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2話 挑戦状

レベルを上げないでクリアする…?馬鹿な事を…そんなの出来るわけない。そんな蛮行は止めなければならない。



異世界に呼んだ日本人が死ねば始末書どころの話では無い。世界が救いを求めたのなら神は日本人を派遣する。別に日本人が必須条件ではないが、潜在能力が高いケースが多いため基本は日本人だ。そしてその様を他の神々は見ていたりする。



異世界召喚はそういった所謂エンターテイメント的側面もある。故にその多くは勇者に必要以上のチートスキルを盛り、大半はレベルカンスト。あるいはそれに近い状態でクリアさせるよう誘導する。だからこそ彼のためにも意地でもレベルを上げて貰わねばならない。



なるべく安全に。確実に。魔王やその幹部。また道中のモンスター相手に死んでしまって、神の座を剥奪された神だっている。だからこそレベル上げで死なないように性行為でのレベル上げを選んだのだ。性行為で喜ばない若い男はいない。それは今までの判例が物語っていた。異世界召喚で私にしか出来ない最高のやり方。そのはずだった。



しかし、彼はそれを拒絶した。女など興味はないと唾を吐き捨てた。というよりボサボサの伸び切った髪に目の下のクマ。そして極め付けはあの全てに失望しきったかのような闇を抱いた黒い瞳。



そうか…つまり…かつて女性との交際で苦い思い出があると見たわ。過去を引きずり、自己肯定感が低いままここまで来たのね。けれど…私の策にかかれば異世界で魔王討伐のため、尽くす清く正しい素晴らしい男性になれるわ。



見てなさい、クラネソラ!



「この呪い解除出来ない?」



「呪いではなく、祝福です!」



「望まれない祝福なんざ呪いみたいなもんだろう」



「とんでもない暴論やめてもらえますか!?」



なんて男だ。私が何時間もかけて行う儀式を呪い呼ばわりするとは。私の12時間を返してください。



「…与えた祝福を取り消す事は不可能です」



「何だよ、全くふざけやがって」



「ならばいつまでそんな減らず口が叩けるか…試してみましょうか。感涙に咽び泣いても構いませんよ。クラネソラ」



認識阻害を外せばあそこにいるシスター含めこの世界の人全てに認識されるようになる。そこからどうなるか楽しみだわ。



「認識阻害解除…!」



「ゆ、勇者様…!!遂に…来られたのですね!!」



「ゆ、勇者様!!遂に来られたのですね…この神々しさ、貴方様が勇者に間違いありません!」



「は?」



まさかこの男…!!全責任を私に全て擦りつけるつもり!?レベルを上げないでクリアする…つまりは自身の手を一切下さずに私をこき使ってあらゆるモンスターを倒すということですか!?



「…勇者様はご冗談がお上手なのですね。彼方の方は神の世界より舞い降りた使者。貴方様がこの世界に降り立つための儀式を執り行っていたのですよ」



「あはは、すまないすまない。ちょっとした勇者ジョークだ」



取り繕った乾いた笑みを浮かべるが内心では舌打ちでもしていたのだろう。シスターには見えないようにしてはいるが、明らかに表情が曇った。…油断も隙も無いわね、この男は。



しかし、既に手は打ってあるわ。



「早速この世界の現況を確認したい。シスターさん。すまないが、案内してはくれないだろうか」



ククク、案内はしないわよ。その前に…大事な事があるから…ね。



「ゆ、勇者様…あ、あの…その前に…こちらを見て、いただけますか?」



「?はい?いや、ちょっと待て。待て待て待て!何をしている。これ以上服を捲るな。中身が見えるだろ」



「いえ!勇者様にやる気を出していただくには服の下から下着を見せろと女神様が…」



「サンダー」



「ぴゃっ!?い、い、いきなり何をするのですか!?」



一切こちらを見ず、鏡の反射のみを頼りに人差し指だけを的確に向けた雷撃。それだけに惜しい。これだけの魔力コントロールが可能であればレベルさえ上がれば高出力の魔法を連続で雑に撃つだけで余程強い敵でない限りは楽勝。そうなれるだろう。



なんていう賞賛を普通なら送っていた。ただ一つ。そのサンダーを私に撃ってさえいなければ。



「いや、俺のイメージを悪化させようと裏工作を行うサキュバスである可能性があったからな。とりあえず撃った」



「とりあえずで女神に危害を加えないでいただけませんか!?タイム!タイム!!」



私は一度認識阻害を改めてかけて、シスターに会話を聞かれないようにした。とりあえずこいつの意識改革をせねばならない。



「女神様はレベル1で覚える程度の攻撃に当たったりはしないだろうし、ましてや死んだりしないだろう。…それに先程の認識阻害。恐らく本物か」



「鑑定眼を使えばいいでしょう!鑑定眼を!何のためにあると思っているのですか!?」



「鑑定眼を欺くモンスターがいないとも限らないし、鑑定眼を使われたと悟られたのを敵意と見なされた場合俺が倒せない可能性があった。だから不意打ちでサンダーを撃った。ダメか?」



「神に初めての攻撃魔法を撃った勇者は貴方が初めてですよ!」



「ならば余計な真似はやめろ。嫌がっていただろ。あのシスター。疑われたくなかったら変なこと吹き込むのやめろよ」



「変な事じゃありません。貴方がちょっとやる気を出してくれたらなぁって。レベル上げをしてくれたらなぁって。まさか下着を見ずに押さえつけたのは貴方が初めてです」



「女神様。望まないレベル上げってどう思いますか?」



「私がレベル上げを推奨するのはひとえに貴方が死なないためなのです」



「生物の中には力が凝縮された石に触るだけで進化をする者がいます。しかし、それを拒否して進化せずに戦おうとする者もいます。それなのにレベル上げを無理矢理強いるのは些か乱暴ではないでしょうか」



「それアニメの話ですよね!?…そこまで言うのなら時間は差し上げます。貴方の拠点も既に手配してあります。まずはモンスターをしっかり倒せる様を私に示しなさい」



「ちなみに俺だけが使える神器とかないのか?」



「ありません」



「…分かった。しょうがねぇなぁ。だからと言ってレベル1縛りをやめるわけにはいかない」



いや、縛りをやめて潔くレベルを上げて攻略すればイージーウィン出来るのですから早く諦めなさいって!



「知ってるか?俺の国の文化ではな。縛りをやめたり、条件を緩和すると『縛りから逃げるな』とか『ダメだ。行け』、『縛りを完遂しろ』と周りの人間が言ってくるんだ。だからこそ一度宣言した縛りは断じて取り消すつもりは無い」



「そうですか。貴方の事を好きになってくれる美人で素晴らしい彼女がこれから出来る…としても?」



「何?」



食いついた。所詮は彼も恋愛に負けた敗北者でしょう。ここから上手くやれば私の操り人形に出来る!少し…というよりかなり手間がかかりましたが所詮は男…!単純すぎますね…



「私の言う通りにすれば貴方好みの素晴らしい彼女が…」





「いらない」




「…はい?」




「いらないと言ったんだ。お前の提示している内容は曖昧すぎて取引にすらなっていない。それにな、現代日本では1000円ちょっと払うだけで自分が好きなシチュエーションボイスが買える時代なんだ。シナリオライター、声優、イラストレーターを初めとした沢山の人々が熱意を注ぎ込んで作ったシチュエーションボイスは決して俺を裏切らない。しかし、リアル彼女はいつどこで何をしてどんな理由で裏切るか分かったものではない上に維持費がかかる。買い切りで後腐れないシチュエーションボイスが勝るのは最早自明の理だ。コスト以上の働きをする…あぁ、なんて素晴らしいのだろうか」



「…貴方のいうことはよく分かりませんが…とりあえず!彼女に対して維持費って言葉を使うのやめてもらっていいですか!?」



「女が見ているのは所詮は男の金だ。どんなに高尚な言葉や偽りの愛を囁いてまやかしを見せるかは知らないが、金にならんと判断したら切る。そういうものだろう?」



「人の愛を何だと思っているのですか!?」



「金の切れ目が愛の切れ目。以上」



「…分かりました。なら言葉での説得は諦めましょう。しかし、私はいつでも力を貸します。そして性行為を行なってレベルを1でも上げたら先程の数々の発言は取り消してもらいますよ」




「あぁ、了解した。俺とて真実を取り消すつもりは毛頭ない。認識阻害を解除しろ、自称愛の女神」



「はい、って!自称付けるのやめてくれませんか!?」



いいでしょう。私が見てきた中で貴方は最も手のかかる勇者です。他者への愛どころか自己への愛も何処かに捨ててきたようなこの男!この男を堕とすことで私は愛の神として君臨出来るのです。この挑戦、受けて立ちましょう!

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