第8話『家族会議』
「あかりさん、ちょっと良いですか?」
今日の授業が終わって帰る準備をしていたら、風玲亜ちゃんが珍しく呼び止めてきた。そしてその表情から察するに、きっとアレの話題なのかもしれない。
「今日の帰りに、私の家へ来てくれませんか? お父さんにあかりさんとの関係を伝えたいんです」
「うん、分かった。それじゃあ行こうか」
生まれて初めて恋人の家に初めて来て、しかもその目的が風玲亜ちゃんの父親に会う為。これがもしデート目的だったらとても嬉しい事なんだけど、今回はデートじゃなくて恋人関係を伝える為。オープンキャンパスの時とは全く違うとてつもない緊張感に足が震えている。
「ね、ねぇ風玲亜ちゃん…… 風玲亜ちゃんのお父さんって、頭固い人じゃないよね……?」
「お父さんはそこまで厳格な人じゃないですよ。ただ、流石に最初はきっと驚くとは思いますよ。現代での私達のようや同性愛はまだまだ認知されていなくて悩む人が多い、性の悩みなんですから。それに拍車を掛けるが如くそういう人達を障害者扱いしたりホモだとかレズだと言ってバカにする、最低な人が過半数以上…… いえ、ほとんどなんですから。漫画やアニメでは同性愛の絡みが多いとは聞いてますけど、それを現実でしたら批判の的。テレビのバラエティでも上手い事編集してごまかしてぼかし、結局は笑いの種。人を好きになる気持ちを侮辱しては自分の居場所に安堵するクズですよ、周りの大人…… 上級国民は。私達はまだ何もしていないと言うのに、人を愛してるだけなのに口実と理由を付けて否定して軽蔑する。だから私は嫌いなんです、革の椅子に踏ん反り返る偉い人なんて」
しばらくの沈黙の後、風玲亜ちゃんの表情が普段の柔らかい顔に戻り、気を取り直して風玲亜ちゃんのお父さんに会う為に玄関の扉を開いた。
「お父さん、ただいま帰りました」
風玲亜ちゃんの後ろで、初めて会うお父さんに緊張しながらリビングへお邪魔する。そこにはテーブルの席に座る日向家の大黒柱、風玲亜ちゃんのお父さん…… 風玲亜ちゃんの父親がいた。
「あ、どうも初めまして……」
「あぁ。はじめましてだな」
風玲亜ちゃんの隣で席に座ると、目の前にいる風玲亜ちゃんの父親と目が合う。その姿からは少し圧倒される様な雰囲気もあり、きっと仕事に関しても上下関係の強い職種なのかと考えてしまった。
ただ一つ、気になる事もあった。
「……………………」
風玲亜ちゃんの父親は車椅子に座っていて、少し複雑な感情が湧いてくる。ほんの軽くだけど日向家の事情を知ってはいたけども、いざこうして現実を目の当たりにするのは初めてなのもあって凄まじい緊張感がまだ続いて流れてくる。
「お父さん、今日は大事な話があります。まずは紹介として、私の隣に座る人は私の友達だった月宮さんです」
「つ、月宮あかりです…… 風玲亜ちゃんとは友達で、その、いつも学校で仲良く行動したり、しています」
「……………………」
怖い。
「あとは一緒に下校したり、学校行事とかも一緒にやったり…… しています」
「そうか、風玲亜と仲良くしてくれてるんだな」
怖い。でも表情は少しだけ和らいでいる。
「私は見ての通り車椅子生活だし、母親は単身赴任でここにはいない。その所為で風玲亜は同年代の人と、友達の様に接する機会が少なくなってしまったんだ。でも君の話と家に帰って話してくれる風玲亜の話し方からして、もう友達とは言えない間柄にも感じるみたいだね」
「とっ、友達では、ない…………」
今の発言からには拒絶的な意味ではなく、何処か見透かされてる様にも感じる言い方だった。それに何となく気付いた私は、恐る恐る風玲亜ちゃんの父親に聞いてみた。
「それって、もしかして…… もう気付いてるんですか? 私達の関係が……」
「もちろん気付いてるさ。風玲亜の話を聴き続けていれば、自然と察するもんさ」
そう言って風玲亜ちゃんの父親は優しく微笑んだ。私の立場と想いを心から受け入れる笑顔を、私に向けている。
「月宮君、風玲亜をよろしく頼むよ」
「はっ、はいっ‼︎」
それからしばらく風玲亜ちゃんの父親と会話して、少しだけ仲良くなったところでお暇した。同性愛に対しては寛容的な意見を持っていた事で、すぐに打ち解けていった。
「緊張した〜…… 目を合わせて会話するのが怖かったくらいだよ……」
そして私は今、帰る前の玄関先で風玲亜ちゃんと別れの挨拶をしようとしている所。ここで私は風玲亜ちゃんの父親に対する素直な感想を言った。
「無理もないです、私の父はかつて建築業に勤めていたんですから。車椅子生活の理由はあかりさんの、察しの通りですよ」
「うん………… それじゃあ風玲亜ちゃん、また明日学校でね」
「はい、また明日」
風玲亜ちゃんと私は、晴れて恋人同士が認められた。今夜私はお母さんに風玲亜ちゃんとの関係を伝えたらあっさりとオーケーサインをしてくれた。
あとは私が頑張る番、しっかりしないとね‼︎