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第7話『友達のために』

 修学旅行が終わり夏休みを迎えて、今は九月。私達の学校では文化祭の演劇に取り組んでいます。ジャンルとしては童話っぽい何かで、私は台本のセリフを復唱している。

“うぅ〜、演技とかちっとも上手くないからなぁ…… セリフ覚えるだけで精一杯だよ……”

 でも与えられた役だから、少しでも皆の為に頑張っていきたい。そんな私なりの気持ちでまたセリフを発する。

 ちなみに私のセリフはたった二言しかない。

「やった‼︎ 魔女がいなくなった‼︎」

 悪役に囚われてた子供の役で、主役に感謝するセリフだけ。

「二人とも、どうもありがとー‼︎」

 これで私の出番は終わり。だけど先生から「モブの一人だから」という理由で背景の木の役まで任せられたから大変なのだ。その辺に落ちてる本物の木の枝を左右に持って、そのままキープだから。

“そういえば、主役の演技も見ておかないと……”

 確か主役は満里奈(まりな)ちゃんと由紀(ゆき)ちゃんだったよね。二人の演技も見てタイミングとか覚えておかないと……

「よーし、出たな魔女め‼︎ アンタの悪行はアタシ達魔法使いが終わらせてやる‼︎ 覚悟しろ‼︎」

「由紀達のつよつよ魔法で、悪い魔女さんは何も出来ずにドーンなんだよ‼︎」

 満里奈ちゃんは何か嬉しそうだし、ノリノリで演技している。そして由紀ちゃんは普段通りの口調で演技して、若干アドリブが目立つ印象だった。おかげで魔女役の自由(みゆ)ちゃんがあたふたしながら演技に徹している。

 そして私も、少しだけど由紀ちゃんの演技に巻き込まれるからかなり苦労するのは目に見えている。でもやらなきゃいけないし、何より文化祭を成功させたい気持ちだってある。

 だから最後まで頑張っていかないと‼︎


「はぁ〜、疲れた……」

「あかりさんも大変ですね、蜜谷(みつたに)さんの少し独特な口調に振り回されて……」

「そうなんだよ〜、まだ台本からズレてないからマシなんだけどさ…… ちょっと冷や冷やするんだよ。突然台本にない事言い出したらどうしようって思うとさ」

「あぁ〜、それはあり得そうですね。蜜谷さんは少し何ていうか…… 不思議ちゃんの印象がありますからね」

「でもね、だからって由紀ちゃんの人格を否定しないでいきたいんだよ。このまま私は周りを見ながらも自分の役を頑張っていこうと思うんだ‼︎」

「……頑張ってください。応援してますよ」


 昨日は風玲亜ちゃんと一緒に帰って嬉しかった。でも気持ちはきちんと切り替えていかないと演劇に支障が出るからね、真面目に取り組まないと……

「……って、アレ? 自由ちゃんが舞台にいないけど、どうしたのさ? 由紀ちゃん達は知ってるの?」

「あー、えっとね…… 何か体調が優れないみたいだから保健室に行くって……」

「もしかしたらひどい風邪かもだよね…… ノドが痛いと何も出来ないからね……」

 由紀ちゃんも満里奈ちゃんも代役の事を考えてそうな表情で、台本とにらめっこする。そんな二人を見て、私は一つ提案をしてみた。

「あのさ…… 私が代役しようか?」

 突然の事に驚いたのか、満里奈ちゃんだけビックリしたまま私の目を見る。

「はぁ⁉︎ アンタ何言ってんのよ‼︎ 魔女に捕まってる子供の役はどうすんのさ‼︎」

「魔女コスチュームの裏に着込めば良いんだよ。そうすれば一人二役出来るはずだよ‼︎」

 満里奈ちゃんと軽く揉めるとは思っていなかった。満里奈ちゃんなりの考えがあるのか、なかなか認めてはくれなさそうだった。でもそれは由紀ちゃんによってすぐに争いは終わった。

「満里奈ちゃん、ケンカはやめようよ。とっても怖いよ?」

「由紀…… ま、まぁよくよく考えてみれば、アンタくらいしかいなさそうね。魔女役の代わりが出来るヤツなんて」

「満里奈ちゃん、ありがとう。私精一杯頑張るから‼︎」


 そしていよいよ演劇が始まり、私はまず囚われの子供衣装を着てから上に魔女の衣装に着替える。結局のところ自由ちゃんはそのまま風邪を引いて欠席になった。だから私が魔女役を代わりにする事になり、満里奈ちゃんと由紀ちゃんの演技を見ながら舞台裏でスタンバイする。

「ここに魔女がいるみたいだな。なぁ由紀、何か魔力を感じたりしないか?」

「う〜ん、何だかつよつよな魔力を持ってる人が一人あの家の中で待ってるよ? これはどうしよっか?」

「当然突撃だな。たくさんの子供達をさらってるんだ、アタシらが一発懲らしめてやらねぇといけないんだからな‼︎」

 え〜っと確か、私は由紀ちゃんが魔女を大声で呼ぶ場面で登場するんだったね。今のうちにに台本を読んでセリフを暗記しておかないと……

「お〜い、魔女さ〜ん‼︎ どこにいるの〜⁉︎」

「ちょっ、バカッ‼︎ そんなんで魔女が出てくるワケないでしょうが‼︎」

 ……よしっ、今だ‼︎

「あぁ〜⁉︎ 誰かアタシの事呼んだか⁉︎」

 若干の無理を覚悟で精一杯のガラガラ声を出し、おばあさんっぽさを演出しながら杖を突いて舞台に上がった。私が舞台に上がった途端に客席から笑い声が聞こえた気がするけど、何故なのかはあんまり考える余裕なんてなかった。

「えっ、あ、あの〜、魔女さん、ですか……?」

 少し口が悪い満里奈ちゃんが私を見ながらキョドり、敬語寄りの片言で台本のセリフを喋る。もしかして私キャラ作りをやり過ぎた⁉︎

「そうだよアタシが魔女だよ。それで、アンタらはアタシに何の用なんだい?」

「アタシらは魔女を倒しに来たんだ‼︎ 早く子供達を返せ‼︎ さもないと……」

「かかれー‼︎」

 由紀が少し違和感を残すタイミングで戦闘を始めたおかげで、満里奈ちゃんが由紀を少し驚いた表情で見たけど、それでもなんとかごまかして戦いを始める。私は新聞紙で作った杖を持って魔法を撃つ演技をするのに対して、二人は百円ショップで売ってそうな剣を振り回す。もう既に杖の手抜き具合はもう見慣れてるから良いんだけど、大事な本番で壊れたらと思うとヒヤヒヤするよね……

「そーこだー‼︎」

「ぎゃああああああ‼︎‼︎」

 由紀の剣で斬られる演技に合わせて、私も倒れる演技をする。そして舞台から出て急いで魔女の衣装を脱ぎ、子供役の演技をして無事に演劇は終了した。


「ありがとうございます、月宮さん…… 私が休んでしまったばかりに迷惑を……」

「良いって、こういう時は助け合いだから」

 自由ちゃんから感謝され、満里奈ちゃんは少しだけ私に対する態度が柔らかくなり、由紀ちゃんは変わらず少し変な雰囲気を醸し出している。

「ちょっと、あの演技やり過ぎなんだけど…… アレの所為でセリフが一瞬だけ飛んだんだけど?」

「あっ、それはゴメン…… 流石に声はやり過ぎだったんだね」

「え〜、あの声由紀は好きだったんだけどなぁ……」

「ありがとう、由紀ちゃん」

 やっぱり人は誰か一人を好きになるんじゃなくて、みんなを平等に好きになれたら良いよね。

 その方が、ラブアンドピースって言えるよね?

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