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第5話『一星大学:前編』

今回は“三色ライト”とのクロスオーバー作品「ラブミーラブユー 一色目」のリメイク版になります

 久しぶりの家に帰って、私は昨日の事をまた思い出す。昨日の夕方、釧路の夕日がよく見える橋の上で私は、片想い相手だった人に告白をした。

『私も風玲亜ちゃんの事が、大好きだよ』

 そして私とあかりさんは片想いから両想いになって、恋人関係になりました。今も胸がドキドキしてるのが分かるくらいに鼓動が強いですし、頭の中もあかりさんがチラついてますが……

「あの時、キスはすべきだったんでしょうか……?」

 愛情表現としてのキスを恋愛ドラマでよく見るんですが、それはあくまでドラマの話。現実はそう上手くいきませんし、早とちりだと思われそうって考えてしまって結局キスはせずに修学旅行が終わる。

「ん…………」

 自分の唇を少しだけ触る。まだ誰にも捧げていない柔らかい部分は、今日も変わらない具合だった。

“あかりさんとのキスは、もう少し後ですね……”

 好きな人とのキスはもう少し仲良くなってから。これはある種のマナーです。下品な人にはならない様に恋愛面でも軽く勉強してるつもりですけど、マニュアル通りに行動するのは人としておかしいのでは……?

“あかりさんと一緒になるには、まず自分を良くする事からですね。そうすれば自然と一緒になれると、思うんですけど……”

 恋愛とは、こんなにも難しいんですね。考えれば考える程に分からなくなって、自分が何をしたいのかが分からなくなりそうです。もしかしてあかりさんも今、私みたいになってたりするんでしょうか?

『〜♪』

 あっ、もしかして……

「……じゃなくて、伊藤さんですか」

 伊藤美紀。クラスでよく目立つ背の低い彼女からの着信だった。まるで狙い澄ましたかのようなタイミングで電話が来たけど、助けが必要だと思ってた私からすれば救世主になりそうですね。ここは伊藤さんにこの事を伝えて、何かアドバイスを求めましょう。

『あ、風玲亜? 美紀なんだけどさ……』

「あぁ伊藤さんですか。今日はどうしたんですか、こんな夜遅くに電話なんて」

『あのさ、修学旅行の話になるんだけどさ…… 風玲亜とあかりがホテルに来るのが遅かったんだけど、もしかしてあの時って何かあったりした?』

 あの時というのは、それって男子高校生と揉めた事を言ってるのでしょうか。それともあかりさんに告白した事を言ってるのでしょうか?

 どちらにしても、伊藤さんは人として信頼できるので“あの時”の事を相談しましょう。

「えぇ。実は私…………」

 その後私はあかりさんの事が好きな気持ちを、伊藤さんに明かした。そしてホテルに戻る時間を少し過ぎたあたりの頃に、私があかりさんに告白した事をなるべく細かく伝える。伊藤さんは他の女子とは違って、一瞬足りともふざけたテンションで話を聞かず、とても真面目な返事をしてくれた。

『そうだったんだ…… それで遅刻してたんだね、風玲亜は。普段からいつも時間前に来てた風玲亜が、あの日だけ遅刻したから何事かと思ってたんだけど…… そういう事があったんだね』

「はい。そして告白した後は特に何もせず今に至る訳なんですが、伊藤さんって恋愛経験はあったりしますか?」

『いや無いんだよ。私は高校卒業したら巫女になろうって考えてるから、恋人は作らない様にしてるんだ。色情の類は神職にとって不徳らしいからさ、だから私からは何もアドバイス出来ないんだよ。そこだけ力になれなくてごめんね……』

「そう、ですか……」

『……でもさ、恋愛に確実かつ明確な正解なんてないんだからさ、もしイケると思ったらあかりに素直な気持ちを伝えれば良いんじゃないかな? “好き”と“愛してる”をしっかりと伝えれば、自然にあかりも素直になってくれると思うよ』

「“好き”と“愛してる”ですか……」

 二つの愛情表現を頭の片隅にしっかり留めて、もっとあかりさんに対して素直になろうと決意する。

『それじゃあ私はもう寝る時間だから、また明日にね。おやすみ風玲亜‼︎』

「はい、おやすみなさい」

 通話を終え、明日話す話題を考える。あかりさんに会ったらまずは進路の事を聞いて、それでもし何も決まってないのでしたら、さり気なく…… 本当にさり気なく自分の進路を伝えて、あかりさんの進路を決める手助けが出来たらなと計画してみたりします。

 もし既にあかりさんがとっくに別の進路を考えていて、それが私にとって遠い場所にあるんだとしたら、少し気持ちが揺らぐ事も考えられますね。せっかく告白したのにすぐに疎遠関係となると、きっと私はジワジワと精神的トラウマを抱え続けて仕事やプライベートに支障を来たすかもしれません。

 それくらいに私の中でのあかりさんは、とても大きな存在になっています。結婚も少しだけですが考えていたりします。

“明日学校に行ったら、まずあかりさんとお話をする所から始めないといけませんね…………”

 明日も早いですし夜更かしにならない内にベッドに潜って、何も考えずに目を閉じていく…………


 そして次の日、少しだけ体調の悪さを感じながら学校へ向かう私に伊藤さんが駆け寄って来た。

「おはよー風玲亜‼︎ 今日はどうするの?」

「とりあえず、あかりさんに会ったら進路について話そうと思います。あかりさんの事ですから、きっとまだ迷ってると思いますし……」

「あはは、じゃあ私は先に行ってるね。じゃあお先に‼︎」

 そう言いながら伊藤さんはサッカー部で鍛えてる自慢の脚で、瞬く間に見えなくなっていった。一方の私は歩きで登校していくけど、校門をくぐってすぐにドキッとする出来事が起きた。

“あ、あかりさん……”

 すぐ目の前に、あかりさんがあくびをしながら玄関へ向かう姿が目に入った。

「あ、お、おはようございます、あかりさん……」

 少しだけぎこちない挨拶になっちゃいましたけど、今はそんな事をいちいち気にする暇がありません。私にはあかりさんと更に仲良くなる為のやる事があるんですから。

「あ、えっと…… おはよう風玲亜ちゃん」

 あかりさんに話す話題を言おうと口を開いた途端、その話題が何なのかがすっぽりと抜けてしまう。それこそ恋する頭みたいに、好きな人に会うと事前に考えてた事が言えなくなる。そういう状況に今まさに私がなっていますね。

 ここは一旦深呼吸して、ゆっくりと話したかった事を思い出していきましょう…………

「あ、あの…… あかりさん?」

 まるで付き合いたての恋人達みたいな空気感になりつつも、あかりさんに進路の話題をさりげなく、さりげなくで振ってみる。

「あかりさんは将来、何にするか決めましたか?」

「え…………」

 あ、少しだけ表情が沈んだ気がしますね。これはもしかして進路が決まってない、という事になるかもしれません。

「ううん、まだ決まってない」

「実はですね、私は高校を卒業後すぐに進学する予定です。あかりさんがどの進路にしたか決めましたら、私に出来るだけ早く教えて下さいね。私も出来るだけ力になりたいので」

「あ、ありがと……」

 そしてそのままあかりさんと別れ、私は教室に入る。教室に入るなりすぐに伊藤さんが隣の教室からやって来て、あかりさんの進路を決める手助けとして一星(いちぼし)大学のポスターを手渡す事にしました。これで上手くいけばあかりさんもここへ入学する事になって、進路の幅が広がりつつも私との時間が増える事でしょう。

 少し愛が重いと思われるかもしれないですが、あかりさんは恋愛が絡むと消極的になる事を知ってます。ですがそれは過去のトラウマが原因で、誰かに対して一途にならない様にする為の戒めじみた行為。自分が傷付かない様にするには、恋人や親友を作らない様にする事。確かにこの考えは何かしらのトラウマを抱えていればとても自然な考えです。

 しかし、一方の私にはトラウマと言えるものが無い人生を送っていた所為で、あかりさんに()()()頼られる存在になれる自信が正直言ってありません。こんな私があかりさんの事を沢山知ったとして、果たしてそれはあかりさんにとって、どう思われるかが不安ですね……

 こんな私に出来る事といえば、いつまでもあかりさんの側にいる事だけなんでしょうか……?

 それとも、あかりさんの良き理解者になる事……?

“…………いえ、どっちも惜しくて違うはずです。私には、あかりさんの()()()()になるべきなんです”

 きっと今頃は伊藤さん、私が手渡した一星大学のパンフレットを使ってあかりさんと話してるでしょう。それであかりさんが一星大学に行くと決意したら、私は親身になって応援する。そしてやがてはあかりさんと一緒に合格して、同じ場所から歩いて同じ大学に通えれば、私の人生に初めて意味を見出せたと実感出来るかもしれません。

 そうなる為にも、私は今一度気合を入れ直す必要がありそうですね。

「んっ……‼︎」

 ほっぺを思いっ切り両手で叩いて、闘魂を注入していく。

「…………よしっ、負けるな日向風玲亜」

 私は周りに聞かれない声量で、とても静かな決意をみなぎらせていくのです。


「はぁ、疲れましたね……」

 夜になって、部屋のベッドに寝間着姿で倒れ込んでスマホの画面を覗き込む。あかりさんにいつでも電話出来る様になってて、今の時間を確認してから少しふやけた指で電話をかけようと指を近付ける。

『〜♪』

 電話をかけようとした瞬間、あかりさんから電話が掛かってきた。まさかと思いつつも落ち着いてボタンを押して耳を近付けて、あかりさんの声に寄り添う。

「はい、日向です」

『あ、もしもし? あかりなんだけど…… あのね風玲亜ちゃん。私ね、一星大学へ入学しようと思うんだ』

 普段とは違って、とても真剣なトーンの声色。あかりさんは私と同じ一星大学へ行くと決めたんだと悟りながらも、平静を装って声を出す。

「あかりさんが一星に……? もちろん本気、ですよね?」

『うん、私は本気だよ』

 あかりさんが、偏差値高めだと知ってもなお一星大学へ入学を決意する。それを知れただけでも涙が出そうだった。少なくとも私はあかりさんに頼られてるし、信用されてるんだと思うと尚更だった。

『あそこの歯学部に少し興味が沸いてね、だからそこへ見学しに行く事にしたんだ。私は明後日の金曜日に見学するんだけど、風玲亜ちゃんはいつ見学に行くの?』

「あ、私も明後日の金曜日に……」

『え、ホント⁉︎ じゃ、じゃあさ…… 明後日は私と一緒に見学行かない? 八王子駅に朝七時集合って事でさ』

「はい、では明後日の朝七時に八王子駅集合で」

 それから軽く夜寝る前の挨拶を交わしてから電話を切った。そして通話が終了した画面を数秒見つめてから、スマホを手にしたまま天井を見上げる。

「私も、今まで以上に頑張らないといけませんね」


 朝早くから八王子駅から電車に乗り、バスに乗り継いでやって来たのは一星大学。その佇まいはとても巨大で立派そのもの、思わず見惚れてしまいました……

「こんな所に、私が入学……?」

 あかりさんが一星大学に圧倒され、少し弱気になってしまう。ですが私はこういう時どうすれば安心させられるかを知っています。

「うわっ⁉︎」

 恋人繋ぎをするだけ。しっかりと指も絡ませて、私が付いているアピールもさり気なくです。

「風玲亜ちゃん…… うん、ありがとう」

「それじゃあ、行きましょうか」

 お互いに覚悟を決め、ゆっくりと一歩を踏み出す。これって何だか共に目標へ歩んでいく恋人同士、みたいですね。

©️2021 華永夢倶楽部/三色ライト

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