夏服
二編をまとめて投稿していますが、
関連性はありません。
学校への上り坂、僕の三歩ほど前を歩く彼女。
正面上方から容赦なく降り注ぐ光。
半袖の制服ブラウスを着た彼女が陽光に照らされると、
目の奥が痛くなるほど眩しい。
彼女も陽の眩しさから逃れようと両手を翳し、おでこに庇を作る
ブラウスを光が透過する。
普段見えないはずの彼女の体の形が見えてしまう。
二の腕から、脇腹までのラインがはっきりと見える
見てはいけない。そう思いつつ、目が離せない。
背徳感を抱きつつ、目のピントをずらせば、
日の光をはらんだブラウスは、白いオーラのように見えた。
神々しいようにも、神聖なものにも思えてしまう。
そんな神聖なものの、秘された部分を眺めてしまうのは、
やはり罪悪感を抱いてしまうが、
見てはいけないはずの、美しいものを目にしている嬉しさが、
僕を捕らえる。
彼女自身が光を放っているかのような光景は、
切り取っておきたいほど綺麗だった。
「あー。風だぁ」
前から吹いてきた風に彼女の声が乗ってくる。
手の庇を取り払った彼女は顔をあげ、空を見上げている。
「夏の風だね」
振り返り、僕にそう告げる彼女の声は、
熱い日差しも、風も歓迎していると言っているようだった。
手が降ろされたことで、神聖なオーラの放出は治まったが、
向けられた笑顔は女神の降臨かと思えるほど、綺麗だった。
僕の顔が熱いのは、いったい誰のせいにするべきだろうか。
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
「あれ、今日はポロシャツじゃないんだ?」
珍しくワイシャツを着てきた悠一。
学校へと並んで歩きながら、悠一の身だしなみをチェックする。
私の密かな毎日の楽しみ。
うん。今日はだらしない。マイナス20点。
「いやぁ、全部まとめて洗濯カゴに放り込んだんだけどさ、
昨日、雨だったじゃん?
母さん、洗濯しなかったんだよ。
おかげで一枚もなくってさ。しょうがなしにコレだよ」
苦笑い? 照れ笑い?
さすがに高校二年にもなって、
お母さんが洗濯してくれなかったって文句いうのは恥ずかしいよね。
まぁ、その笑顔を見せてくれたから、追及はしないでおいてあげよう。
でも、これだけは突っ込ませてもらおう。
「そういうことか。悠一らしいかも。しかも長袖だし」
「ま、今日だけだから、こうすりゃなんとかなんだろ」
そう言うと悠一は袖をまくり始めた。
もともとボタンを外してした袖を折り返していく。
あー、肘の下までくると、ぱつぱつになるんだ。
腕が太い。いや、たくましい。だね。
筋張ってるのは、男の子っていうより、男性の腕って感じ。
うん。なんかいいね。
いつも見ている腕のはずなのに新鮮なのは、見慣れない仕草だからか。
新たな発見かも。
あれ、まだまくるの?
「ここまであげれば半袖と変わんねーだろ」
肘を曲げ、力を込められた腕はさっきより逞しく見える。
いや、そのポーズとセリフは何自慢だ?
二の腕の途中までまくられて、ぱつぱつどころか、ぴちぴち。
さらに腕に力を込められて、
ワイシャツの袖が悲鳴をあげてるよ?
嬉しそうな笑顔で80点、ファッション性でマイナス50点。
「カッコわるい。それに通気性ゼロじゃん。
あとふたつ戻しなよ」
悠一の同意なんていらない。
私はワイシャツの袖を勝手にふたまくり分戻す。
「この方が絶対カッコいいからね」
「お、おぅ、そうか。ありがとな麻美子」
なに赤くなってんのよ。その顔やめなさいよ。
言わないけど、
私はワイシャツを開放してあげるのと、
悠一のダメなところをフォローしてあげるのが目的であって、
昔より逞しくなった腕に触ってみたかったわけじゃないからね?
うん……まぁ、あと90点くらいはあげようかな。
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