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嗅覚のすごい幼馴染に他の女の子の匂いを嗅ぎ分けられてしまった話

作者: 湧水紫苑

「ねぇ、ちょっといい?」

「ん?」

家の塀越しにそっけない声をかけてきたのは幼馴染の伊吹真白いぶきましろ

「こっちこっち。ほら早く!」

彼女は家の庭に俺を呼び出した。

周りをキョロキョロ見て誰もいないことを確認すると突然表情が変わった。

「あのね……私と付き合ってくれない?」

「えっ!?」

真白から告白されるなんて思ってもみなかった。

しかし、彼女の顔は真っ赤に染まり、緊張で身体を震わせている。

そんな姿を見せられたら、誰だって彼女が本気だと分かるだろう。

「ど、どうして……?」

「蓮くんのことが好きだから!」

「なっ!?」

突然のことで頭が混乱する。

今まで一緒に過ごしてきて、好きになった瞬間が分からない。

「私は小さい頃からずっと蓮くんを見てたよ? でも中学になってから全然遊んでくれなくなったじゃん……」

確かに俺は中学に入ってから他の男子と遊ぶようになった。

だから、真白とはしばらく連絡を取り合っていなかったのだ。

「でも、それはお前も同じだろ?」

「そうだけどさ……寂しかったんだもん」

「ごめん……」

「ううん、謝らないで! それでさっそくなんだけど私のお願いを聞いてくれるかな?」

「なんだ?」

「今度の週末私とデートしてくれないかな?」

こんな可愛い子にデートに誘われる日が来るなんて夢にも思わなかった。

それにしても、どうしていきなりデートなんだろうか……。

「本当にそれでいいのか?」

「うん!」

「分かった。じゃあ明後日な」

「うん、大丈夫だよ! ありがとう!」

真白はとても嬉しそうな顔をしていた。

きっと勇気を振り絞って言ってきたに違いない。

なら俺もその気持ちに応えないとな。

そして約束した通り、2日後にデートすることになった。

──次の日の昼休み。

今日は晴れてるしいつものように屋上でお弁当を食べることにした。

扉を開けるとそこにはもう既に結衣の姿があった。

「あっ、蓮くーん!!」

手を大きく振っている結衣。

そんな彼女の元へ駆け寄る。

「悪い、待たせたか?」

「いえいえ、今来たところですよ〜」

ニコッと微笑む結衣。

その笑顔を見ると自然と笑みがこぼれてしまう。

「なんかいい事でもあったんですか〜?」

「別にないけど?」

「ふぅ〜ん。何かあったような気がしますけどね」

鋭い目つきになる結衣だが、すぐに元の優しい表情に戻る。

それから俺たちはベンチに座り、お弁当を食べ始めた。

すると、急に真剣な顔つきになり口を開く。

「ねぇ、昨日の夜のこと覚えてますよね?」

「ああ、もちろん」

昨晩、結衣から電話がかかってきた。

『大事な話がある』と言って俺は彼女に呼び出されて告白されたのだ。

その直前に真白から告白されていた俺は激しく動揺した。

しかし結衣の目には自分の告白を喜んでいると映ったようで喜ばれてしまった。

確かに結衣とは仲が良かったし、一緒にいて楽しいと思っていた。

けれど、異性として見たことはなかったのだ。

だから正直、俺は困惑した。

結衣のことは嫌いではない。むしろ好きだと思っている。

それでも俺は真白からの告白を受けたばかりなのだ。

なのに結衣のことも受け入れるわけにはいかない。

「あのさ、結衣のことは友達として……」

結衣は目を潤ませて俺の顔をじっと見ていた。

そのうちその瞳から涙が溢れ出したのを見て、俺は結衣の告白を半分受けることにしたのだった。

「それじゃあ恋人の一歩手前のとても仲の良い友達っていうのはどうだ」

渋々納得した結衣だったが、やっぱり納得してなかったようだ。

「蓮くん……私は諦めませんよ?」

「えっ……?」

「これから覚悟していてくださいね!」

そう言って、彼女は俺に抱きついてきた。

「ゆ、結衣!?」

「これは罰です! 私を泣かせた罪です! ちゃんと償ってもらいますよ!」

「わ、分かったから離れてくれ!」

「嫌でーす!」

誰かに見つかったらどうしようという気持ちもあったが、悪い気はしなかった。

こうしていると結衣の甘い香りで体がとろけそうだ。

俺は結衣の頭を撫でながらゆったりとした昼休みを過ごした。

放課後になると、俺は真白と一緒に下校することにした。

「蓮くん、帰りましょう!」

「そうだな」

「ねぇ、蓮くん……」

真白は上目遣いでこちらを見てくる。

「なんだ?」

「蓮くんって私の他に好きな人いるんですか?」

唐突な質問だった。

まさか真白からこんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。

「い、いないぞ」

「本当に?」

「本当だって」

「嘘じゃないですか?」

「なんでそう思うんだよ……」

「蓮くんの顔が少しだけ引きつっているように見えました!」

そう言う真白の目は確信しているようだった。

(真白の観察力は凄いな……)

「……まぁ、俺が好きというか向こうが俺を好きなだけだけどな」

真白は一瞬固まったが、すぐに表情が明るくなった。

「そうなんですか! 良かった……」

「どうして?」

「だって蓮くんは私の彼氏さんだから他の女の子と付き合うなんてダメですよ!」

「そっか……分かった」

「約束してくれます?」

「ああ、約束する」

「ありがとうございますっ! 大好きですよ、蓮くん!」

「……」

無言でいる俺を見て不安になったのか、真白は首を傾げていた。

「あれれ? どうかしました?」

「あっ、ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」

「どんなことを考えてたんですか?」

「それは秘密だ」

「むぅ〜、教えてくださいよぉ〜」

真白は頬を膨らまして、俺の腕を引っ張ってくる。

その仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。

普段の学校で見せる真白とは全然違うキャラだ。

これが好きな男に見せる顔というやつか。

「そんなことより、明日はデートの日ですね!」

「そうだな」

「どこに行くか決めてるんですか?」

「一応、真白の行きたいところでいいぞ?」

「蓮くんの行きたいところがいいです! 蓮くんがしたいことがいいです!」

「じゃあ俺の行きたいところに行ってもいいか?」

「もちろんですよ! どこに行くんでしょうか……」

「着いてからのお楽しみだ」

「分かりましたっ!」

真白は俺に飛びついてきた。

「お、おい……」

「えへへ、早く明日にならないかなっ!」

俺の胸の中で楽しそうにしている。

そんな彼女の頭を優しく撫でてあげる。

「蓮くんの手、気持ちいいですぅ〜」

気持ち良さそうにする真白を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。

すると、彼女は顔を上げてこちらを見る。

「蓮くん。本当に他の女の子と仲良くしてませんか?」

「してないってば……多分な」

真白は自分の胸に顔を押し付けてきた。

「……いい匂い。いつも使ってるボディソープは何ですか?」

「え?えーっと、手王の薬用デオドラントボディウォッシュっていうやつだな」

「メンズだからシトラス系ですよね」

「ああ、さっぱり系のやつだ」

「……ふぅーん、そうですか……」

何か真白の様子がおかしい。

ぱーん!

俺から離れると、真白はいきなり俺の顔を叩いた。

「ちょ、何をするんだ!?」

「……蓮くんの浮気者!!」

そう言い残して、真白は走り去ってしまった。

「ど、どういうことだ……?」

俺は叩かれた頬に手を当てながら、呆然と立ち尽くしていた。

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