはいけない人だったかな?


「おじさん、だれ?」

怖かったけど、つい声をかけていた。


「おじさんじゃねえ。おに―さんと呼べ。」


7歳の自分からしたら、大人のひとに見えたから、おじさんって言ったんだけど、本人はそこまで年をとってはいないらしい。


そういう返事が帰ってきた事にびっくりしていると、その人のおなかの音が鳴って、静かな教会に響いた。


「おじ…おにーさん、おなか空いてるの?」

「あぁ…ここのところ、ずっと何も口にしてなかったなぁ。なぁ、それ、……貰えないか?」


そう言って指差したのは、左手に持っていたカゴの中にあったパンだった。


近所のおばさんからお裾分けしてもらった、特製の《保存パン》だ。

おばさんの愛情たっぷりの保存が良くきくパンなので、勝手にそう呼んでいる。

すごく硬いからスープでふやかさないと、近所のおじさんが顎外れたって言ってたなぁ。



育ち盛りだからと、いつも多くくれるけど、一人暮らしの自分には多すぎて、内緒で教会の裏にいる小鳥たちにあげていた。

それでもたくさんあるから、代わりに食べてくれるなら、それは助かる事だと思った。


「はいあげる」

あまりに固くて包丁でないと切れないので、塊ごと渡す事にした。


「そのままくれんのか?ありがとう。」

おにーさんもびっくりした顔をしていたけど、包丁持ってきてなくて、自分では千切れないんだから、しょうがない。



バッキ!!



おにーさんはあろう事か、素手でパンをへし折ると、

「固ぇ」

パンに一人ツッコミした。


「……おばさんが焼いてくれるパン、いつも堅くて、折れないんだ。おにーさん、すごいね。」

あんな堅いパンを、苦もなく折ったかと思うと、バリバリ食べ始めるおにーさんに、感激していた。


「力だけは、自慢できるからな」


ここにはパンしかないのに、おにーさんは保存パンをあっという間に平らげてしまった。

「どこから来たの?」

「それは言えねぇ」

「何してるひと?」

「……あんま人には云えないコトしてる」

「関わった人は、食べたりする?」

「…何でそんなコト訊く……?_って、ああ、これか」

血まみれの服をみながら、納得するおにーさん。


「怖いか?お前、顔に出ないから分かんなかったが、大丈夫だ。人間には危害は加えねぇから、安心しな。」

「人間にはって…?」


どういうことだろう?

カーヤの知るかぎり、この世界には、人間と精霊、それに魔族なども居るというが、人間以外の生き物は赤い血を流したりせずに、赤い血を持つのは人間だけだと、書物で読んだことがあった。

このひとの身体に付いている返り血は一体?



カーヤの目線に気付いたのか、自身の身体を見て、

「コレは“アイツ”の返り血さ。赤くは見えるが、人間の返り血じゃねぇから、安心しな。オレはいたって“善良な青年”だから。」

人間じゃないってゆー『誰か』でも、返り血ってだけで十分、『善良』とはかけ離れているような気がする。



「アンタ、家族は?」

「ボクひとりだよ。お父さんもお母さんも、いないんだ。」

思い出したかのように、おにーさんにカーヤの事を訊かれたので、素直に答えた。


「そうだったのか…すまん」


素直に答えると、赤毛のおに―さんは、申し訳なさそうな、微妙な顔をした。

哀しいのかな?

痛いのかな?

「そんな顔しなくても、ボクは平気ですよ?」


つい言っちゃったけど、彼はきょとんとして一瞬だけ、優しい顔になった。



「おにーさんは、どこか行く所があるの?」

「オレは…どーしよっかなー?とりあえず、仕留め損なったヤツの欠片をどーにかしないとならないんだけど……

それまで、この近くに宿とかあったらなーって思って。」

「この村に宿なんてないよ。」


アシャト村は、牧師の居なくなった廃れた教会と質素な井戸、今は数世帯だけの家しかない小さい村だ。

少し高台にある教会から、集落が見渡せる。



「……見たところそんな感じだなぁ」

しみじみと遠い目をしてるおにーさん。

ボロボロな格好でどこかに向かうつもりだろうか?


「おにーさん、ボクの家に来る?そんなに広くないんだけど」

「いいのか!それは助かる!!俺に出来ることならやるから!」


ちょっとお部屋の片付けするのに大人の人のチカラが欲しかったところだし。

いつも頼んでいたパン屋のおじさんは腰を痛めたから、困っていたところだった。

村の中で頼める大人の人は、みんな腰か膝を痛めている。



「おにーさんのこと、なんて呼べば良い?」

「オレはドゥエス。そういやガキンチョは?」

「ボクはカーヤ。よろしくね、ドゥエスおにーさん」



ありがとうございます。

次回9/13を予定しています。

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