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第9話『聖夜のクリスマス』

 八王子にはあんまり雪が降らないんだけど、クリスマスになったら年頃の私達にとっては少し期待を込めてしまう。実際に校内ではいつもよりもカップルが輝いて見えるし、何かしらのアクションを女子が起こしたのか男子が少しソワソワする印象があったりする。

 もちろん私達のような同性カップルも例外ではなく、少しだけ贅沢なデートプランを計画しては心ときめく想いを抱えては悶絶する少年少女がちらほらと見かける。こういう場面を見ると、クリスマスだなぁ〜と自覚して、聖夜の日なんだなと自覚もする。

 小学生の頃からクリスマスの日には誰かが幸せになったり、家族との食事を大切にした話を席に座りながら聴き続けてきたからなのか、私自身もクリスマスだけでなくイブも大好きである。もちろんサンタさんが家に来てくれるという理由が中学一年生まであったけど、今年はそれとは違う理由でこの日をさらに好きになりそうであった。

「お待たせしました、あかりさん。それじゃあ手を繋いで行きましょうか」

 今日は私の恋人、日向風玲亜ちゃんとのデート。

 内容は大きなショッピングモールでクリスマスケーキを買って、私の家で過ごすだけ。たったこれだけの内容に私の細やかな幸せが凝縮されていると言っても過言ではない。

「うんっ‼︎」

 十二月二四日、クリスマスイブ。この日は私にとって生まれて初めて他人と過ごす日になるのは、もちろん言うまでもない。


 ショッピングモールに入ってまず最初にする事はあらゆる場所にある見慣れたお店に目移りするに限る。やはりこの日は人の出入りが多いのは分かりきった事だからなのか、服屋やおもちゃ屋さんもこぞってクリスマスセールを行っている。実際にそのセールに明確は効果があるのか確かめた事はないけど、多分子供達はいつも以上におもちゃを母親に買い求め、私達学生はゲームセンターで写真を撮ったり財布にお金を詰めてケーキを買ったりプレゼント交換の為に買い物したり、そして結婚した夫婦達は思い出の場所やお店に行って思い出に浸りながら愛を再認識してはゆっくりと愛し合うんだろう。そんな愛に満ちたクリスマスという日は、もはやラブリーデイと呼んでも良いのでは?

 全世代に浸透するかは不確かだけど、きっとこの日を意識する度に全国の純粋な人達は未だかつてない勇気を振り絞って異性、または同性に努力するのかもしれないね。

「あかりさん、このケーキなんてどうでしょうか? ご家族の分も買うとなると色んなケーキがあった方が良いと思いますよ」

 風玲亜ちゃんが指差すケーキをまじまじと見つめて吟味する。エクレアやチーズケーキなどが並ぶ棚を見てお母さんやお父さん、お兄ちゃん達の分をじっくりと考える。お母さんお父さんのケーキの好みは熟知しているけど、お兄ちゃん達の好みはまだ自信が無いんだよなぁ……

 ……あれ、そういえばお兄ちゃん達って今日は家に来るんだっけか? もし帰って家に来ないんだとしたらケーキを買う必要がないけど、何か嫌な予感もある。

 お兄ちゃん達が揃いも揃って恋人を連れて家に来たら、一体月宮家には何人の人が来る事になるんだろう?

 何故にそんな考えに至るのかという前に、そろそろ私の兄達を話すタイミングが来たかもしれないから話しておこうかな。


 まず、私から見て三つ上の兄。ここでは次男と呼ぼう。次男はかなり有名な大学へ通う大学生で、そこへ入った理由としては「就職を有利にする為」らしい。実際に大卒というステータスは今の現代社会にどれだけ反映されるのかは全く想像付かないけど、大人達からしたらきっと信頼出来るステータスなんだろうと勝手に完結させて特に次男の生き方を追及はしていない。

 ちなみに次男には自慢の彼女がいるらしく、何でも相思相愛を通り越して結婚も考えてるらしい。あと何か言っていた気がするけど、それをもう一度聞こうとしたら次男は「いや、俺にもう一度言わせるのか?」と、少しぼかすようにはぐらかされた。

 そして私から見て七つ上の兄。ここでは長男と呼ぼう。長男は大学へは通わずに私達がいる八王子から離れて、遠くの街にあるショッピングモール内にあるスーパーの青果部門チーフをやってるって聞いた事がある。実際のところ長男と私はあんまり会話を交わしてない所為でどんな人なのかと聞かれても何も言えない。それは決して不仲だからではなく、学生時代に女子とのケンカが絶えなかった所為で女嫌いになってしまったと次男から聞いている。その女嫌いという名の矛先は当然家族の女性、つまりお母さんと私に対しても向けられた。実際に私達兄妹の反抗期で最もお母さんを心労させたのは長男で、その凄まじさは長男とお母さんを和解させようと考えた次男がとばっちりを受けて鼻を殴られて鼻血を数時間も出させる大怪我を負った程だって、次男が鼻を押さえながら教えてくれた。

 しかしおかげで長男の反抗期は次男と小さかった私にとってかなりの光景だったのか、次男と私の反抗期は長男と比べるとかなり優しい方だったらしい。自分が両親に反抗してた頃はあんまり覚えてないけど、多分口調を荒くしてた程度だったと思いたい。

 んまぁ自分の兄弟の話はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろうと思う。もうすぐデートは本番に差し掛かるんだから、きちんと切り替えていかなきゃいけないからね。


「今日はたくさん買いましたね。これでクリスマスは楽しく過ごせそうですね」

「そうだね〜。そういえば風玲亜ちゃんは今夜は泊まりなんだよね? 夜は一体どこで寝るつもりなの?」

「そうですね…………」

 そう言うと風玲亜ちゃんは少し恥ずかしそうにコッチを見て、顔をほんのり赤くする。

「私はあかりさんの隣で、聖夜を過ごしたいですよ……?」

「ふ、風玲亜ちゃん……」

 ふぅ、これはどうやら私が頑張る日みたいだね。そうと決まれば本気を出すしかないね。

「今晩は寝かさないからね、風玲亜ちゃん」

「はい、期待していますよ」

 風玲亜ちゃんの本気がどれほどのものなのかは、やってみないと分からない。それが人の愛の深いところなんじゃないかな?

 あくまで私の、勝手な予想だけどね。

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