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第6話『一星大学:後編』

今回は“三色ライト”とのクロスオーバー作品「ラブミーラブユー 一色目」のリメイク版になります

 大学の案内人による指示で、私は数分だけ廊下に待たされる事になった。まさか大学で一人にされるとは思わなかったので最初は素で焦ってしまいましたが、幸いにも目の前に私みたいな人がまごまごしながら手を伸ばしています。

 ただずっと待っても話しかけてこないので、ここは私から話しかけた方が良いかもしれませんね。

「あの、少しお話良いですか?」

「えっ⁉︎ あ、はい……」

 私に声をかけられるとは思わなかったのか、とても驚いた様子の女子大生さん。私に対してビクビクしながらもこちらに来てくれました。

「な、何か用でしょうか……?」

 近くで見ると、とても顔立ちが整ってて綺麗な方ですね。コミュ力に若干の難がある感じですが、それに目を瞑れば非の打ち所がない美女なのは間違いないかと。

「あの、私は東京から来た高校生で一星大学のオープンキャンパスに参加してる者なんです。もしよろしければ、あなたのお名前と学部を聞いても大丈夫ですか?」

「え、えっと…… みや、み、美山(みやま)輝夜(かぐや)…… が、学部は法学部の、一年生……」

 法学部一年生の輝夜さん、これで覚えました。もし一星大学に入れたら、私にとって将来の先輩に当たる人になりますね。

「私は日向風玲亜と言います。八王子の高校に通う二年生で、一星大学の法学部へ見学に来ました」

「あ、そ、そうですか……」

「それで輝夜さん、法学部の皆さんって他にどんな方がいますか?」

「あ、う…………」

「……………………」

 あの〜えっと、これはどうしたものか。一体この状況をどうしましょうか。なんと輝夜さんは私の想像以上にコミュ症のようでした。困った事に私には他人との会話が苦手な人に会った経験が浅いので、どう接したら良いのかが分からないです……

 ここにあかりさんがいたら、きっと出会って二秒で友達になるんでしょうけど、私にはそんな才能的社交性は備わっていない。そうしてあれやこれやと考えてる内に、輝夜さんをオドオドさせてしまった。

「え、えっと…… ひ、日向、さん……?」

「“風玲亜”で良いですよ、輝夜さん」

「風、風玲亜さん…… 法学部なんですが、最初の一年は高校の復習期間で、二年目から本格的な、講義になってます……」

「そうだったんですか。大学の講義ってその様な仕組みになってるんですね」

「あ、あとスケジュールは個人制作で、単位さえ取れれば過密スケジュールを作って休日を増やしても、大丈夫だと、思います……」

 輝夜さんは途切れ途切れになりながらも、将来の後輩になる私に大学のいろはを教えて頂く事が出来ました。これで完璧とは言えませんが、少しだけ大学の事が分かったと思います。

「そ、それじゃあ私はこれで…… 頑張ってください……」

「はいっ、ありがとうございます‼︎」

 輝夜さんと別れてすぐに案内の人が戻って来たので、すぐ近くの部屋に入って法学部説明会を始めていく。大学の説明から始まって終わりには年中行事の説明、聞き流しの無いよう注意深く聞いていきました。


 説明が終わって食堂へ向かうと、既にあかりさんが待っていました。どうやら向こうは私よりも少し早めに終わったんですね。私と目が合ってすぐに手を振って呼んでるので、こっちも急いで合流しないといけませんね。

「ねぇどうだった⁉︎ 法学部の話、楽しかった?」

「えぇ楽しかったですよ。一時間程かけて法律の在り方について教わりました」

「え、えぇ〜……」

 やっぱり、あかりさんにとって法律の話はかなり難しいみたいですね。実際私でも理解に苦労した法律もありましたし、それら全てを暗記となると地獄そのものですから。

「うわっ、どれも安い‼︎ 大学の学食って、こんなに安いものなのかな?」

「詳しくは知らないですが、もしかしたら利益を目的とした販売じゃないからでしょうか? いずれにしてもここではそういう細かい事は気にせず、何か注文しましょうか」

「よ〜し、じゃあ千円札で何か注文しよっかな。どれにしようかな〜…… あっ、ねぇ見てみて風玲亜ちゃん‼︎ 学校オススメのグラタンだって‼︎」

 どうやら学食オススメのグラタンは券売機では購入出来ないらしく、それが分かったあかりさんは驚く位にグイグイとカウンターへ歩んで行き、食堂の料理人さんに直接注文しようと向かっていく。

「すみませ〜ん、グラタンを二つお願いしまーす‼︎」

『すみません、ソレもう既に売り切れてます〜』

「はぅあ……‼︎ もう売り切れって、まだ到着して十分なのにいくら何でも早過ぎない⁉︎」

「グラタンは、入学してからのお楽しみになっちゃいましたね……」

『あれっ? 二人とも、ここで何してるの?』

 突然子供っぽい声が背後から聞こえて、二人揃って驚く。ゆっくり振り向くとそこにいたのは私服姿で、声だけでなく外見まで子供っぽいの女子大学生が食器棚を持ってキョトンとした表情で立っていた。

「きっと恐らく、ここへ見学に来た高校生だと思いますよ。今日はオープンキャンパスですし」

 立て続けに声がする。その声がした元気っ子の隣に目を向けると、そこには輝夜さんが立っていて、私と目が合うなり首をコクリとぎこちない挨拶をしてくれました。

「そっ、そうなんです。私達は八王子の高校から来たんですよ、ここの歯学部に興味があって……」

「私は法学部です」

「ねぇねぇ‼︎ 今()()()って言ったよね⁉︎」

 元気っ子がとても大学生とは思えないテンションで、あかりさんへグイグイ迫る。そんなテンションを前に流石のあかりさんも少し後退りしてるのが、私だけには見えました。

「私は法学部の生徒で、そちらの方と一度お会いしてますね」

「えっウソ? 輝夜ちゃんが知らない人と話したの?」

「ギ、ギリギリ会話出来た程度ですけど……」

 おや? 輝夜さんがすんなりと会話している様に思いますが、どうやら仲良くなれば普通に接する事が出来る様ですね。将来私とも会話がスムーズになる可能性があると分かって、少し安心しました。

「お待たせ」

「あっ、お疲れブラッディ‼︎」

 私達と輝夜さん達の間に入って来たのは、一回り背の低い白髪(はくはつ)で人形のような少女。その少女があかりさんと目が合うと、微笑みながら口を開いた。

「…………おつかれ」

 少女があかりさんと挨拶した事に驚いていると、元気っ子が少女に驚いた表情で声を上げだした。

「えぇっ、ブラッディこの人達知ってるの⁉︎」

「うん、さっき会った」

 ブラッディ、ですか。これはもう言うまでもなく彼女は外人さんのようですね。

「あの…… せっかくなのでご一緒させてもらえませんかね? 私達、もっと一星大学の事が知りたいんです」

 あかりさんが積極的に、とても積極的にブラッディさんを含む三人の間に入ろうとする。そんなあかりさんの提案に輝夜さん達三人は、なんと一瞬たりとも考えず、すぐにオーケーしてくれました。

「うん、良いよ‼︎ じゃあまずあそこの席に注文してから座ろっか!」


「それでは、まずは高校生である私達から自己紹介をします。私は月宮あかり、高校二年生です‼︎ 特技は水泳と声芸です‼︎」

「私の名前は日向風玲亜です。私の隣にいるあかりさんと同じく、八王子の高校二年生になります。現在一星大学の法学部を目指して受験中です、どうぞよろしくお願い致します」

 あかりさんがブラッディさんと、私は輝夜さんに向けて軽く挨拶する。

「よし、じゃあ大学生を代表してまず私が––––」

「いや、私が先にする」

 元気っ子が席を立つのと同時にブラッディさんがスッと立ち上がって手で抑止しながら、ゆっくりと口を開く。

「…………ブラッディ・カーマ、歯学部の生徒。大学一年生でルーマニア生まれ。以上」

 えっと、なんだか後ろの二人が「ルーマニア生まれ」に反応してるのがすごく気になるけど、あえて聞かないでおきましょう……

「よーし、今度こそ私だねっ‼︎」

 元気っ子が勢いよく立ち上がる。その勢いで椅子が床をこする音が周辺に響き渡る。

森野(もりの)(あかり)、歯学部の一年生ですっ‼︎ 私の自慢の特技は料理だよ!! あかりちゃんに風玲亜ちゃん、今日一日よろしくね‼︎」

 元気っ子改め、灯さんは無邪気なスマイルを見せながら私と風玲亜ちゃんの手を握り、お互いにギュッと強く握手しあった。そんな灯さんが突然元気な声でハキハキと喋った所為なのか、食事中だった周りの人が驚きながら強い目線で私達を見てくる。

 がしかし一方で、灯さんはそれらの視線とかを気にしている素振りが全くないのは正直凄いですね……

「では最後に私ですね。皆さん初めまして、私の名前は美山(みやま)輝夜(かぐや)と言います。一星大学に通う法学部一年生です、よろしくお願いします」


「あかりちゃんってさ、大学生になったら親元を離れて暮らしたいって思ってたりする?」

「そうですね〜、早めに自立して風玲亜ちゃんと一緒に暮らせたらなって思ってますよ〜」

「風玲亜ちゃんと一緒にかぁ〜、それはもしかしたら早めに叶えられるかもしれないよ? 大学の近くにはそれ用のアパートがあるからね‼︎ 次来た時は百合園荘って所に行ってみて、住めば都だから‼︎」

 あかりさんと灯さんとで、将来の話で盛り上がる。

「輝夜さん、輝夜さん」

「は、はい……」

「輝夜さんは灯さんと出会って、何年になるんですか? とても仲が良いから幼馴染とかだったり……」

「あ、そこまでの知り合いじゃない、ですよ…… ちゃんと知り合ったのは高校に入ってからで、そこから二人で暮らすようになった仲ですけど……」

「と、言う事は? 結婚とかも、考えてるんですか?」

「え、えぇ…… するつもりです……」

 私と輝夜さんでは、灯さんと輝夜さんとの馴れ初めで盛り上がっていく。

「そういえば、灯さんと輝夜さんってどういう関係なんですか?」

「私と輝夜ちゃんの関係? もちろん恋人同士の関係だよ‼︎」

 そう言いながら灯さんがグイッと輝夜さんの肩を寄せる。その時輝夜さんはビクッと驚きながら灯さんを見つつも、どこかまんざらでもなさそうな表情をしていた。

「あのっ、それってつまり百合関係ですよね⁉︎ 私と風玲亜ちゃんも、つい最近めでたく恋人関係になったんですよ!!」

 薄々予想してましたけど、やっぱりあかりさんは私を自分の肩に寄せて来ました。けどこういうのって、たまには悪くはないですよね。

「あっ、二人ともおめでとう‼︎ ちなみにプロポーズはどこでしたの?」

「あの、えっと…… 釧路の夕日が見える橋の上で」

 そう言った途端、灯さんの目がギランと光った。

「えぇ〜⁉︎ 北海道で愛の告白したの⁉︎ ものすごく羨ましいんだけど〜‼︎」

 灯さんによると、どうやら北海道へ輝夜さんと一緒に行きたいが、予算や時間などの関係で余裕が全くないらしい。確かに学生って色々と忙しいから大きな旅行ってなかなか出来ないよね~。

「羨ましいですね、夕日を背景に告白………… 憧れます」

 どうやら輝夜さんも、ロマンチックな恋愛ムードにはとても強い憧れを抱いている様子みたい…………

「良いなぁ〜、私と輝夜ちゃんは遠足で行った星乃川動植物園って所のベンチで恋人になったんだよ。あの時の輝夜ちゃんの攻めた行動は今でも忘れられないよ〜」

「ちょっと灯、それは恥ずかしいので言わないで下さい……‼︎」

「えぇ〜、でももう言っちゃったし〜‼︎」

「もう…………」

 灯さんから甘い過去を暴露されて顔を赤くする輝夜さん。そんな二人の様子が、完全に恋人関係そのものだった。

「さてと、それじゃあそろそろ時間だからごちそうさましよっか‼︎ ごちそうさまでした‼︎」

『ごちそうさまでした‼︎』


「お疲れ風玲亜ちゃん!! そっちはどうだった?」

「お疲れ様ですあかりさん。こっちは日本国憲法について学びましたよ」

「それじゃあ、もうホテルに帰ろうか」

「はい」

 私達二人の家がある八王子には明日帰る事になっている。だから今夜は星乃川市内のホテルで一泊してから家へ帰る事にしている。ちなみにホテルまでは歩いて二十分程なので、ホテルに到着するまでの時間を使って、今日の事であかりさんと沢山のお話をしていける。

「ねぇ風玲亜ちゃん、輝夜さんとはどんな事を話したの?」

「輝夜さんとはお互いにプライベートの話をしましたよ。好きな事や将来行きたい場所など、何でも話しましたよ。あかりさんはお二人とはどんな話題で盛り上がったんですか?」

「あぁ〜、それがさ…… 灯さんとは大学生になった時の話で盛り上がって、()()()()()とはあんまり会話出来なくてさ……」

 あの、えっと、ブラッディ……?

 まさか、ブラッディさんとは呼び捨てで呼び合う仲にまでなったんでしょうか⁉︎ あのたった数十分で⁉︎

「あぁでもね‼︎ 別にブラッディがコミュ症だった訳じゃなかったんだよ⁉︎ 何て言うかその、あんまり会話をしたがらなかったって言うか、一人の方が好きって言うか…… ん〜とにかくっ、ブラッディとはもうバッチシ友達だよ‼︎」

 あかりさんは、本当にすごいですよ。初対面の人だろうと積極的に話しかけては仲良くなって、しかもブラッディさんに関しては呼び捨てで呼び合える仲にまで発展してしまうんですから、それは特に驚きです。

「ねぇ風玲亜ちゃん、あのさ」

「急にどうしたんですか? いきなり真剣なトーンで話しかけて……」

 一度呼吸をはさんで、それから口を開く。

「私達が大学に受かって、ある程度お金とかに余裕が出来たらさ…… ルームシェアとかどうかな?」

「ルームシェア、ですか……」

「うん。もし風玲亜ちゃんが良ければで良いんだけどさ、少しでも良い部屋で二人きりの生活をしながら大学に通ったりさ。なんて言うか、その、結婚生活みたいな事が出来たらなぁ〜って」

 嬉しい。あかりさんの口から将来の事が聞けて、とても嬉しくなった。それはつまりあかりさんが私と一緒になりたいって事で、「結婚も視野に入れてるよ」というあかりさんなりの意思表示でもあるから。

「ど、どうかな……?」

 顔を赤くしながら上目遣いになるあかりさん。そんなあかりさんにかける言葉なんて、一つしかありませんよね……?

「……大学に入れたら、二人で一緒に暮らしましょうね。約束ですよ、あかりさん」

「あぁ……‼︎ うんっ‼︎ 私っ、絶対に一発合格するよ‼︎ そして合格通知で風玲亜ちゃんを驚かしてみせる‼︎」

「はい、期待していますよ」

 そのままホテルに着くまでの道中、私達はお互いに手を繋いで歩いた。

 相手との愛を深く感じる、恋人繋ぎで。


「はぁ〜、やっとホテルで寝れるねぇ」

 夕食も済ませてたくさん歩き、やっとの思いで到着したホテルの部屋で、あかりさんがベットに倒れ込む。あまりにもふかふかなベットを前に身体を転がして遊ぶ中、私は歩き疲れて少し休もうと思いベットに腰掛ける。

「おぉ、このベットすごく弾力があって跳ねるよ‼︎」

「あかりさん、少しはしゃぎ過ぎですよ……」

 掛け布団の中でモゾモゾし終えたあかりさんは、バスルームに目を通してお湯を入れ始める。もう既に夜八時過ぎで普段の入浴時間を過ぎていますからね、ここまで我慢していると流石に身体がムズムズしてきます……

 そういえばあかりさんって、私とお風呂入ってくれるんでしょうか……?

 私だったらあかりさんとお風呂に入って、入りたいんですけど……

「ねぇ、お風呂どっちが先に入るか決めようよ。流石に二人で入るのはまだ恥ずかしいしさ、私達ってまだそこまでの関係じゃないし…………」

 そこまでの関係じゃない。

 それって、どこまでなんでしょうか。

 よく、分からないですね。

「…………そう、ですね。それでは私が先にお風呂に入らせて頂きますね。ではお先に」


 私は、少し早とちりしてしまったのか?

 それとも、高望みをしてしまったのか?

 今の私には、たとえどっちにしても分からない。

「はぁ……」

 湯船の中であかりさんの言葉を、脳内でループ再生させながら軽く落ち込む。そして同時にあかりさんの言葉の真意を探ろうとしてみたりする。

 もしあかりさんが恋愛に奥手だったりしたら、私がリードすべきだと考えている。もしそれであかりさんが正直な気持ちを吐き出せる様になれば、それだけでも十分嬉しいですし、なにより自分もあかりさんに今以上に正直になれる。

 だけどさっきのあかりさんの発言は、どういう考えで言ったのか。それが一択問題とは言えないセリフだったから頭がモヤモヤしてしまう。

 そこまでの関係とは、何なのか。

 そこまでの関係とは、どの辺りからなのか。

 分からない。難し過ぎて分からない。

「……………………」

 特に何かしらの答えが思い浮かばないまま、私はあかりさんとお風呂を代わった。すれ違う瞬間にあかりさんをチラ見すると、さっきまでとは違ってあかりさんも少し悩んでる様子だった。

 もしかしてあかりさんも、私と同じ気持ち……?

「……………………」

 そして部屋で一人になる。あかりさんに悪いと思いつつ聞き耳を立てていると、服を脱ぐ音が聴こえてきた。それから水が跳ねる音がし続けるまま、特に独り言とかを発する様子はなかった。

「はぁ…………」

 お風呂から上がったあかりさんにどう声をかけるか、いくら考えても良い言葉が思い付かない。これを繰り返しても良い答えは出ないと思ってテレビをつけると、私が普段から観てるドラマが始まろうとしていた。

「……………………」

 私もいつか、ドラマみたいにロマンチックな事をしてみたいなぁ…………

「風玲亜ちゃん、お風呂上がったよ」

 気が付くと私の側にあかりさんが座っていて、太ももがくっつく距離だった。内心焦りながらドキドキしつつも顔には出さない様にした。

「へぇ〜、風玲亜ちゃんってドラマ好きなんだね。ちょっと意外だな」

「はい、子供の頃からドラマは観ているんですよ。昭和のドラマも何本か観ているので、それなりのドラマオタクってところですかね」

 二人でテレビを観ていたら、ドラマ側が私達に向けて狙ったのか、ドラマチックなキスシーンが放送された。二人で隣り合って観ていた私とあかりさんにとってこのシーンは刺激が強過ぎて、互いに目を逸らしてしまう。

「ねぇ風玲亜ちゃん、恋愛とかでよく見かけるアレ…… やってみない?」

 …………あかり、さん?

「アレって、キスの事ですか?」

「う、うん。私ね、結構恋に消極的だから上手く言えないんだけどさ、その…… 私は風玲亜ちゃんの唇が、欲しいなぁ〜って」

 あかりさんの言葉を最後まで聞かず、私は淫らにもあかりさんの口元まで寄ってしまう。そして両頬に手を当てて後悔が無いかどうか、最後の確認をする。

「……私も、あかりさんとキスしても良いですか?」

「うん、良いよ。一緒にしよっか」

 お互いの唇が少しずつ近付けば近付く程、心臓の鼓動が強くなる。私はかつてない緊張をほぐす為に、いくつものドラマで俳優さん達がしてたキスシーンを思い出しながら、あかりさんの胸元に手を置き、ついに相手の唇に自分の唇を当てた。

「……………………」

 一度唇が当たっただけで、あかりさんが欲しい気持ちが一気に押し寄せてきて、いつの間にか理性が抑えられなくなっていた。

 これをもしドラマチックな表現で言うとしたら、性の快楽に溺れてしまう程に…………


『起きて、風玲亜ちゃん。もう朝だよ?』

 あかりさんの声がする。どうやら随分と寝坊してしまったみたいですね。

「……おはようございます、あかりさん」

 あかりさんの目つきは、幸せな少女の目つきそのものだった。

「そろそろ朝食の時間だから、着替えて一緒に行こうっか」

「そうですね、一緒に着替えて一緒に行きましょうか」

 何だか新婚さんみたいなムードになる。今のこういう雰囲気こそ“本当の幸せ”ってものだと思う。好きな人と好きな人で結ばれて、やがてはお互いに最高の人生を全うする。結婚は二の次で、結婚は人生に区切りを付けるもの。やっと幸せの階段を上がり始めたんだとしっかり実感出来た私は改めて、最愛の人の唇にキスをしようとする。

「んっ…………」

 どうやら一足遅かったようですね。

「ちょっと、いきなりは……」

「ふふっ、目覚めのキスだよ!!」

「もう…… あかりさんったら」

 すごく嬉しいあまり顔を赤くしてしまう。それが恥ずかしくて、つい顔を逸らしてしまう。

「…………でも、嬉しいです」

「ふふっ、どうもありがと」


「そういえば風玲亜ちゃん、ちょっと確認したい事があるんだけどさ……」

「何ですか?」

「風玲亜ちゃんは私と結婚、したいかな?」

「はい、もちろん‼︎」

「じゃ、じゃあ私と結婚してください‼︎」

「…………はい、喜んで」

 あかりさんが私の手をやさしく握る。その手の温もりを感じて、また心臓がドキドキしてきた。

“あぁ、大好き……”

 私はきっと、あかりさんに会う為に生まれてきたんですね。その為にも私は、あかりさんを幸せにしてあげないと駄目なんです。

「いつの日か、とても素敵な場所で、あかりさんと私との結婚式を挙げましょうね」

 結婚式。その言葉を口にするだけでお互いの花嫁姿を想像してしまう。

 そして最高に尊い、誓いのキスも。

「うん。大人になったら絶対に挙げようね」

 お互いに手を絡めて恋人握りにしながら肩を寄せ合い、互いの愛を手の平で感じながらゆっくりと部屋を出て、そのまま朝食のあるレストランへ、二人きりで歩いて行った……………………

©️2021 華永夢倶楽部/三色ライト

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